135 もふもふうさぎパラダイス!
「すごい……っ! 可愛いっ!」
白、黒、茶色、灰色……。さまざまな色と種類のうさぎ達が遊んでいるうさぎパラダイスに、思わず弾んだ声が出る。
別にうさぎが大好きってわけじゃないけど……。これはかなり可愛いぞっ!
と、一匹の白いうさぎがぴょこぴょこと俺達の足元へ跳ねてくる。
エキューが俺とつないでいた手を放すと、そっとうさぎを抱き上げた。
「よかったぁ、喜んでもらえたみたいで。学園内だと、できることも限られるでしょ? どうやったらハルシエルちゃんに喜んでもらえるかなって悩んでたんだけど、うさぎが好きって教えてもらったから、さ」
抱き上げたうさぎに半分顔をうずめて、エキューがはにかむ。
か、可愛い……っ! こんなにうさぎが似合う男子高校生なんて、初めて見たぞ! かっわいいなぁ、エキューは!
……でも。すまん、エキュー。うさぎが好きっていうのは、イゼリア嬢が好きだから言っただけで、俺は別に一番好きな動物ってわけじゃないんだ……。
いやっ、イゼリア嬢は誰よりも何よりも大好きだけどなっ!
ああっ、でもここにイゼリア嬢がいてくれたなら素敵だろうなぁ~っ!
エキューみたいに、うさぎを抱っこして満面の笑みを見せてくれないかな……っ!
「ハルシエルちゃん、どうしたの?」
エキューに問われて、妄想にふけっていた俺は、はっと我に返る。
いけねえいけねえ、イゼリア嬢とうさぎの組み合わせを想像して、思わず天国への扉を開きそうになってたぜ……っ!
さすがにそれは、エキューに失礼だ。
っていうか、ありがとうエキュー! このアイデア、いただくぜ!
次にイゼリア嬢とデートする機会があったら、うさぎカフェとか、移動動物園に行くことにする!
「はい。ハルシエルちゃんも抱っこしてみない?」
エキューが笑顔で抱っこしていた白うさぎを差し出してくる。
「あ、ありがとう……」
俺はおそるおそるうさぎを受け取る。ペットを飼った経験なんてないので、動物にふれる機会なんて滅多にない。おっかなびっくり、落とさないようにうさぎを胸に抱き寄せ。
「うわぁ……っ」
想像以上のもふもふ加減に、感動の声が出る。
ふわふわの柔らかな毛に包まれた小さな身体。とくとくと感じられる鼓動とあたたかな重みが、命あるものの存在を感じさせてくれる。
「か、可愛い……っ!」
大人しい性格なのか、白うさぎは嫌がるそぶりも見せず、大人しく俺に抱かれてくれる。ぴすぴすと鼻をうごめかしながら俺を見上げる様子が、超可愛い。
きゅるるんと俺を見上げるつぶらな瞳に映っているのは、うさぎの可愛さにとろけきっているハルシエルの笑顔だ。
うさぎなんて、今まで抱っこしたことはおろか、さわったことすらなかったけど……っ!
何このヤバ可愛い生き物! 可愛さで俺の理性を
ふわっふわのなめらかな毛を、片手でそっと撫でてみる。
うわ~っ、このもふもふ具合、ものっすごく癒される~っ!
ストレスがゆるゆるとほどけていく感覚に、無心で撫で続けていると、エキューがくすくすと笑う声が聞こえた。
「ふふっ、ハルシエルちゃんってば、ほんとにうさぎが好きなんだね。よかった、喜んでもらえたみたいで。安心したよ」
エキューがほっとしたように表情を緩める。
ほんとは、うさぎが好きなのは俺じゃなくてイゼリア嬢なんだけどな。でも……。
「ありがとう、エキュー君。すごく、可愛い」
ぎゅっとうさぎを抱きしめて笑うと、なぜかエキューが固まった。愛らしい顔が、うっすらと赤く染まる。
「もうっ! 可愛いのはハルシエルちゃんのほうだよっ。……あー、ハルシエルちゃんの可愛さにやられてくらくらしそう……」
後半の呟きは、エキューが両手て顔を覆ってしまったのでよく聞こえなかった。と、エキューが「ちょっと待っててね」とテーブルに駆けていく。
戻ってきた時には、バスケットを手にしていた。
「立ちっぱなしじゃのんびりできないでしょ? 座って座って」
ふぁさ、とバスケットから出した小さめのラグを芝生の上に敷いてくれる。
俺がうさぎを抱いたまま腰を下ろすと、隣に並んで座ったエキューが、「後はね……。これっ!」と、バスケットの中から、棒状に切ったにんじんがたくさん入ったグラスを取り出した。どうやらうさぎ用のエサらしい。
「はい、どうぞ」
と一本渡してくれる。
「あげてもいいの?」
「もちろんだよ。ほら、ハルシエルちゃんを待ってるよ」
妙に腕の中でうさぎがもぞもぞしていると思ったら、せいいっぱい首を伸ばしてひくひくと鼻をうごめかせていた。
「わ、ごめんね。はい、どうぞ」
うさぎの口元ににんじんを持っていってやると、待っていました! とばかりににんじんにかじりつく。
はむはむはむはむ、と無心にかじっている様が……。か、可愛すぎる――っ!
うさぎの可愛さにでれでれになっていた俺は、気づかなかった。
「あっ、ハルシエルちゃん!」
「え……!? ひゃああっ!?」
エキューのあわてた声に顔を上げた時には、目の前ににんじんを狙ううさぎの群れが迫っていた。
「わあっ、待って待って!」
あわてて押し留めようとするが、もちろんうさぎに言葉が通じるはずもなく。
「わっ、わっ」
わらわらとのしかかってくるうさぎの勢いに思わずのけぞると、バランスを崩した。抱いていた白うさぎが腕の中からぴょんと逃げ出す。
後ろに転ぶ、と身構えた瞬間、ぐいっと腕を引かれる。
「きゃっ」
ぎゅっと抱きしめられたと思った時には、俺はエキューに覆いかぶさるような格好で、芝生の上に倒れ込んでいた。
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