第45話

え、なんで?

まず思ったのはそれだった。

もちろん僕は本なんて持ってない。

槍なら持ってるけど。

というか、鏡の中の僕が持っている本はどこかで見たことがある。

これは……漫画?

あぁ、そうだ。僕がよく読んでた漫画だ。

元の世界で。

最後に読んでからどれくらい経ったのだろう。

なぜか、懐かしいという思いがふつふつと湧いてきた。

もうこの漫画は読めないのだろうか。

僕は元の世界へ帰れるのだろうか。

そんな事を思っていると、ふいに鏡の中の僕が動いた。

僕に向かって鏡の中の僕が手を伸ばしてきた。

そう、漫画を持っている方の手だ。

僕に漫画を渡そうとしているのか?

僕は今、槍を持っている。

いつでも戦えるようにしっかりと両手で握っている。

もしこの漫画を受け取るなら、僕は槍から手を離さなければならない。

でも、そうしたらこの鏡の中の僕が何かしてきた時にすぐに対処できない。

どうしようか。

もうこの機会を逃したら二度とこれは読めないのか?

無意識のうちに手が漫画へと伸びる。

鏡の中の僕が無表情で僕を見ている。

………

でも、僕は漫画に向かって伸ばしかけていた手を止め、しっかりと槍を構え直した。

漫画は必ず元の世界に戻ってから読むんだ。

必ず。

これが僕の答えだ。

すると、鏡の中の僕はまるでそれが正解だとでも言わんばかりにニヤッと笑い、

そのとたん鏡は後ろへ倒れ、粉々に砕け散った。

鏡は消え去り、小さな青い石が残った。

僕はそれを黄色い石が入っているのとは反対側のポケットに入れ、

なんとも言えないような気持ちで部屋の奥へと行った。

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