第3話 冒険者になっての初めてのお仕事

「おう、比呂貴か。待っておったぞ!」

 ファテマは椅子から立ち上がり比呂貴を迎えた。

「ファテマさんどうしたの? その子?」

「ふむ。なんと、儂とアイリスへの仕事の依頼じゃて! まあ、儂もロキと行動を共にしておるからな。一応報告しておかねばと思ってな。

 で、名前は………、なんじゃったかのう?」


 ファテマに振られた亜人の女の子。身だしなみはとても整っていて品があるような感じだ。緊張からかわからないがちょっとビクビクと怯えているようにも感じる。

「わ、私はビジーといいます。実は兄弟が流行の病気になってしまって、あ、病気自体は薬があれば簡単に治るものなのですが、その薬の材料が無いということで。

 ノンリミットの中間地点に生息している薬草なんですが、それを取って来て欲しいのが今回の依頼です。」


「えっと、ノンリミットって何?」

 比呂貴は当然のことで質問をする。

「ああ、ノンリミットは、国によってはウォールと呼ぶらしいのじゃが、ロキも空を飛んでいたときに遠くにうっすらと見えておったじゃろう?

 あれは岩山の山脈になっており、すべての生物では越えることが不可能と言われておる。なのでそんな名前が付いておるのじゃ。」


「へぇ。なるほどね。」

 比呂貴は納得した。そしてビジーは引き続き話を続ける。

「それで、シルフィードのふたつ名を持つファテマさんなら簡単に取ってくることが出来ると思って来たんです。」

「へぇ。ファテマさん。最近はシルフィードなんて呼ばれちゃってるんですか?

 ちょっと、風の妖精とかめちゃかっこいいじゃん!」

 比呂貴が感心しながら言う。

「ふふん。そうじゃろうて! 確かに儂とアイリスならたやすい仕事じゃな。」

 ファテマもドヤッとしている。モフモフ尻尾も喜んでいるようである。


「確かにシルフィードはファテマさんのあの真っ白な馬体にもぴったりだと思うけど、でも、一言突っ込みたいのは、実際の運転は風の妖精よりも風の暴力だよ。ハリケーンとかのほうが実態に合っている!」

 比呂貴が真顔でツッコミを入れる。そしてそれに対してレイムも激しく頷いていた。

「ロキ、レイム。お主らと来たら。そんなに儂と一緒に空の旅をしたいと見える。」

 ファテマは引きつった笑顔で二人に言う。

「え? あ、嘘です。冗談です。ファテマさんはシルフィードです! 間違いありません!」

 ファテマの言葉に比呂貴とレイムはガクブルで手を取りながら言った。ドラゴンスレイヤーもファテマの前ではただのおっさんであった。


「で、アイリはどうしたのじゃ?」

 ファテマが二人に尋ねる。これに比呂貴が答える。

「あ、アイリスは近くの公園で魔法の練習をしているよ。お昼ごろまでには戻ってくると思うよ。」

「そうか。

 それで依頼は受けようと思うのじゃがどうかのう?

 一応、冒険者じゃからな。困っている人がおって儂の力で解決できるのであれば力になりたいと思う。」

「うんうん。いかにもファテマらしい答えだよね。良いと思うよ。」


「本当ですか? ありがとうございます! もうほんと、断られたらどうしようかと思いました。」

 ビジーはホッとしたような表情で答えた。

「で、報酬はどうするの?」

 レイムが話に割ってきた。さすがに実際に冒険者の経験がある。そういうところはしっかりとしているようである。


「あ、すいません。一番大切なことを………。

 一応、親からはいくらかかっても構わないと言われています。それと私だと相場みたいなものがわからなくて。」

 そう言って、ビジーはお金が入っている袋を取り出した。金貨と銀貨が数十枚ずつ入っているようである。

 身だしなみも綺麗な服装とアクセサリーを付けているので相当なお嬢さまということが推測される。


「うーん。そう言われると儂も相場観はわからんのう。レイムだったらどうする?」

 ファテマがレイムに助けを求める。

「うーん、めっちゃ難しいわね。これ、私とかロキだったらまず達成不可能なクエストよね。金貨いくらあっても出来ないわ。

 でも、ファテマちゃんとアイリスちゃんなら一日くらいで出来ちゃうってことでしょ?

 ああ、そうだ! 難易度で金額を提示は出来ないけど、一般的にゴールド級の冒険者を一日護衛につけるとかのクエストは金貨一枚くらいだったかしら?

 まあ、とても有名な冒険者なら三枚くらい取ってる人もいるかな?」


「なるほど。大変参考になったわい。流石はレイムじゃのう。儂はゴールド級といっても実質の冒険者経験はゼロじゃ。それはアイリスも同じ。ふたりで金貨一枚ってところが妥当かのう。」

 ファテマが金額を決めた。それに対して比呂貴は思う。

『いやー、こんな状況、なんぼでもぼったくることが出来るのに、それをやらないファテマとレイムは本当に根が正直で正義感で溢れているよな。

 オレならもっとぼったくるよ。女子供関係なくね。いやー、オレの方がよっぽどゲスイよな………。』


 そうこうやりとりをしているとちょうどアイリスが帰ってきた。全員アイリスに大注目である。

「え? なに? みんなして私を見て。ちょっと怖いんだけど!?」

 アイリスは顔を引きつらせて後ずさりした。

 そんなアイリスにファテマは事情を説明した。


「じゃあ、儂らはお昼ご飯を食べたら早速出掛けるとするよ。薬草の場所も大体は見当が付いておるし、早ければ深夜には、遅くても明日の朝までには戻ってこれるじゃろう。

 お主らと違って、アイリとなら本気出して走れるからな。」

 ファテマが言った。

「え? マジ? お姉ちゃんの本気!? こっ、これはヤバいわ!」

 隣でアイリスが興奮で目がギラギラしていた。


「あ、アイリスもそんなに興奮するんだな。珍しいものを見たよ。」

 比呂貴がボソッと細目で言う。

「何言っているの! 当たり前じゃない! お姉ちゃんの本気なんて私も乗ったこと無いわよ!

 楽しみになっちゃうのは当たり前でしょ!」

 アイリスは腕を激しく振りながら答える。そしてどさくさに紛れてレイムが言う。

「え? じゃあ、私抱き着いちゃっていい?」

「そんなのダメに決まってるでしょ!」

 セリフはいつものアイリスだが、語気は強く、そしてなんとレイムのお尻を叩いた。

「ひゃん! アイリスちゃんが私のおしりを! これは私もヤバいわ。興奮しちゃうわよ♪」


 おしりをブタれて大喜びの変態レイム置いといて、ビジーも含めみんなは一緒に昼食をシューのお店で取ることにした。

 そして昼食後、シューのお店の前でファテマとアイリスを見送る。

「それでは行ってくるぞ!」

 ファテマはすでにユニコーンの姿になりアイリスを乗せている。いつ見てもユニコーンのファテマは美しくカッコいい!

 まさに風の妖精シルフィードのふたつ名にピッタリであろう。

「行ってらっしゃい! ファテマさん。気を付けてね。」

「アイリスちゃんも気を付けてね!」

 二人は見送った。そしてあっという間に見えなくなった。


「行っちゃったね。本当に瞬殺で見えなくなったよ。」

 比呂貴はボソッと呟く。

「本当よね。あのスピードでどうやって意識が保てるんだろう。不思議でしょうがないわ。」

 レイムも遠い目をしながら答えた。

「さて、ダンの宿に戻るか。そういやビジーちゃんはこの後どうするの?」

「え? あっ、あのう。特に決めてなかったです。」

 アタフタしながらビジーは答えた。


「いや、さっきからだけど、別にそんな怖がらなくても良いよ。別に取って食いはしないから。」

 比呂貴は苦笑いで答える。

「えっ、あ、あのう。ごめんなさい。そんなつもりは。」

 やっぱりアタフタしながら答えるビジーである。それに対してニヤニヤとレイムが言う。

「いやーー、わかんないよ。ロキってば幼女主義者の超変態だし、ビジーちゃんとっても小さくて可愛いから食べられちゃうかもよ?」


「ちょっ、お前! 確かにオレはロリっ、げぶんごふん。子供が大好きだが流石に犯罪になるようなことはしないから!

 さっきから、そのモフモフ尻尾が気になっているなんてちっても思ってないから!」

「えっと、あっと、こんな尻尾で良ければですけど触りますか?」

 顔を赤らめて恐る恐る尋ねるビジー。そして尻尾を差し出す。


「え!? マジで? 本当に良いの?」

 比呂貴の表情がパッと明るくなる。それに対してレイムが釘を刺す。

「えええ? そんなことしちゃって良いのかなあ? ファテマちゃんの尻尾一筋じゃ無かったの?

 これは明らかに浮気じゃん! ファテマちゃんにチクッてやろう!」

「なっ、レイム、さっきから痛いところばかり!」

「ふふふん♪ いま私、ロキを問い詰めているわ! これはめっちゃ気持ちが良いわね!」


「いや、まあ、実際はそんなことしませんけどね。」

 普通に答える比呂貴。

「なんやねん! 結局しないんかい!」

 レイムは謎の関西弁でツッコミを入れる。

 そうこうしているうちにダンの宿屋に戻って来た。

「じゃあ、話戻るけど、ビジーちゃんも今晩はダンの宿屋に泊まりなよ。どっちにしてもファテマさん今日戻ってきても夜だしさ。」

「はい。そうします。」

 そうしてビジーはダンの宿で部屋を借り、そのまま部屋に入って行った。


 そしてロビーに残る比呂貴とレイムだが、。比呂貴はもともとのダンへの依頼を思い出した。

「ダン! 今ちょっと良いかい?」

「なんだい?」

 比呂貴の呼びかけにダンはフロントから出てきた。

「ちょっと頼み、いや、これは仕事の依頼をしたいんだけど。」

「ほうほう。なんだい? ロキのダンナの依頼だ。オレに出来ることならなんでもするぜ!」

「ありがとう! 実はレッドドラゴンの住処を探したいんだがどうにかなるか?」


「レッドドラゴンの住処!? うーん、少なくともオレはわからんなあ。でもまたなんで急に?

 この前、倒したんじゃないのか?」

「うん。いい加減、追われる毎日をどうにかしたいかなって。大人のドラゴンなら人間とも会話できるんでしょ?

 ということで、直談判しに行こうと思って。」


「ひぇーー。ドラゴンに直談判とか、もう、発想が次元を超えているよ。

 でもまあ、わかった。そう言うことならちょっと調べてみることにするよ。ただ、何分こんなこと初めてなんで時間はとても掛かると思うよ。それは勘弁してくれ。」

「ああ、それなら問題ないよ。しばらくはドラゴンも来ないでしょうしね。」

「わかったよ。それじゃあ、オレは仕事に戻るよ。」

 そう言ってダンはフロントに戻っていった。


「さて、ファテマもアイリスもいないし一気に暇になったな。レイムはどうするよ?」

「うーん、部屋でゴロゴロしてる。」

「じゃあ、オレもせっかくだし文字の勉強と魔法の理屈作りの続きするかな!」

 そう言って二人は部屋に戻っていった。



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