第2話 帰宅。束の間の休息②そして、

 と、一通りの話の区切りが付いた時に先ほど比呂貴の隣のベッドで寝ていたレイムがやってきた。

 まさにみんなを紹介するためのタイミングかの如くである。

「おーい! やっぱりここにいたんだ! ロキってばアイリスちゃんと一緒でズルいよ!」

「もう、レイムってば、今はロキに魔法について教えて貰ってたの。魔族のくせにろくな魔法が使えないんだから邪魔しないでよ!」

 アイリスはせっかく来たレイムに対して開口一番、無慈悲な言葉を浴びせる。


「がーーーん。アイリスちゃん。とってもヒドス………。」

 レイムはしょんぼりその場でしゃがんでいじけてしまった。

「あら? ちょっと言い過ぎたかしら?」

「じゃあ、ギュッてしてもいい?」

 レイムは子供のように目を輝かせて言った。

「ダメに決まってんじゃん。もう、ちょっと優しい言葉掛けるとこれなんだから。」

 アイリスはやれやれと呆れるのである。


「はいはい。いつもの漫才はこの辺で良いよね? それと魔法に関しては良いよね?」

 比呂貴がアイリスに尋ねる。

「うん。ありがとう。でも、またいっぱい聞くからね。」

「わかった。まあ、あんまり教えられることは無いんだけどね。あと、オレは宿に戻るけどどうする?」

「私はもうちょっとここでさっきの奴を練習しているよ。」

「わかったよ。宿に戻ったらファテマにも言っておくね。まあ、お昼までには戻って来てね!」


「じゃあ、今度は私がアイリスと遊ぶ番だな。」

 どさくさに紛れドヤ顔でレイムが言う。

「これこれ、アイリスは魔法の勉強中なんだから邪魔しないように。遊びたいならオレが遊んでやるから。」

 比呂貴はそう言ってレイムの腕を引っ張って公園を後にした。

「イタイイタイ!

 っていうか、私もアイリスちゃんと遊びたいよー!」

「だから、遊んでたんじゃないから! ほれ、行くよ。」


 今、手を引っ張っているこの子は「レイム」という。

 頭には巻角がふたつ。そして細い一本の尻尾がありその先にはハートのようなスペードのようなマークの形になっている。

 目はキリッとしているが、大きな瞳でどちらかというと可愛い系に部類されるであろう。髪はとても濃い紺色で緩い感じで前髪があり、ふたつの巻角のところでぴょこんと髪が出ている。巻角が髪を縛っているようにも見える。それ以外はとても長い髪で背中というか、お尻までゆるふわっと垂れている感じである。


 身長は百六十センチくらいだろうか? 体のラインも胸は大きい、しかし、だらしなく大きいわけでも無い。そしてくびれもしっかりあり、お尻のラインもとても美しい。普段はその体のラインをあえて強調するようなレオタードのような衣装を着ている。

 外見に関しては黙っていれば相当な美少女だと思う。そう、黙っていれば………。本当に残念である。


 そして、先ほどアイリスも言っていたがレイムは魔族である。そう、サキュバスなのである。しかし、魔族の癖にろくな魔法が使えない。主に壁のすり抜けが出来ると言ったところみたいである。その壁抜けも魔法というよりも魔族の特性みたいなものである。

 サキュバスというと、チャームにより相手を魅了するという代表的な魔法があるのだが、それすらも使えないらしい。


 その癖、魔力補給も必要だし、ご飯もよく食べる。あ、先ほど比呂貴と同じ部屋に寝ていたのも、比呂貴は普段から魔力がダダ漏れているらしい。近くにいるだけでそれを吸収できるということなので同じ部屋にいるだけなのである。

 そうなんです。この子、ポンコツなんです。でも可愛い奴なんです。ダメな子ほどなんとやらってやつなんです。


 あとは、さっきもアイリスにやたら絡んでいたんだけど、アイリスのことが大好き過ぎるのである。どうやら一目惚れというヤツらしい。まあ、確かに可愛いからね。アイリスは。

 で、アイリスはというと、基本的にお姉ちゃんであるファテマは大好きなのだが、それ以外は興味がないという。

 それで、先ほどみたいにレイムは男子中学生が好きな子にちょっかい出すようなことをするのだが、ことごとくスルーされるという漫才みたいな事象が発生するのである。


「あ、そういやさっきオレ、アイリスにおんぶして貰った。とても抱き心地良かった。それになんか良い香りがした!」

 不意にボソッと比呂貴は言った。

「なっ!? 嘘でしょ?

 なんてうらやま、いや、けしからん! この変態! 幼女主義者!」

 レイムはびっくりした表情で比呂貴をまくしたてる。そしてポカポカと叩くのであった。

「えっ!? まあ、おれはロリ………、んっ、うん! 子供が大好きだからね。それくらい当たり前じゃん。」

 比呂貴は謎な開き直りで今度はドヤ顔でレイムに返した。

 レイムはさらに怒って高速でポカポカと叩いている。


 しかし、比呂貴は以前にドルクマン王国に勉強の教材とこの世界の情報を得るために出かけたことがあるのだが、レイムはそのドルクマン王国で冒険者をしていたってこともあり、とても役に立っていたのである。

 やることなすことはポンコツなのだが、しかし、地味なところでは役に立つ奴でもある。そんなキャラのレイムなのでみんなはすっかりレイムのことが大好きである。チャームの魔法を使わなくても魅力あふれる女の子である。


 あと、オレのことをもうちょっと補足しておこうかな?

 この世界に来て右も左もわからない状態でファテマと出会い、いきなり幼生のドラゴンに襲われるっていうデタラメイベントに遭遇したんだけど、ファテマと協力してなんとか退けたんだよね。

 協力って言っても案は自分で考えて、実行はすべてファテマに丸投げだったけど。


 その後、アイリスとレイムに出会い、その間にこの世界のことと魔法についていろいろと勉強していたわけですよ。

 そしてこの世界での人間の最大の国、ベアーテ・エンデル連合王国の首都。エンデルに遊びに行ってた時である。

 ドラゴンも滅多には人間の国には来ないのだが、例の幼生のドラゴンがファテマとアイリスを狙ってやってきたのである。


 今度のオレはそれなりにドラゴン退治の準備はしていたので戦闘に参加したのである。そしてみんなの協力も得てなんとかドラゴンを撃破したのである。

 副産物となるのかな? ドラゴンを撃破したことでいろいろと得た。まずは戦闘中に大量の返り血を浴びて凄い量の血を飲んでしまった。そのことによりドラゴンの能力を得てしまったのである。主には自己修復能力と膨大な魔力であろうか?

 あと、エンデル国王から市民権とドルクマン王国からはプラチナ級のプレートを受領した。プラチナ級は過去ドルクマン本人のみでオレが二人目の授与である。


 そうやってオレがドラゴンを倒してしまったので、みんなはオレのことを



『ドラゴンスレイヤーのロキ』



 と呼ぶようになり、一躍有名人になってしまったのである。


 それで、首都エンデルを後にしたのだが当面の新しい目標はレッドドラゴンの住処を探すこと。そしてこれ以上、自分たちにちょっかいを出さないことを交渉するのである。

 ダンの宿屋に戻って来たのも、ダンは副業で情報屋もやっているということなのでその辺の情報を探してもらおうと思ってのことである。



「そういやレイムは遊ばなくて良いのか? 今なら暇だから絶賛遊んでやるぞ?」

 なんとなく宿屋に向かっていた比呂貴だが、レイムに尋ねた。

「え? 別にもういいわよ。ロキと遊んでもどうせ色々とからかわれて悔しい思いするだけだもん。」

「それってレイムがポンコツなんだもん。しょーがないじゃん!」

「ぐぬぬぅぅ。いつかギャフンと言わせてやるんだからね!」

「ええ? そんなことで言いの? じゃあ、言ってあげるよ。

 ギャフン♪」

「くううう! そう言うところよ! まったくもう!」


 と、この二人も漫才らしきものをしながら宿に帰ってきた。宿の扉を開いたら、ファテマがロビーにいたのと、そして亜人の少女がファテマの向かい側に座っていた。

「あれ? ファテマさん。その子はどうしたの?」

 比呂貴は早速ファテマに聞いた。

「ふふふん! なんと、儂とアイリに仕事の依頼じゃ!」



 新しいなにかの始まりを予感するのであった。



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