お隣さんの純情ギャルが美味しく頂いてくれるので
みかん屋
第一章 金髪ギャルがお隣さんだったので
第1話
人は一人では生きていけないが、たとえ一人でも生きなければならない。
そんな矛盾した格言は一体だれの言葉なのか?
僕の父の言葉である。
高校進学の決定と共に、僕に一人暮らしを命じた父。
社会勉強の一環なんて言っていたが、これは放任主義の極みではないだろうか。
確かに、こうして一人暮らしをしてみて母親の偉大さは痛感している。
掃除に洗濯、そして料理とやることが多い。
しかし、前二つは自分でやるしかないが料理については別にどうとでもなる。
現代社会にはコンビニとスーパーという心強い味方が存在する。
実家に居た時でさえほとんど台所に立つ機会の無かった僕が、こうして引っ越ししてから今日の入学式を無事に迎えることができたのはコンビニとスーパーのおかげなのだ。
ありがとう、コンビニエンスストア。素晴らしき資本主義経済。
そんな馬鹿なことを考えながら、今日から通うことになる高校の門を通過した。
そして、入学案内をカバンから取り出して開く。
1年A組、出席番号14番。
昇降口で自分のクラスと番号を確認し、割り当てられた下駄箱を探して靴を放り込む。
階段を三階まで上がり廊下の端にある教室へ向かった。
すでに何人もの僕と同じ新入生が登校しており、廊下は彼らで賑わっている。
同じ中学の子とすれ違うときは簡単な挨拶だけするが、真っ直ぐ自分の教室へ入った。
教室の最後尾、窓側から2列目が僕の席だ。
教壇から離れているのがなんとなく嬉しい。
カバンを机の横に掛けて椅子に座る。
まだ時間に余裕があるので、他のクラスになった友達に挨拶にでも行こうかと考えたが、窓側から差し込む春の陽気が僕から行動力を奪い取る。
そうして、開いた窓から吹き込む春風を感じながら、窓の外をぼーっと眺めていた時だった。
「――――!」
僕の目の前に現れたのは輝くような髪の女の子だった。
春の日差しを束ねたような金色の髪、腰まで伸びた長いそれが吹き込む風に優しく揺れて僕の視界を染める。
耳元の銀に輝くピアスが、太陽の輝きを反射しているように見えた。
気崩した制服の上着から、すらっとした首元が覗けてしまいそうで、短く折られたスカートと相まって僕の心をドキリとさせる。
不意にこちらを向いた彼女と視線が交差すると、僕の心臓は高鳴ったように思う。
長いまつげが彼女のキリっとした目元を際立たせる。その瞳は宝石の様に紅く、そのまま見つめていると吸い込まれそうに感じた。
言葉を失った僕がそのままジッと見つめていると、彼女はその薄い桃色の唇とゆっくりと動かした。
「おはよ!」
瞬間、僕の頭はその機能を取り戻す。
「おはようございます」
僕がそう返すと、彼女は光の様に輝く髪に相応しい太陽の様に温かな笑みを浮かべる。
「ね、何見てたの?」
僕の視線の先、つまり窓の方へ振り返りながら彼女は言った。
僕は、正直窓の外の景色の事などどうでもよくなっていたのだが、本音をぶちまける訳にはいかなかった。
「日差しが心地いいなと思いまして」
「だよねー、今日めっちゃいい天気だし!」
そう言うと彼女はニコリと笑う。
僕は、なるべく平静を保ちながら言う。
「ええ、入学式ですし、晴れてよかったです」
「雨だったらテンション下がるもんね」
そう言いながら彼女は手にしたカバンを僕の隣の机に放り投げると、その席に座った。
「あーしは、“
そう言って彼女はその右手を差し出す。
陶磁器の様に白くて繊細な指は、派手過ぎないピンク色のネイルで彩られている。
僕はその手を握り返しながら答える。
「“
桂川さんが僕の手を優しく握り返す。
そして、晴れやかな笑みを浮かべて言う。
「お隣さんだね」
それが、僕と桂川さんの出会いだった。
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