第42話

「ねえ、ルーク。

 国にまで行くことないわ。

 我が国とトーレス王国から追放するだけでいいじゃない」


「ダメだよ、お姉ちゃん。

 あいつらはお姉ちゃんの注意を無視したんだよ。

 絶対に許せないよ」


 ルークが深く静かに怒っています。

 何度も何度も話しかけて、ようやく返事してくれる状態です。

 今まではどれほど怒っていても、私が話しかけたら必ず返事してくれました。

 でも今回は、返事をしてくれないのです。


 それでもあきらめずに、何度も何度も話しかけて、少しづつ何にそれほど怒っているかを聞き出す事に成功しました。

 最初に怒ったのは、悪口を言われた事なので、疣臭豚に変化させても、いつも通り一週間で元に戻していたそうです。


 ですが、私がその事を各国全権王族大使の家臣に警告したにもかかわらず、それを無視して悪口を言った事が許せないと言うのです。

 私を蔑ろにするようなモノは、人間として認めないと言うのです。

 本気で怒って、一週間しても元に戻さないと、今度は本国から煩く言ってくるようになったのが、更に許せないと言うのです。


 確かにルークの言う通りなのかもしれません。

 最初はルークを畏れていた各国王族も、何をしても一時的に化物に変化させられるだけで、必ず元に戻してもらえる。

 決して殺されることはないと、ルークを軽く見ている節がありました。

 だからこそ、元に戻してくれと平気で使者を送って来れるのでしょう。


 昔のように畏れているのなら、本国にまで損害が及ぶ可能性があるのに、ルークに使者を送って火に油を注ぐような真似はしないでしょう。

 私がルークを抑えてしまった事で、ルークが軽く見られていた事に思い至って、正直愕然としました。


 軽くみられると言うのは、貴族としても絶対にあってはならない事なのです。

 隣接している貴族が相手なら、領地を奪われる可能性があります。

 領地は守れても、交易で不利益な条件を押し付けられるかもしれません。

 王都で交流するだけの貴族でも、軽く見られたらどんな無理難題を押し付けられるか分かりません。


 まして今は、小なりとは言え一国の女王と王弟なのです。

 絶対になめられてはいけないのです。

 最初は少し気持ち悪いと思ってしまいましたが、今では半人間達も可愛く思えています。

 彼らを護らなければいけない責任があるのです。

 トーレス王国の民も、ルーク次第で隣国の侵攻の犠牲になるかもしれないのです。


 私は決意しました。

 私やルークと少しでも縁のある民を不幸にしないために、縁のない民を不幸にすると!

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