第26話

 国王とムーア子爵が、わずかな騎士に護られて逃げてきました。

 ここに辿り着くまで、随分と苦労されたようです。

 地方領主の貴族達にも裏切られ、何度も命の危機があったそうです。

 その所為か酷い姿です。

 風呂も水浴びもできなかったのか、ちょっと臭います。


「ルーク辺境伯殿。

 謀叛人を討って頂きたい」


「えぇぇぇぇ。

 めんどくさいよ」


 ムーア子爵がルークと話し合っています。

 話し合いと言うよりは、懇願しています。

 国王が命じてルークに断られたら、取り返しのつかない屈辱になります。

 いえ、今の状態だと、王位を否定されかねない大事件となってしまいます。

 だから事前交渉しているのでしょう。


「ルーク辺境伯殿。

 謀叛人を討ち滅ぼしてくれたら、貴殿を大公に封じ、隣国との交流交易の自由も認めていいと、陛下は御考えです」


「えぇぇぇぇ。

 めんどくさいよ。

 それよりお姉ちゃんを御姫様にしてよ」


 ちょっとルーク。

 それは言い過ぎだよ。

 御姫様と言ったら王女の事じゃないの。

 いくら何でも独立させろなんて言い過ぎ!


「……領地は与えられないです。

 ルーク辺境伯殿の大魔境と、オリビア辺境伯殿の領地。

 それだけの領地でよければ、独立を認め、隣国にもその旨伝えましょう」


「本当?

 やったー!

 これでお姉ちゃんは御姫様だ!」


 ちょっと待って、ちょっと待って、ちょっと待って!

 いくらなんでも簡単過ぎです。

 ですがそれも仕方ない事なのかもしれません。

 ここまで追い詰められたら、形振り構っていられないのでしょう。


 こまごまとした交渉は、私とムーア子爵で詰めました。

 ルークの言う事には少々無理があったからです。

 分離独立以上に難しかったのは、私とルークの関係でした。

 ルークは私の方が上でないと嫌だと言いつつ、私が御姫様でなければ嫌だとも言うのです。


 これは流石に無理な話です。

 私がルークの上になると言うなら、私が女王として治める国になります。

 私を御姫様にしたいのなら、ルークが王となり、私を王姉として御姫様にしなければいけません。

 私とムーア子爵でよく説明したのですが、なかなか理解してくれません。


「ねえルーク。

 ルークが王様になって私を護って欲しいな。

 そうすれば、私は御姫様になれるの。

 王様になっても、めんどくさい事はみんな私がやってあげる。

 だからルークが王様で、私が御姫様で行こうね」


「分かった。

 お姉ちゃんがその方がいいなら、そうする」


 最初は色々説得しましたが、そんな堅い話をするよりは、最初から私が御願いした方が簡単だったようです。

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