第25話第三者視点

 王都では、ナオミに誑かされた男達が中心となって、叛乱が勃発した。

 狂気に囚われていたのだろう。

 王を弑逆しようとまでした。

 まあ、処刑されそうになった王太子から見れば、殺されそうだから仕方なくやったと言い訳できる。


 本来国王に忠誠を尽くすはずの近衛騎士の多くが、謀叛に加担した。

 最初はナオミに対する邪な獣欲が始まりだった。

 それに金と地位が加わった。

 最後に王太子を奉じる事で、大義名分が手に入った。

 名誉を得る、とまでは言えないが、少なくと自分自身への言い訳になった。


「止めて!

 こんな心算であなたを助けたわけではないわ。

 親子仲良く暮らしましょう!

 せめて殺すのは止めて。

 塔への幽閉に留めて!」


 王太子を助けた王妃は必至で王太子を止めた。

 王妃は自分の産んだ王太子が一番大切だったが、国王を憎んでいる訳ではない。

 愛情などない政略結婚だったが、長年夫婦として暮らした情はあったのだ。

 だからこそ、王太子を助けても、父親の国王を殺すという結末など想像もしていなかったのだ。


「黙っていろ!

 あいつは余を殺そうとしたんだ。

 この国の事を憂い、命懸けで正そうとした余をだ!

 生かしておけば誰かが助けて旗印にするかもしれん。

 王太妃を安全な塔に御案内しろ!」


「ダニエル!

 やめて。

 やめなさい!

 お前は母を幽閉すると言うのですか⁉

 私は貴男の命の恩人ですよ⁈

 ダニエル!

 人でなし!」


 王太子は非情だった。

 いや、冷酷や酷薄と言った方がいいかもしれない。

 処刑しようとした父親を殺そうとしているだけではなかった。

 助けてくれた母親を、自分が閉じ込められていた塔に幽閉したのだ。

 母親の事を王太妃と呼び、自分が王だと宣言していた。


 王妃は絶望していた。

 息子がここまで冷酷非情な人間だとは思っていなかったのだ。

 何より恐ろしかったのは、王太子に侍るナオミの眼だった。

 まるで王妃を豚や鼠を見るような目で見ていた。

 本能的に、殺されると直感したのだ。


 一方国王は何とか城から逃げ延びていた。

 多くの奸臣佞臣が早々に王太子に媚び諂ったが、わずかな忠臣が命懸けで護った。

 特にムーア子爵ジェイデン卿が獅子奮迅の活躍をした。

 得意の槍を縦横無尽に振るい、裏切り者の近衛騎士をを斃し、屍の山を築いた。


 だがジェイデン卿の武勇も、形勢を逆転する事はできなかった。

 もし王を護る必要がなければ、王太子を討ち取り、逆転させる事ができただろう。

 だがそうすると、王が討たれてしまう。

 王を護ることを優先すれば、王太子を討ち取る事は断念しなければいけなかった。

 王は躊躇う事なくルークのいる大魔境を目指した。

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