第2話

「王太子殿下。

 その者は領地に不当な税を課し、罪のない娘を乱暴しました。

 父がそれを罰して追放したのです。

 それを逆恨みして、罪を捏造しているのです。

 厳正な捜査を御願い致します」


 王太子の眼が一瞬たじろぎました。

 知っているのです。

 王太子はガルシア公爵家が無罪だと知っているのです!

 茶番なのですね。

 ガルシア公爵家を潰し、富と領地を奪うための陰謀なのですね!


「ええい、黙れ、黙れ!

 見苦しいにも程がある。

 謀叛を企んでおいて、今更言い訳が通用すると思っているのか?!

 近衛兵!

 この者を逮捕して牢に入れろ!」


 この陰謀に国王陛下と王妃殿下は加わっておられるのでしょうか?

 加わっておられないのなら、牢に入れられたとしても、直ぐに解放して頂けるでしょう。

 ですが黙認しておられるのなら、いえ、裏で糸を引いているのが王と王妃なら、そのまま殺されてしまう事でしょう。


 他の貴族の方々はどうなのでしょうか?

 父上や兄上が気がついていなかったのです。

 王家とシモンズ子爵だけで進めた陰謀でしょう。

 他に加わっていたとしても、少数の貴族家のはずです。

 王国の事を想って、諫言してくれる方がおられるかもしれません。


 情けない事です。

 私の視線を受けて、申し訳なさそうに目をそむける方。

 ニヤニヤと面白そうに見つめる方。

 興味なしと冷たい視線を向ける方。

 誰も諫言しようとされません。


 ここまで貴族士族が堕落していたとは思いませんでした。

 トーレス王国は亡国の淵に立っていたのですね。

 この先が見えるようです。

 父上と兄上を国境に引き出したのはベネット王国です。

 シモンズ子爵はベネット王国に内通している可能性があります。


 兄上がついておられる限り、普通の相手に父上が討たれるとは思えません。

 しかしベネット王国が国を挙げて攻め込んできたら、兄上でも防ぎ切れないかもしれません。

 父上と兄上が討たれたら、私も殺されてしまう事でしょう。

 もしかしたら、嬲り者にされるかもしれません。

 でもそうなったら、ルークが黙っていないでしょう。


 世界最強最悪の魔導師と呼ばれるルークです。

 父上と兄上の事など何とも思っていないルークですが、二人が私の後ろ盾になっているのは確かです。

 その父上と兄上を殺されて、ルークが黙っているとは、王家も考えていないでしょう。


 なるほど。

 それで私ですか。

 シスターコンプレックスのルークの動きを抑えるために、私を人質にするのですね。


 私を人質にさえできれば、ルークを思いのままに操れると考えたのですね。

 確かに私を人質にして命じたら、ルークは父上や兄上さえ殺しかねません。

 庶子に産まれたルークを、父上と兄上は邪険に扱いました。

 可愛がったのは私だけと言ってもいいでしょう。

 その事は全王侯貴族が知っている事です。

 

 でも、私が王家の思い通りにはさせません!

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