雨が降っていますが、私と結婚しませんか?

汐風 波沙

第一章

プロローグ

朝から降っていた雨は、午後の授業が終わっても止む気配はなかった。ホームルームが終わってから、僕は、バス停を目指し、革製のカバンを傘代わりに使って、走り始めた。

バス停に着くと、僕よりも早く、バス停に着いている人がいた。スカートの色からして、3年生だ。

僕は、バス停の中に入り、タオルを取り出した。

『あの先輩、ビシヨビショだし、めちゃくちゃ可愛い。

シャツが透けて、目のやり場に困るな。』

と思いながら、

「あの、よかったら、タオルお貸ししますよ?」

と、尋ねた。すると、

「ありがとう、でも、あなたのものだから、あなたが使ってください。」

「もう一枚あるので、大丈夫です。」

「じゃあ、遠慮なくかりますね。」

綺麗な声で、僕にお礼を言った。

僕は、バス停のベンチに座った。タオルを首にかけ、ポケットに入れていた、スマートフォンを取り出して、友達からのメールを返信していたら、

「ねぇ、君、名前なんって言うの?」

「ふぇ!?」

声の聞こえた方を見ると、彼女の顔があった。

「ちょ、近くないですかああああ!!!!」

無意識的に距離をとってしまった。

「これくらい普通だよ。で、君の名前は?タオルのお礼がしたいからさ、教えてくれる?」

「は、はい。僕の名前は、冴河 裕太さがわ ゆうたです。でも、あなたも名乗るべきなんじゃないですか?」

「私のことは、好きなように呼んで。それでいいでしょ?」

上目遣いは、ずるい。こういう時の女子は、強いなー。

「わかりました、では、先輩と呼ぶことにします。」

「君の学年聞いてなかったね、何年生?」

「2年生です、先輩は、3年生ですよね?」

「まあ、なんでそんなことまで知ってるの?まさか、あなたストーカー?」

「ストーカーじゃないですよ。スカートの色見ればわかりますよ。」

少し焦り気味に言ってしまった。傍から見たら、俺、めちゃくちゃ怪しいな。

「ふふっ、君、とても面白いね。学校同じ人で、私に話しかける人あんまりいないから、新鮮なのかな?」

「ところで先輩、名前、聞いていませんでしたね?」

「あ、バス来た。じゃあ、私、行くね。あと、名前は、·····雨沢 雪乃あまさわ ゆきの、今日は、楽しかったよ。裕太くん」

不意打ちのように、彼女は、僕の右の頬に、キスをした。

一瞬、フリーズして、手を振る先輩に、手を振り返せなかった。

「なんだったんだ、今の。」

僕は、右の頬を、触りながら、つぶやいた。
















雪乃side

私は今、うつむいている。

その理由は、あまりしゃべったことのない人に、あんなことをして、少しの羞恥心が帰ってきているからである。

「……なんで私あんなことしたんだろう。」

思い出すだけで、私は、頭の中で、何もかもが、沸騰するような感覚がした。

あぁぁぁぁぁっ‼

なんで私あんなことしてしまったんだろうっ‼

恥ずかしいっ‼

ダメダメ、私は、クールで綺麗な女性のイメージを崩さないようにしなきゃ。

「でも……」

私は指で唇に触れた。

あの感覚はまだ消えていない。

いや、この感覚は一生忘れないと思う。

「……私の、ファースト、キス」

私はボソッとつぶやいた。

熱いっ‼

空間ではなく、私の頭の中が熱いっ‼

夏が近づいてきているのに、私の頭は、夏の気温よりも熱いような気がしますっ‼

「……なんで私はこのようなことで動揺しているのでしょう。」

そう、私は人をからかうような人間であって、人に照れさせられる人間ではないのである。

「ダメだ、別のこと考えよう。」

私は、切り替えのできる女なのである。

そういえば、最初に彼に会ったのって去年だったっけ……





















「うぉっ‼」

「きゃっ⁉」

去年の4月14日

あの日、私は、クラスで集めたプリントを理科準備室に運んでいた。

私は運悪く、階段から足を滑らせてしまった。

プリントもあたり一面に散らかしてしまった。

どうやら、後ろには、人がいたようで、その人にぶつかったが、倒れることはなかった。

「……大丈夫ですか?」

彼は、私の態勢を元に戻し、プリントを集め始めた。

その当時の私は、まだ眼鏡を付けていた時期で、今よりもはっきり顔を相手に見せるような人間ではなかった。

そのため、今日、彼に会った時、彼は私にあったことがあることすら知らなかった。

「はい……、大丈夫です。それより、プリントは、私が集めるので、結構ですよ……」

「いえ、俺、人を助けるのって結構好きなんです。」

この時は、まだ、一人称が『俺』だったんだよね。

「……ところで、君、名前何っていうの?」

「あ、俺は、1年の冴河裕太です。ところで、そちらは?」

「私は、2年生だよ。でも、名前は教えてあげられない。」

「俺には聞いたのにっスか……」

「それが先輩の特権ですっ‼」

「ケチだな~」

「もうっ‼そんなことより、私、早くこのプリントもって行かないとっ‼」

「この量を一人で運んでたんスね、俺も手伝います。」

「えっ、でも、これ以上迷惑かけられないよ。」

「何言ってんですか、先輩、めちゃくちゃふらついていたんですよ。だから、階段上ってるとき、倒れないか心配で、後ろつけてたんですよ。」

「……っ⁉」

私はこの時、キュンと来てしまったのである。

「す、す、す、す……」

「あの、先輩?」

「このストーカー‼」

「いや、俺ストーカーとかじゃないですよ‼確かに今のいい方的に誤解されるのは当たり前ですけど、俺は、心配で……て何笑ってるんですか‼」

「いや、冗談で言ったつもりだったんだけど、君が予想以上に、弁明するところが面白くて、ついっ‼」

「いや、「ついっ‼」じゃないですよ。聴く人が聞いたら、本当にストーカーで通報されますって。いや~、焦った~。」

「ゴメン、ゴメン。でも、思い出すだけで笑えて……」

「もういいから、行きますよ。早く持って行かなくちゃいけないんでしょ?」

「あ、そうだった。理科準備室までお願いします。」

「あいよ。先輩って面白い人っスね。クラスで人気ですか?」

「ううん、私はいつも、一人だよ。」

「……っいない」

「えっ⁉」

「先輩のクラスの人たち、もったいないっスね。」

「そうかな……」

「そうですって‼」

「いや、たぶん私から離さないだけで、みんな私に話しかけようとしてくれてるんだと思うけど私は、人と馴染めないから。」

「そんなの、関係ねぇーっスよ。」

「えっ⁉」

「先輩、何か勘違いしてるっスから、一つ、アドバイスです。」

「はい……」

「みんなと、もう少し打ち解けてみてください。きっとうまくいきますよ。」

「私そんなこと……」

「できますよ、先輩なら。だって、先輩、素敵ですもん。」

「……もうっ‼先輩はからかっちゃダメ、なんだから」

「は、はい、すみません……」

そうこうしているうちに、私たちは、理科準備室の前に来た。

「ありがとう冴河君、手伝ってくれて。」

「いいっスよ、こんなの。困ってる人がいたら助けるのが俺のポリシーっスから。」

私は冴河君が持っていたプリントを受け取り、

「じゃあね。」

そう言って理科準備室に入った。






「遅かったね、雨沢君。」

「すみません、階段で転びそうになってしまったので。」

この人は、私のクラスの担任の卑猥駄ひわいだ先生。私の最悪の敵である。

「それは危なかったねぇ~」

「いえ、特に怪我はしていないと思うので大丈夫です。」

「いや、心配だから、先生が本当に怪我をしていないか……」

先生は椅子から立ち上がり、部屋の鍵を閉めた。

「私が調べてあげよう。」

「な、何してるんですか……」

そして、着ていたワイシャツのボタンをすべて外し、ベルトまで外していた。

「何って決まってるだろ~、検査の時間だよっ‼」

「……っ⁉」

私は、そのまま、壁に押さえつけられた。

「は、離してください‼」

「君、叫んでも無駄だって知ってるよねぇ~、この部屋、防音なんだよ。」

「嫌ぁ~」

「その表情だよっ‼私が欲しているのは、青い果実の苦しんでいる顔が見たかったんだよ‼さあ、このままお前を壊してやるよぉ‼」

「きゃっ‼」

ブレザーとワイシャツのボタンを、一気に外され、そして履いていたタイツでさえ、一気に破られてしまった。

『ダメだ、もう、私、終わるんだ……』

その時、

‶カチャッ″

部屋の鍵が開く音がした。

「お、先輩大丈夫っスか?」

「……冴河君、助け」

「なんだ君は‼私たちは今、進路相談をしてるんだ。出て行きたまえ‼」

「何言ってんスか、あんた」

「はぁ?」

「あの~、お楽しみ中悪いんスけど、卑猥駄先生、あんた、これで積っスよ。」

「何を言っているんだ君は……」

「県警の川崎というものです。卑猥駄先生、あなたを、強制わいせつ罪の現行犯で逮捕します。一緒に来ていただきますよ。」

「バカ言うなっ、貴様ら警察が、この場にいることすらおかしい‼」

「バカはお前だ、卑猥駄。俺がなぜ今日先輩に接触したか知らねぇだろ。」

「えっ⁉」

「川崎さん、お願いします。」

「ああ、裕太君。あなたへの被害届が14件着ていたんです。なので、ちょうど知り合いの子が入学する高校に卑猥駄さん、あなたがいたので、協力してもらいました。」

「なん、だと。初、証拠はどこにあるんだ‼証拠を出せ‼」

「証拠ならこれだ。」

冴河君は、ポケットからスマホを取り出した。

『は、離してください』

『君、叫んでも無駄だって知ってるよねぇ~、この部屋、防音なんだよ。』

それは、さっきまでの様子の動画だった。

「そ、それの動画、どうしたんだ‼」

「撮りました」

「だからどうやって撮ったのか聞いているんだ‼」

「知らないんですか?先輩の髪にヘアピンついてるでしょ?それ、カメラですよ。」

「なん、だって……」

「あ、そうそう、これ、警察の協力ってことで、警察の備品借りてるんで、壊したりすると、公務執行妨害でさらに逮捕されますよ。」

「この、ガキが……」

「では、卑猥駄さん……」

川崎刑事は、卑猥駄先生に近づいていき、

「17時45分逮捕。」

「クソぉ‼」

こうして、私の処女と、ファーストキスは、一人の高校生と、刑事によって守られた。

「すみません、先輩。利用したりしてしまって。」

冴河君は、着ていたブレザーを私に渡した。

「いいよ、それよりも……」

私は眼鏡をはずし、

「助けてくれて、ありがとう。」

私のできる最高の笑顔で言った。

「さ、さっきも言ったんですけど、俺は、人助けは、好きでやってるかけですよ。」

「あ、照れてる~」

「て、照れてないっすよ。」

「ほんとかな~」

「ああ、もうっ‼先輩も、警察署、行ってくださいね。被害届と、事情聴取ですけど」

「うん、わかってるよ。」

この翌日から、私は伊達メガネをはずし、学校に登校するようになった。





「懐かしいな。なんで今更思い出してんだろう、私。」

バスに揺られながら、私はつぶやいた。

「あ、もうすぐ着く。」

私は、ボタンを押し、バス停に降り立った。

バスを降りると、雨は止んでいて、空には、虹が架かっていた。

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