月光獣

月夜白

第1話

……体が鉛のように重い。

……視界が歪む

……頭が割れるように痛い

……体がうまく動かない

……足もひどく痛む


思考がまとまらない。

体が訴えかけてくるひどく煩わしい感情のせいだろうか。


頭がぼーとして自分のことすら思い出せない。


自分は何者だっただろうか

どうして足が痛むのだろう

そもそもどうしてこんなにも満身創痍で披露しているのだろう


様々なことに思考を巡らせるものの霧がかかっているかのように何一つ思い出せない。


いや、そんな彷徨しているかのような状況の中で確かなことが一つ。



何かであった自分はただ歩いていた。

今だって思考も巡らない、傷もひどく痛む状況の中、この脚だけはただ止まることなくはっきりと進み続けていた。

それもただぐるぐると動き回るわけでもなく、どこか目的があるかのようにひたすらに止まることなく歩き続けている。


いつから歩いていただろうか。

自分はどこから来たのだろうか。

そもそも、そのくらい歩いたのだろうか。


気が遠く成るるほどに長い一日、ひたすら遠い道のりを超えて今にたどり着いた気もする。

思えば刹那のようでもある、千歳の時をもっていつの間にやらこんなところまで歩いていた気もする。


何方どちらとはいえないが、その何方どちらも違ってはいない気もした。


そのどちらであったとしてもきっと遥かな道のりではあったのだろう。


その、程度のくらいは置いておくにいてもは何故自分はこんなにも歩いているのだろう。


何かを求めているのだろうか。

何かを欲していたのだろうか。

どこか、たどり着きたい場所があったのだろうか。

それとも、この行為自体に意味があるのだろうか。


思い出せない。

思い出せないが、歩くことを止めることもまた不可能だった。


歩き続ければ何かわかる気もするし、歩いたところでたどり着く場所などとうの昔に失っているような気もする。


とどのつまり、やはりこの行為に結果など関係なくブレーキの利かなくなった乗り物のように走り続けるのだろうと感じていた。



やはり、どれだけ思考を巡らせようとも何一つこの行為の理由はわからない。


けれどやはり、そこまで考えてもなおいったん休もう、あるいはいったんこの脚を止めようという気にはなれなかった。


むしろ歩いているからこそそっちに意識を多少そちらに向けられるが、止まってひとたび自分を落ち着けてしまえば極限状態であることに重ねた自分のことすら何一つわからないという絶望にさいなまれてしまう気もした。


しかしそうはいっても、ただ絶望に追いつかれないためにひたすら歩いているかと言われれば、決してそうではないだろう。



しかし様々な疑問はあっても、道を迷うこともなくいくべき場所を体が感覚で刺しているかのように、進むべき道に迷うことはなかった。

きっとこの先には今の自分が忘れている何かがあるのだろう。

ならひとまずその感覚に従って歩こう。


もとよりほかに確かなことも、止まる術もないのだから。








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月光獣 月夜白 @Kuro4024

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