【東京文学フリマ出品】あいすくりぃむ

黒咲 猫架

試し読み

 シャーペンを回しながらつまらん講義を聞く。昼になったら学食で適当に安い食べ物を食い、また講義に出る。ついでに出されていたレポートを提出すれば、オレの一日は終幕を告げる。

 時折昔からの友人と集まってカラオケに行ったりだとか、ファーストフード店に潜り込んだりもするが、基本生活はそれだけだ。

 一番楽しむべきキャンパスライフだと先人は言うが、オレは今だ理解できないでいる。

「はーぁ……」

 本日何度目かも分からないため息をつきながら、オレは目の前に置かれている丼鉢どんぶりばちをぐるぐるとかき回した。中でうどんがマグロの群れの様に箸を追いかける。

 大体、大学に来て何を楽しむというのだろうか。合コンか? 出会い系か? わからん。彼女が欲しいと思ったことはあるが、こまめな連絡なんて面倒極まりない。出会い系なんか出会う前から連絡を頻繁に取り合うだとか、性について触れまくるとか、最早言語道断だ。近づけない。

 大学で彼女を探すやつもいるだろうが、漫画とかであるような他学科の先輩に恋をして~~……なんてサークルに入っていないとないもんだし、そんなサークルも簡単に言えば出会い系の簡易版みたいなもんだろう。まともなサークルなんて数件しかないのだから。

 そうやって出来上がるのが、オレのような学科内でしか生息しないやつを陰キャ、というのだろうか。

「めくろー、お前。元気ないなぁ」

 向かい合うようにして座っていた友人の声で、丼からようやく顔を上げた。ずっとかき回していたようで、いたるところにスープが飛び散っている。

 大きく息をはきながら、ちり紙であたりを軽く拭う。

「や、なんかつまんねぇなぁって思って」

「なぁに? 芽玄めくろちゃん。倦怠期ぃ?」

「誰とだよ」

「大学」

「付き合いたくねー」

 うどんを箸でつまみ、すする。

 飯を食いながらこういうふざけた会話ができるやつがいるだけ、まだ恵まれてる方なのかもしれないとも思う。だが何も刺激がないというのはやはりつまらない。

 今こうして飯を食べている同じ学部の友人とは遊びに行かない。大抵高校の面子で完結してしまう。

 遊びに行かない理由を聞かれると出てこないが、きっと高校までのクラスメイトみんな教室で授業、とは違うからだろう。

「勉強できる芽玄には合うんじゃね?」

「合わねー。できるようにしてるだけで好きなわけじゃねぇもん」

 スープを救い、一口のどに通せば満足だ。箸を置き、手を合わせる。ごちそうさまでした。

「お前……好きでもなんでもない奴と付き合ってんのかよ!」

「いやなんでキレんだ。付き合ってねーって。あとちょっとウザいぞ、お前」

 お盆を持ちながら立ち上がれば、友人もつられて立ち上がる。食器を返却棚へと置くついでにメニュー上に掛かっている時計に目をやれば、ちょうど十二時半を示しているのが見えた。

「あと一時間くらい暇だけど、どーする? めくろー。図書室でも行く?」

「あー、今日は遠慮しとく。先講堂行ってていいよ」

「おー、遅れんなよ」

昼の時間がそろそろ終わるというのに、未だ人の溢れている食堂を背中に、俺は友人と真逆の、正門口のほうへと歩みを進めた。

 新怜都れいと大学、文学キャンパス。文学部の二年、三年が主に使うキャンパスだ。ここは慣れれば使いやすいが、慣れるまでは必ず道に迷うと言われているほど、小道が多いことで有名である。小さい家が集まってできた集落の様だともいわれている。せめてもの正門口からキャンパスの中央に位置する噴水広場までは大きな道しかないのが救いなのかもしれない。


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