桜来と和音の島訪問

けろよん

第1話 島上陸

 太平洋だか大西洋だか知らないけど、2019年5月10日、突如海の上に海上都市が現れた。そこはマグマク島。

 この島が開発した謎のテクノロジーにより、物語の創作者は自分の作った物語の世界からキャラクターをこの島の限定された空間でのみ具現化することができるようになったという。

 多くのクリエイター達が訪れたそこに今また訪れようとする二組の少女達の姿があった。

 赤くて活発そうな少女の名前は神々廻桜来(ししば さら)、青くてクールそうな方は神々廻和音(ししば あのん)という。マグネット社からやってきた二人は船のデッキから近づいてくる遠くの島を見ていた。


「ほえー、あれが噂のマグマク島か」

「様々なクリエイターのキャラがあそこで暮らしているそうね」

「あそこであたし達はドラゴンを倒すんだな!」

「コンテストのネタを探すのでは?」

「……まあ、それはおいといて」


 桜来は大事な問題を右から左へと投げ捨てた。そして、活発な彼女らしく告げた。


「楽しもうぜ!」

「そうですね。要項には完結させることとはありませんし適当に行きましょう」


 和音は大事な問題を左から右へと投げ捨てた。ゴールデンウィークの十連休が終わったばかりで面倒な事を考えるのはいつもクールな彼女でも遠慮したいところだった。

 そして、二人の冒険が始まった。




 船が島の港に着いたので降りて上陸したところで二人は係員からパンフレットをもらい、目を通す前に町の景色を見やった。

 そこに広がっていたのは現代の日本と全く同じ景色だった。


「思ったんだけどよー。今って異世界じゃないと人気でないだろ? 現代で大丈夫かねー?」

「大丈夫でしょ。現にここはこんなに賑わっているわ」


 マグマク島は多くの客で賑わう人気のスポットだ。それはゴールデンウィークの終わった今でも変わらない。

 看板には『大ヒットに感謝。一周年御礼』と書かれてある。本当に人気のある場所のようだ。このマグマク島というのは。

 周囲の人達からは


「エスパーチョンカがツタヤで売り切れてたわ」

「本当に人気だよなー」


 なんて声が聞こえてくる。どうやら人気は本物のようだ。

 桜来と和音は人通りの邪魔にならない場所に移動してパンフレットに目を通してみる。それにはこの島のいろんな情報が載っていた。


「いろいろ載ってるな」

「冒険者ギルドとかあるみたいよ」

「それは凄いな。現代にした意味あるのかな」

「まあ、そう言わずに散策してみましょう」

「おう! スライム探すぜー」

「コンテストのネタを探すのよ」


 そうして港から離れて現代日本と変わらない町を歩くこと数分、横の路地で何か言い合いをしている声が聞こえてきた。

 二人は何だか興味を惹かれたので寄ってみた。そこでは何と可愛い女の子が暴漢に絡まれていた。


「ようよう、姉ちゃん。俺の大事なモンを壊してただで済むとは思ってないだろうな」

「止めてください! お金なら払いますから!」


 難癖を付けられているようだ。近くの係員に通報した方がいいのだろうか。

 眺めているとどこからともなく冴えない凡人のような少年がやってきた。


「弁償する必要はないぜ。それはこいつがわざとぶつかって壊したんだ」

「なんだ、てめえ。文句があるのか。ぐえええ!」


 暴漢はただの少年のグーパンチ一発でぶちのめされて逃げていった。


「大丈夫だったかい? お嬢さん」

「素敵、抱いて! 暴漢は死ね!」


 どうやら問題は解決したようだ。


「ああいうのってどこにでもいるんだねー」

「ただのナーロッシュの一場面だったようね。散策を続けましょう」


 そして、なろう主人公のような活躍を見送った桜来と和音は再び冒険を再開するのだった。

 ここはマグマク島。まだまだ未知の出会いが待っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る