異世界転位 169話目




「フェリクス!」


「……ああ、なんだこの気配は、魔王ですらこんな力強い気配を感じなかったぞ?」


突然に現れた強者の気配に、ケンとフェリクスの2人は武器を構えて戦闘体制をとる、リンカは逃げた。


何にしろ山脈の方から二つの影がケン達に歩み寄ってくる。


「私の名前はハマリエル! 処女宮のハマリエル、もちろん処女よ!」


「………………えっと、フルだよ~? 月のフルなんだけど、たった今に親友が1人消えたから混乱してるよ~。」


「ちょっとフル、親友が消えたってどう言うこと!? なにか問題が有るなら私が一緒に行ってあげるわよ!」


フルと名乗った少女がそう言うと、ハマリエルと名乗った少女がそう叫びジタバタと暴れ始める。


「よし、ドライト臭がする、ほっとこう!」


嫌な予感がしたケンだったが、アンナが空気を読まずにハマリエルとフルに話しかける。


「ハマリエルお姉ちゃま、フルお姉ちゃま、オークは片付いたのよ。 あと自分が処女だと叫ぶのは痴女だと私は思うのよ?」


「おお~トラウマを克服できたかな~?」


「え!? こう叫ぶのが最近のマナルのトレンドだってムリエルが!」


「騙されたんじゃないですか?」


「うむ、私もそう思うのじゃ。」


「あ、あのオッパイ野郎!」


「よし、そのオッパイ野郎の事はあとでジックリと聞くとして、お前らは何者だ?」


ドライトの関係者なんだろうなぁ、とは思いながらもケンは聞いてみる。


「ふふん、私の名前はハマリエル! 光輝く女神、メルクルナ様の眷族よ!」


「私の名前はフル~、偉大なるザリガニ釣師の称号を持つ、ドライト様の眷族なのだ~!」


「……帰っていいか?」


「ダメに決まってるだろ、それで君達は何でここに?」


やっぱり関係者かと、ケンは帰ろうとするがフェリクスに止められる。


「私達は万が一の保険としてアンナちゃん達の元にやって来たのよ!」


「そうなのだ~!」


「万が一の……保険? それって普通は万が一の時に出てくるものなんじゃないのか?」


「え、だって天界で待つの暇じゃん。」


「それに~万が一の時に間に合わないとだから~。」


万が一の保険ってこんなんでいいのか?


そう疑問に思うケンだったが、話が進まなくなるので気になっていることを聞いてみることにした。




「なぁ、ちょっと聞きたいんだがこの森に突然、魔物が湧きだしたんだ。 ドライトが何かしたのか?」


「へ? 森に魔物がいるのは当たり前でしょ?」


「いやそうじゃなくって、以前にドライトがな?」


前にドライトがブレスを放ってから、この森には魔物が湧かないし近づきもしなくなったことを説明すると、ハマリエルとフルの2人は顔を見合わせて何処かに連絡し始める。


『はいはーい、ハマリエルどうしたの?』


「あ、バキエル、今すぐにドライト様と連絡が取れる?」


『へ? ダメに決まってるじゃない、今は邪神包囲戦の最中なんだから、連絡なんかしたら邪神に気付かれて逃げられちゃうでしょ。』


「いやだからさ、ドライト様じゃなくオフィエルに連絡すればいいじゃない、あんたとオフィエルだったらドライト様に授かった権能で連絡が取り合えるでしょ?」


どう言うことだと疑問に思っていると、横に来たフルが教えてくれる。


今、ハマリエルが話している相手が天使達の連絡役のバキエルと言う者で、龍人達の連絡役のオフィエルとは仲良くく、ドライトに相互通話ゼロ円と言うよく分からん権能を貰っててその力で2人同士ならまず周りにバレることなく連絡が取れるそうなのだ。


『いやだから無理なんだって。』


「なによ、ケチケチしないでオフィエルと連絡してよ。

ドライト様に聞きたいことが有るんだからさ!」


『いやだからね? オフィエルなら私の横でたい焼き食べてるんだから、ドライト様に連絡しようがないじゃない。』


「……なんで揃ってそこに居るのよ。」


『なんでって私もオフィエルも連絡役でしょ? だから通信指令室に一緒にいるのは当たり前じゃない。』


「アホかーー! せっかく便利な権能が有るのに、なんでどっちかがドライト様のそばに居ないのよ!」


『……あ。プツン』


「き、切りやがったアイツ!?」


「ハマリエル~、時間の無駄だから~ガブリエルにでも連絡してみよ~?」


「……そうしよっか。」


ガブリエルの名前が出てきて思い出す、この2人は魔界にドライトが攻め込んだ時に出てきた2人だと。


「もしもーし、あ、ガブっち今暇ー?」


『お、ハマリエルじゃん、何か用なの?』


「いやちょっとドライト様と連絡が取りたくてさ、そっちのラインで連絡とれない?」


『ああ、無理無理、今私……バキエルとオフィエルとお茶してるから!』


「あんたもか!」


別のラインで連絡しようとしたようだったがダメだったようだ。

発狂しかけるハマリエルだったが、ガブリエルが別の提案をしてくる。


『ハマっちー、マナルの事で聞きたいことが有るなら、ちょうど今テルやんも一緒にお茶してるからテルやんに聞いてみたら?』


どうやらもう1人居るらしく、その人に聞けと言ってくる……テルやんって誰だ?




「なぁ、少し待っててくれ、こっちに来て教えるからって言ってたけど、誰が来るんだ?」


「知らねぇよ、それよりもアンナ達がウトウトし始めたぞ、どうするんだ?」


今回の事を調べるから待っててくれとまたされるフェリクスとケン、アンナ達はつまらないのか3人並んで座ってウトウトし始めている。


「とりあえず3人は軍の陣地に……っと来た、テルミス様!?」


フェリクスが3人を陣地に連れていこうと提案していると、転移陣が現れてそこからテルミスが現れた。


「やっほー、ハマっちーフルっちー!」


なんか余計なのも現れた。


「フェリクス、久しぶりですね。

それとケンよ、今回の事なんですが……」


何にしろテルミスの説明で今回、ゴブリンが山を占領した経緯が判明した。


管理システムとか言うもので調べてみた結果、ドライトはブレスに結界になるように魔力をのせて放ったようで、その魔力が魔物を近づかせなかったのだ。

そしてその魔力は今はもう消えてない、何故か?


「セレナ様が山脈創るのに使っちまった、か……笑うしかねぇなもう、ハハハ!」


「ドライト様も文句……言えるはずがないか。」


母親絶対服従している姿を思い出してため息を吐くフェリクス、ケンは明後日の方向を見て笑っている。


「セレナ様も分かっていてやったと思うわ、こんな結界が有るのは認められない、ちょうどいいから使って消しちゃおうって。」


あり得そうな話だ、そう思いながら今後をどうするか考え始めるケン、その視線の先にはテルミスやハマリエル達がいた。


「あー、私達は手伝えないわよ?」


「下手に手助けすると上がうるさいしね。」


「それにこれから皆で~お茶だしね~」


最後のが最大の理由じゃないだろうな?


何にしろ転移陣を出して帰ろうとする4人、だがある人物の一言でピタリと動きを止める。


「ううん……あら? お話は終わったのかしら、なら悪いゴブリンさん達を粉々にしに行くのよ!」


うん、さっきはオークを粉々にしてたしね。


「やば! アンナちゃん達の事を忘れてた!」


「どうする~? 天界に連れていって保護する~?」


「いやそれはまずいっしょ、上に知られたら小言だけじゃすまないっと思うわ。」


「いやでも、ほっといてケガでもして、それがドライト様に知られたら……やば! 想像しただけでオシッコをチビりかけた!」


ドライトに罰せられるとテルミスが言うと、他の3人も真っ青になってしまう。 と言うかマリルルナの筆頭神なんだからフェリクスの前でオシッコとか言うなよ、呆然としてるぞ?


「あー、アンナちゃん達はフェルデンロットに戻すぞ? ゴブリンの巣になんか連れていったらクリスに俺が殺されるしな。」


「そ、それなら大丈夫ね、私達は「何を言ってるのかしら? ここまで来たんだから絶対に正義を執行するのよ?」アンナちゃーん!?」


アンナの言葉に絶望の表情になるハマリエル、そんなにお茶が飲みたいのか?


「ね~ね~、お茶請けはたい焼きわ○ばのたい焼きなんだよね~。 早く食べた~い!」


「私がこんな時期なのに外国人観光客を装って手に入れてきたのよ! 感謝しまくれ!」


それが目的かよ……ってかどうやって手にいれたのかと思ったら、ガブリエルが買いに行ったらしい、それでいいのか大天使。




どうにかしてアンナを説得できないかと考えていると、逃げたリンカが戻ってきた。


「応援を連れてきたっちゃ!」


そう言って肩に担いできたのはエルフリーデか? 担ぎ方がアルゼンチン・バックブリーカになってるから悶絶してるぞ?


「せ、背骨があぁぁぁ……な、何にしろアンナちゃん、クリスさんが激おこだけども、本当にまだ帰らないの?」


放り捨てられたエルフリーデがそう言うと、アンナは真っ青になる。


「ク、クリス姉ちゃまが怒ってるの? す、すぐに帰るのよ!」


クリスが本気で怒っていると知ったアンナが帰ると言うので、ちょうどいいとコッソリと帰ろうとしている4人を呼び止める。


「そう言うことだからそこの4人、転移陣で送ってくれや?」


「はぁ? 私達はこれからたい焼きを楽しむのよ! そんな暇はないわ!」


「それに私達の取り分が減るかもしれないしね?」


「あー、ハマリエルにガブリエルは本当にそれでいいんだな?」


どうやらアンナ達にたい焼きをねだられる危険も考慮してバックレようとしていたようだか、俺の言葉に何を当然なことをと言う顔をするハマリエルにガブリエル、そしてテルミスの3人。


だがあることに気がついたフルだけは顔色を悪くして大きな声を出す。


「そ、そうね~アンナちゃん達を送って~、ついでにオヤツにたい焼きを~お腹一杯に食べさせた方が良いと思うわ~!」


「ちょ、ちょっとフル、急に何を言い出すのよ!?」


「そーよそーよ、アンナちゃん達って育ち盛りだから一杯食べそうだし、置いていきましょうよ!」


「うーん、1個ぐらいならいいけどさ、結構並んだし、ただで恵んであげるのもねぇ~?」


フルの言葉に反対する3人、そんな3人に俺は満面の笑みを向けて聞いてみる。


「ところでドライトのお気に入りのアンナ達を守るためにそっちの2人を派遣したんだよな? ……じゃあその働きぶりは、誰かが確認してるのかなぁ?」


「「「……あ?」」」


ケンがそう言って3人がハッとしたと同時にアンナ達の肩に小さな蜘蛛が現れ、森の中からはヤンバルクイナが現れる。


そして真っ青になった3人は叫ぶように言うのだった。


「「「アンナちゃん、送ってあげるわ! それに美味しいオヤツもいっぱいあげるわね!?」」」


こうしてアンナ達はフェルデンロットに帰ったのだった。



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