異世界転位 163話目




「お、ロットリッヒが見えてきたな。」


「予定より早く着いたな、やっぱり去年からの街道の警備がいい結果になってるようだ。」


「うむ、たまには旅も良いものだな、国内を見れるし気が晴れる。」


「閣下、先触れとして何人か向かわせます!」


「おう、辺境伯様と家に連絡を頼む。」


「了解しました!」


俺とフェリクス、それにアイヒベルク侯爵を乗せた馬車はロットリッヒの城壁が見える位置までやって来ていた。


それなりに時間がかかると思われたが、10日で王都からロットリッヒにまで来ることが出来た。

普通なら2週間から3週間はかかるのだが、軍が街道の警備を強化しているのと往来が多くなったので道が踏み固められて早く進むことが出来るようになったのと、アイヒベルクで宿泊した時に侯爵がいたので物資の補給が素早くおこなわれたからだった。


「そういやフェリクスよぉ、お前あの領地はどうするんだ?」


「あの領地?」


「ほら、王都の近くにある一等地の。 シュタインベルクを取り返したらあそこはどうするんだ?」


「ああ、あそこか。 あそこはパトリシアとの子供の次男か三男、それか娘が産まれたら婿を入れて分家にするぞ、それがどうかしたのか?」


「いやな、うちも派閥の貴族の町の再建なんか始まってるだろ? それにほらシュテットホルンが有るんだがあそこは王家の直轄地になってるし、それでもらった領地の幾つかが飛び地になっちまったんだよ。 それで扱いに困っててな。」


「ああ、そう言うことか、誰も住んでなければたまに兵を送るなりしてパトロールすればいいと思うが、人が住んでいる地域には代官を送ればいいと思うぞ。」


「フェルデンロット子爵、お主の有力な家臣を騎士なりにして与えるのも手じゃぞ?」


「うーん、そこが結構いい場所でハロネンに信頼できるものにって言われているんですよ、それに家臣と言われましても……アランとかじゃダメですかね?」


「ミラーナ様の護衛だったか? 少し若すぎるし、何も功績をあげていないならダメじゃな。

そうだ、子爵の家を切り盛りしているあの家族がおったろ?」


「マックス、ハーゲンのことですか?」


「うむ、娘がお主の側室だろ? ならそのマックスに任せて将来は側室が産んだ子に引き継がせていくんじゃ。

あと男の子がいればそやつにも町なりを任せてやれ、そうすればフェルデンロット家を裏切らん忠臣となるだろ。」


「侯爵様、ミラーナ様の子供ではダメなのですか?」


ケンも同じことを疑問に思ったが、フェリクスが先に質問してくれたのでアイヒベルク侯爵の返答を待つ。


「それでもかまわんが、その町を直ぐに誰かに任せたいんだろ?

なら家臣、しかも長年の忠臣となるものを育てるべきじゃな。

それにこれからもフェルデンロットとその周辺は開拓され繁栄していくんじゃから、まだ居もしないミラーナ様の子に慌てて渡す必要はなかろう。」


それを聞いてケンはあることを思い出し質問をする。


「ミラーナの子は双子なんですが……。」


「知っとるよ、男の子と女の子じゃろ? 男の子は長男じゃからフェルデンロットを継ぐんだし、女の子はまず間違いなく嫁に行くな。」


「……まだ生まれてもいませんが?」


「バカもん、貴族なんぞそんなもんだ。 お主も将来は伯爵になる、しかも龍様の知己がある英雄じゃぞ? どこの貴族も喉から手が出るほどお主との繋がりを欲しようぞ。

それにドライト様が産まれると言われたのはもう貴族達には広まっとるわ。」


アイヒベルク侯爵にそう言われてケンは考える、娘が産まれる前から嫁ぐ事が決まる何て……よし、全部断って手元から離さんっと。


産まれる前から親バカを発揮し始めるケンは、フェリクスやアイヒベルク侯爵と雑談しながらロットリッヒに入るのだった。




「ケン、久しぶりだな。」


「お義父さん、それにお義母さんも……辺境伯は?」


ロットリッヒに入り、辺境伯の居城まで行くと出迎えてくれたのはミラーナの両親だった。


「父さんはフェルデンロットにいるぞ、ミラーナに子が出来たと聞いたら飛び出していった。」


「政務があるのに……それに私達の初孫でも有るから、私達も行きたかったわ。」


「は、はぁ……。」


「父上、母上、アイヒベルク侯爵様もいらしゃってるんですから、ご挨拶をしないと。」


「おお、コンラート殿、立派になられましたな!

それにシルヴィア様もお元気そうで、このアイヒベルクは嬉しく思いますぞ!」


「ようこそおいでに、アイヒベルク侯爵殿。」


「お久しぶりですね、アイヒベルク侯爵。」


ロットリッヒ辺境伯の孫でミラーナの兄、コンラートが挨拶をするとアイヒベルク侯爵は満面の笑みで挨拶をする。

それにヴォルターとシルヴィアも挨拶を返し、4人は友好的に雑談をし始める。


「侯爵様、私達はケンの家に向かいますが侯爵様はどうされますか?」


「ん? ああ、今日と明日は無理だろうな、明後日にでもうかがわせてもらう。 辺境伯も言っていた自慢の風呂はその時に楽しませてくれ。」


フェリクスにそう返答するとアイヒベルク侯爵は護衛や身の回りの世話をするもの達に幾つか命令をして、ミラーナの両親に案内されて居城に向かう。


「と言うわけだ、俺達はお前の家に泊まらせてもらうからよろしくな!」


「なんで家主の俺を置いて決めてるんだよ! たくもう、エルフリーデ、リンカ行くぞ。」


「ねぇねぇ、なんか凄い冒険者ギルドの直営店が有るんでしょ? 見に行きましょうよ!」


「あちきも見たい!」


「良いですね。 ロットリッヒと言えば冒険者の町、まだ見ぬ武具が有るかもしれませんし。」


ケン達が乗ってきたのとは別の馬車でやって来たエルフリーデ、リンカ、ペトラの3人がそう言ってくる。


「いや、疲れたし1度家に[エロい下着を着た2人]よし、直ぐに行こう!」


神の奇跡か悪魔のいたずらか、はたまたただのエロ思考による妄想か、ケンの脳裏にエロエロしい下着のみを見にまとった2人の映像が浮かび上がると、早速にみんなでランジェリーショップ兼冒険者ギルド直営店に向かうのだった。




「な、何よこれ!?」


「これは下着としての機能が無いようで有るっちゃよ!」


「冒険者はアホですね! ……これ買っときましょう。」


3人はエロ下着を漁りながらワイワイ騒いでいる。


「なぁケン、ここ冒険者のための道具やらを売ってる店だよな?」


「何を言ってるんだフェリクスよ、ここは冒険者ギルドが経営しているランジェリーショップだぞ?」


「そうだったのか……ってそんなわけ有るか!

ここは何でこんなもんが売ってるんだよ!」


「知らねぇよ! 俺も昔に1度来たことが有るけど、何でかとか忘れてたんだよ!」


「ちょっとあなた達、通行の邪魔よ?」


「あ、すんま……。」


「失礼し……た。」


ランジェリーショップの出入り口でケンカを始めた2人だったが、客が来たようで入るのに邪魔だと言われて謝罪しながら道を開ける。


そして見てしまった、世紀末覇王がフリルスカートを履いてリボンをハゲ頭に着け、綺麗な化粧をしているのを!


「……なんだ今の!?」


「……女か、本当に女なのか!?」


「ねぇ、お店に入れないんだけど?」


「あ、ああ……トドの獣人か!?」


「いやゾウアザラシだろ!」


またもや後ろから声をかけられ振り向くと、トドかゾウアザラシの獣人がいた。


「あぁん!? れっきとした人族の女よ、失礼しちゃうわね!」


牙が無いのでゾウアザラシと言うことになった女性はドシドシと足音をたてながら怒って店の中に入っていく。


「ちょっとちょっとケン、このお店は凄いわね。 あちらのお姉さま方もここの商品で今の旦那様を落としたんだって!」


「ここの下着を着ればイチコロだっちゃそうなんよ!」


「イチコロって一撃で殺した意味なのか悩みますけどね!」


エルフリーデとリンカは尊敬の目で、ペトラは死んだ目で店の中のお姉様方を見ている。


「……思い出した! フェリクス、帰るぞ!」


「な、なんだよケン、いきなりどうした?」


慌てて店から逃げようとするケンをフェリクスは不思議に思いながら追いかける。

エルフリーデ達3人は買い物を終えていたようで後を追ってくるのを確認するとケンが昔のことを思い出しながら説明をする。


「俺がBランクになったばかりの頃にあそこに行ったんだ、あそこのエリアは見たことなかったってな。 それで捕まりかけたんだ……今のような乙女達に!」


「……は?」


「あそこは狩り場でもあるんだよ、いい男と結婚をしたい乙女……超獣達のな!」


「バ、バカ野郎、何でそんなことを忘れてたんだよ!」


「逃げるのに必死で、しかも三日三晩逃げ回ってやっと自宅に逃げ込んで、寝たらトラウマで忘れてたんだよ!

いいから店から出るぞ!」


「お、おう!」


そう叫んでランジェリーショップから地獄の底に変わった店から逃げ出そうとする2人、だがそんな2人が店の出入り口まで来ると目に入ってくる、出入り口をふさぐ超獣達を!




それを見た2人は顔を見合わせると、ケンはドライトからもらった槍を構え、フェリクスは聖剣を抜き放ち出入り口に突撃するのだった。


「人の社会って奥が深いわね。」


「本当に面白いっちゃ!」


「いや、これは普通の人間社会じゃないですからね?」


激しい攻防が始まった店の出入り口をエルフリーデ達3人はのんきに見守るのだった。



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