異世界転移 153話目
「お、また来たぞ。」
「きっちりと30分ごとに来るな。」
「何にしろカモだ、稼げる時に稼がんと。
おっし、カウノ行くぞ!」
「へいおやっさん!」
「サポートしやす!」
「はぁ……元気ねぇ。」
「冒険者はあれぐらいでないとです。」
「うちは飽きたっちゃよ。」
ケン達はあれからさらに5時間ほど歩いていた、そしてキッチリと30分ごとに襲ってくる麻藁の詰まった、鉄の鎧を着こんだ魔物を撃破して進んでいた。
そしてちょうど10回目の襲撃に全員が弛んだ空気の中、藁人形の魔物を倒すためにメイス等の武器をかまえ向かうのだった。
「んじゃ先頭をぶっ潰しますぜ?」
そう言ってカウノが先行してくる1体に目標を定めて前に出る、だがその姿は緊張感の欠片もなくケンに借りたメイスを肩に担ぎだらけていた。
本来ならアルヴァーに怒鳴られケンに殴られるような仕草だったが、アルヴァーとケンも「おー、いってこい。」っと言う感じで緊張感がなかった、フェリクスなんかはアクビまでしている。
何故にこんなに緩んでいるのかと言うと……この藁人形、恐ろしく弱いからだ。
防御力は鉄の鎧などを着込んでいるから高いのだがそのせいで動きがやたらと鈍く、まともな攻撃をしてこない。
そしてそんな鎧着き藁人形にカウノがメイスを振り上げて突進しようとした瞬間。
「……? カウノ待て!」
「ギャアァァァ!」
そんなカウノを止めて柄で殴り飛ばしたのはケンだった。
「ケ、ケンのアニキ、いったい何を!?」
驚くミルカの声にケンは反応せずに、ヨタヨタと迫り来る鎧着き藁人形をじっと見ながらケンは言う。
「おい、変じゃねぇかあれ?」
「……確かに変だな?」
「ありゃあ、今までのやつと違うのか、ヨタヨタ歩いてるんじゃなくヨタヨタと歩いてるように見せてる気がするな。」
「え? え? え?」
そしてケンの言葉にフェリクスとアルヴァーがそう答えると、ミルカは驚きながらヨタヨタとやって来る鎧着き藁人形を見る。
「おい、リンカにエルフリーデ、魔法で……そうだな土魔法で岩でもぶつけてみてくれ。」
「えー、ダンジョンって何故か土の精霊や土魔法が弱体化するのよね、めんどくさいわ。」
「そうっちゃね、あれを倒すぐらいの威力だと結構に魔力をこめんとだし、めんどうっちゃねぇ。」
「ケン様、なんなら私がメイスを投擲で投げてみますか?」
エルフリーデとリンカは土魔法や土の精霊はダンジョンでは弱くなるので、余計に魔力を込めないとダメなので嫌がっている。
そこにペトラ嬢がメイスを10個、お手玉のように空中に放り投げなから言ってくる。
「そうだな、ちと射程が短くなるが、魔法で障壁を俺とリンカとエルフリーデで張りゃ大丈夫か。
それでたのーーー左右に展開! かわせ!」
振り返りながらペトラにそう言ったケンは自分達の後方を見てそう叫び、壁際に1番トロいエルフリーデを抱えて逃げる。
「わわわ!? な、何よケン!」
「わぁぁぁ、突撃ぃ!」
「「「わぁぁぁ!」」」
「って、ドライト様!?」
後方からやって来たのはドライト達、アラ鍋のパーティーだった。
なぜ下に降りたアラ鍋がケン達の後方から突進してきたのかは解らないが、こちらを気にもしない勢いで突進してきたので慌てて道を空けたのだ。
「な、何で後ろから来るんだよ!」
「どっかに隠し扉でも有ったのか?」
「何にしろここは合流……あ!」
突進してきたアラ鍋は、ロッテンドライヤー以外がなんの警戒もせずに藁人形に突っ込む、そして―――
[ドガアァァァン!]
藁人形にぶつかり、藁人形が爆発した。
吹き飛ばされるアラ鍋のロッテンドライヤー以外のメンバー達、特にドライトは先頭を走り藁人形にぶつかったために、激しく吹き飛ばされて天井に叩きつけられる。
さらにケンが追撃として放った3連突きが見事にヒットし落ちてくる。
だがドライトは床に着地すると、何事もなかったように走り始める。
「突撃、突撃ですよ!」
「なんか爆発しましたがそれよりも前進です!」
「……お先に失礼するざますわ。」
そしてドライトに続き分身体と、しっかりと安全な場所で待機していたロッテンドライヤーが後を追って去っていった。
「っち、ありゃ中身が違うな、藁人形なんかじゃねえな。」
「おおぃ! なに普通にしてやがる、今のはなんだ!」
「このバカ野郎が、確かに色々恨みが有るが直接手を出すなんてなに考えてやがるんだ!」
「な、なんだ前ら? 藁人形の事か?」
「ドライト様に攻撃したことよ! 死ぬならあなた……子種だけは残して死になさいよ!」
「ハハハ……うちの夫は本当にバカだったちゃ。」
「今のうちに私達の手で始末した方が良くありませんか?」
ケンの攻撃を非難する面々、それにケンが言い返そうとした瞬間だった。
「ドライト様、お待ちください!」
[ドカ!]
「痛でえぇぇぇ!?」
龍の踊り手達がドライトを追ってやってきて先頭のキャロがケンをおもいっきり殴って吹き飛ばし、道を開けさせた。
特に道を塞いでたわけではなく、ケンを狙っての行動だった。
「おおぉぉぉ……メチャクチャ痛てぇ……」
「ッチ! 死ななかったか!」
「キャロちゃん、ドライト様に距離を離されちゃうわよ。」
「仕方ないですね、ここは諦めて追いかけましょう。」
キャロは盾役のナタリーとそう話し合うと、痛みにのたうち回るケンを睨んでからドライトを追って走り出す、他の龍の踊り手達もケンを白い目で見ながら走り去るのだった。
「な、なんだってこんな目に!」
「そりゃドライト様に攻撃したからだろ。」
「あの子達はあれで高位の神なんだよな? なら天罰ってことか。」
「ってか、よく攻撃したのを知ってるわね?」
「距離はありましたが、直線ですからね。
彼女達には見えていたのでしょう。」
「お、お前ら仲間が傷つき倒れてるんだから、いたわるなりなぁ!?」
「自業自得だろうが、それよりもドライト様や龍の踊り手達のことだ、さっきも言ったが隠し通路でもあってこちらの通路に合流したのか?」
ケンの問いにフェリクスは淡々と答え、何故にドライト達がこちらにいるのか不思議がる。
「ですが隠し通路なんかあればケンが気づくはずですよ?
一応うちのミルカも居ますし。」
フェリクスの疑問にアルヴァーも首をかしげながら答え、周りの皆も不思議そうにうなづいている。
「あのバカならなんでもありなんだろ、もしかして下に降りれないから戻ってきたのかもしれんしな。」
「それはないちゃろ、それなら踊り手の皆はんと合流してくるはずちゃし。」
「そりゃまぁそう……うん? ありゃあアンナ達か?」
ケンがそう言って来た通路の方を見ると、アンナ達のパーティーがやって来た。
実はアンナ達は最初に誰がどちらに進むか揉めている間に昼寝の時間になり、昼寝をしていて出遅れていたのだ!
「ケンのおにいちゃま達なのよ!」
「先発隊に追いつきました!」
「私達の実力なら当然なのじゃ!」
嬉しそうにケン達に駆け寄ってくる3人、そんな3人の後ろからティーアが「そんなに走ったら危ないわよ!」っと追って、セレナとディアンは普通に歩いてやってきた。
「そうだわケンのおにいちゃま、ドライトママさんが呼んでるのよ?」
「へ? 俺をか?」
「ええ、先ほど、つい5分前ぐらいに急にケン様に用が出来たって。」
「すっごい笑ったのじゃ!」
「笑ってた? それに俺になんの用が……5分前!?」
何かを思いついたケンは身をひるがして逃げようとしたが、奥に続く通路にはいつの間にかディアンが立っていた。
「何処に行く気だ?」
「い、いやちょっとクリス達と一発やりに!」
「言い訳にしても酷すぎます、えい。」
[ボクゥ!!]
そしていつの間にか背後にせまっていたセレナに、可愛い声で優しくチョップされて酷いことになってしまったのだった。
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