異世界転移 113話目




「ちょっとで良いのよ、ちょっとで! ちょっとベヒーモスの中心に行って自爆してくれれば良いの!」


「おま、ふざけんな!」


「大丈夫、その爆発にベヒーモス達が気を取られたところで戦略級魔法をみんなで叩き込んでベヒーモスを倒すから!」


「主に俺が大丈夫じゃないだろ!?」


ケンとエルフリーデはまだ不毛な争いをしていた。




「エルフリーデ様! 今はケンを殺す算段をするよりも、ベヒーモスを何とかしなければじゃ!」


そんな2人を止めたのは、ひときわ豪華なローブをまとい杖を持ったエルフ、エルフの宮廷魔導士長、フリッツだった。


「ッチ! 仕方がないわね……ケン、あなたとフェリクス殿とアクロフ殿で、あのベヒーモス達をなんとか出来る?」


「エルフリーデ、悪いが無理だ。

あの色違い2頭がヤバイ、俺やフェリクス達で全力でかかっても時間稼ぎがやっとだな。」


ケンはそう言うと、ベヒーモスの群れの中心にいる2頭のベヒーモスを顎で指し示す。

その2頭は他がねずみ色なのにたいして、茶色で体格もふた回りは大きかった。


「そうですか……仕方ありません、やはり都は棄てます。

ケン、あなたも結界の維持をお願いできますか? そして万が一、民人が逃げる前に結界が破れたら、ギリギリまで時間稼ぎをお願いできないでしょうか。」


「……はぁ。 仕方がないな、エルフリーデ、謝礼として後で乳を揉ませろよ! フェリクス、アクロフ、一丁やったろうぜ!」


「「おお!」」


「さらっと変な要求を入れないでよ!」


エルフリーデの言葉に仕方がなさそうに槍を手にし、フェリクスとアクロフも得物を手にベヒーモスに向かおうとする。

そしてエルフリーデはケンの要求に真っ赤になっている、そんな4人の前に小さな影が走り込むとベヒーモスとの間に立ち、向かう邪魔をする。




「お待ちなさい! あなた方には大事な使命が有るのを忘れたのですか!


そう、私の梨を取ってくると言う大事な使命が!」


「「「まだ梨にこだわるの(かよ、ですか)!?」」」


「当たり前ですよ! 私の梨とエルフの国の存亡、どちらが大事なのか明白でしょう!」


「「「エルフの国(だ、です)!」」」


当たり前だがケン達はエルフの国の方が大事だと答える、するとエルフリーデとフリッツが不審そうにドライトを見ながら言う。


「ちょっとケン、あなたはペットの躾も出来ないの?」


「しゃべるドラゴンとは珍しいが、躾が出来てないなら始末した方がよいぞ?」


そう言うエルフリーデとフリッツ、そんな2人にヤバイ! っとケンやフェリクス達が注意しようとしたが、その前にドライトが素早く2人の前に行きニヤニヤ笑いながら言う。


「おや? 私は邪魔でしたか……しかも躾が出来ていないと?」


そのドライトの姿にエルフリーデは勘で何かを感じ取ったのか口をつぐむが、フリッツが余計なことを言う。


「当たり前じゃ! アズ・エーギグ・エーレ・ファの、ひいては世界樹やエルフ族の存亡がかかっている時に、お主のような小汚ないドラゴンに関わってる暇はない!」


周りが止める暇もなく言ってしまったフリッツの言葉に、ドライトはニヤニヤ笑いを止めてプンプン怒りながら言う。


「小汚ないとまで言いますか! 存亡の危機だから少し助けしてあげようかと思って、どこにでも行けるドアーの術で獣王国と繋げてあげたのに、そう言うことなら通路は封鎖です!」


その言葉にエルフリーデとフリッツは誰が通路を開いたのか理解して、フリッツは顔色を悪くしていった。




「し、失礼ですがお名前をお聞きしても……。」


「私の名前は銀龍ドライトです、小汚なくて躾の出来てないドラゴンですから覚えなくていいですがね!」


ドライトの名前を聞きエルフリーデは真っ青になり、フリッツは卒倒する。


「わ、我等を助けし、神の龍よ。

フリッツの行いは私の責任です、ですから代わりに私が罰せられますので、民人達はお助け下さい!」


エルフリーデは慌ててひざまずき、頭を下げて懇願するがドライトはそっぽを向いて反応しない。


そんなドライトにエルフリーデは半泣きになりながら再度懇願をする。


「銀龍様、どうか……どうかお慈悲を!」


もはや土下座になったエルフリーデ、そんなエルフリーデに続き他のエルフ達も頭を下げるがドライトは明後日の方を見て反応しない。

そんなドライトの前に小さな影が進み出ると、ドライトに向けて腰に手をおき命令を出す。


「ドラしゃん! あの扉が閉まっちゃったらアンナはアクリーナしゃんやエルザしゃんと気軽に遊べなくなるのよ!? 直ぐに通れるようにするの!」


いきなり何て事を言うんだこの幼女はっと、エルフリーデ達は慌てるがそれ以上に慌てたのはドライトだった。


「そ、そうでした! 直ぐに通れるように……しました! いやぁ~、大事なことなのに怒って忘れちゃってました!」


「まったくもう、ドラしゃんはうっかりさんね!

でも、また通れるようになったのなら、アクリーナしゃんやエルザしゃんといつでも遊べるわね。」


「があがあ!」


「早く気がついて良かったですね。」


「初めてのお友達なのじゃ、なにして遊ぶかのぅ。」


アンナの言葉にドライトはがあがあ! っと鳴きながらうなづいている。




その姿にケンはあきれながらも思う。


『今回のベヒーモスの襲撃も、コイツのせいじゃないのか? ってか、あのベヒーモスの群れの中にコイツを放り込めばなんとかなるんじゃ。』


っと……。


「ちょっとケンさん、あなたはトンでもなことを考えてないで、早く使命を果たしてきてくださいよ。

もう私の口の中は、梨を受け入れる体制が出来ているんですからね!」


「お前は梨は諦めてナシゴレンでも食ってろ。」


「え? ナシゴレンが有るんですか? それならそれでもいいですよ!」


「有ってたまるか。」


「だ、騙しましたね!?」


「頭にしがみついてくるな!」


ケンとドライトがくだらない争いを始めるなか、エルフリーデは別のことに気を取られていた。


「エ、エルザ、あなたは何でここに居るの! 世界樹の種を持って逃げるように言ったでしょう!」


アンナとアクリーナと一緒にいるロリエルフに驚くと、共に抱き締めていたからだ。


「姉者、私もエルフの王族として残って戦うのじゃ!」


「エルザ! 生き残って民人を導くのも重要な務めです! それにここに残って戦うよりも……辛いことかもしれないのです。 分かってちょうだい。」


最初は怒りながら言っていたエルフリーデだったが、次第に勢いを無くして半泣きになりエルザを抱き締めながら諭そうとする。


その姿に他のエルフ達も哀しそうにしながら、自分の家族や恋人を思い浮かべているのか、それぞれが思い思いの名前をつぶやいている。


「ドライト、お前はあれを見ても可哀想だとか思わないのか?」


「まったく思いません、それよりも梨を早く! ナシゴレンでも可です!」


やっぱりコイツはダメだ、ベヒーモスの前にコイツを始末した方が良いと考え始めたケン。




だがそんなケンの考えを中断させるように、謎の声が高らかにアズ・エーギグ・エーレ・ファの空に響く。


「なら私達に任せるのよ!」


「クレセントムーンの新たな力、見せてあげます!」


「あ、姉者、放してたも!

……ふぅ、我等の力を見せるときが来たのじゃ!」


声がする場所には、謎の幼女3人が集まって立っていたのだった!



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