異世界転移 112話目




「ブモオォォォ!」


「魔導士達よ、魔力を練り上げよ! 結界を維持するのじゃ!」


「民人を逃すのです、幼子達を優先させなさい!」


「パパー、ママー!」


「うちの子が、うちの子がさっきから動かないの!」




ケンとフェリクス達は王宮を出て、街と世界樹を囲むように有る城壁の上にまで来ていた。


そこに来るまで通りには、逃げ惑うエルフ達や獣人達、そして少数のドワーフや人間達がいた。

ほとんどの者達は我先に城壁に向けて着のみ着のままで逃げていたが、子供や愛する人を守るためなのか、着なれない鎧を着て、持ちなれない武器を持った少なくない人数が城壁に向かって走っていた。


そしてケン達も城壁の上に行くと、武器を持つ者達が走り行く騒がしい方向に向かい、“それ”を見た瞬間に固まってしまっていた。


「あ、いたいた居ましたよ、ケンさん達が居ましたよ!」


そこにドライトがクリス達を連れてやって来る。


「ご、ご主人様!」


「ケン、どうするのよ!?」


クリスとミラーナが駆け寄るなか、リンカが結界が歪み始めているのに気がつく。


「あかん、結界が歪んどる!

パトリシア様、結界を維持しているエルフ達を助けるっちゃよ!」


「……ッハ! あなた、私はエルフ達と結界を維持します、リンカさん行きましょう、クリスちゃんも一緒に来て!」


「は、はい!」


「あ! パトリシアお姉様、クリス! ……あれ? あ! ジャンナさん、あそこに逃げ遅れた子供達が!」


「! ミラーナ様、行きましょう!」


パトリシアとリンカとクリスは結界を維持するためにエルフの魔導士達の元に向かい。

ミラーナとジャンナは逃げ遅れた子供達を保護するため駆け出す。


残されたケンにフェリクスとアクロフに背景の3人こと獣王国四天王の残り。


「ドラしゃん、ケンのお兄しゃん達が固まってるのよ?」


「ピクリともしませんね?」


「この3人とあいつ等なら戦力になるんじゃが、なんとかならんかのぅ?」


「仕方ありませんね、この頭カチワールを使うしかないようです……死になさい!」


「「「危な!?」」」


ドライトが頭カチワール、鉄パイプに滑り止めを巻いたものを取り出して、ケン達の頭めがけて振るうが殺気に気がついたケン達は慌てて回避する。




「て、てめぇ! 何しやがる!?」


「気がつきましたか、それじゃあさっき言った通りにお願いします……あ! あそこですよ、あそこに最高の梨園が有るんですよ、そこのを持ってきてください。 さぁ、レッツ梨狩り!」


「ブモオォォォ!!」


頭カチワールのおかげで意識を取り戻したケン達、あ然とするフェリクスとアクロフに文句を言うケンを無視して、ちょっと騒がしい方向に有る梨園から梨を採ってこいと指差して言うドライト。


そしてドライトが指差した先には、10数頭のベヒーモスが居た。


「……え? じょ、冗談ですよね!?」


「あのギリギリ結界の内側に有る果樹園か!? 無理ですって、今にもベヒーモスが来そうじゃないですか!」


「よし、アホ、諦めろ。」


フェリクス、アクロフ、そしてケンが口々にそう言うと、ドライトは悲しそうにうつむき言う。


「……私、梨が大好物なんですが……そうですか、諦めないとダメですか。


あー、なんかあのベヒーモス達に向かってブレスが吐きたくなってきました、世界の半分ちょいが滅びますが吐いちゃいますかね!」


「急いで討伐の準備をします!」


「ベヒーモスの100や200、物の数ではないわ!」


「あのベヒーモスを討伐するよか、お前を討伐した方がいい気がするぜ!」


フェリクス、アクロフ、ケンがそれぞれに答えて装備を身に付ける等の準備を始める。


するとエルフの兵士や魔導士達が集まる場所から、バタバタと数人のエルフ達が走り寄ってくる。




「フェリクス殿、アクロフ殿!」


「「エルフリーデ(様)殿!」」


「なぜこのような時に来たです、早くアズ・エーギグ・エーレ・ファから去るのです!」


周りのエルフ達は何か言いたげだが、エルフの女王、エルフリーデは早くエルフの国から出ていけと言う。

だがその姿は嫌悪感からなどではなく、明らかにアクロフとフェリクスの身を案じてからだった。


「何を言われるか、このような時だからこそ良かったではないですか。

ハクトウ、ボーッとしてないで国に帰り軍を動員して連れてくるのだ!」


「そ、そうでした! あのドアを使えば直ぐにでも援軍を連れてこれます!」


そう言ってハクトウは宮殿に獣王国とエルフの国を結ぶ扉が有ることを、エルフリーデ達に説明をする。

するとエルフリーデは少し考えてからハクトウを呼び止めて言う。


「待って、もうアズ・エーギグ・エーレ・ファはおしまいよ、なら軍を呼ぶよりも民を逃がしてあげたいわ。」


「な!? アズ・エーギグ・エーレ・ファを棄てると言うのですか!」


「アクロフ殿には済まないと思います、邪神戦争の時にこのアズ・エーギグ・エーレ・ファを……世界樹を守るために多くの獣人達が犠牲になったのに、自らが危険になったとたんに放棄すると言うのだから……。


ですが問題は今まさに攻めてきているベヒーモス共だけが問題ではないのです、偵察を出したところその背後にさらに恐ろしい力を持った存在が、2体確認されているのです。


ベヒーモスを追い返せたとしても、もしその強大な力を持った存在がやって来れば、アズ・エーギグ・エーレ・ファは簡単に滅ぶでしょう……ならばせめて民人だけでも助け、エルフの命脈を繋ぎたいのです!」


沈痛な面持ちでそう言ってくるエルフリーデ、そんなエルフリーデの前にフェリクスが進み出ると。




「エルフリーデ様、ならばやはりベヒーモスだけでも撃退しましょう! そして時間が稼げれば、脱出もスムーズに出来るはずです!」


「フェリクス殿、久しいですね……あなたはレーベン王国に必要不可欠な人物です、あなたの性格だとベヒーモスと刺し違えてでも戦うでしょう。

そしてもしここであなたが倒れれば、私はレーベン王国の者達だけでなくマリルルナ様にも顔向けが出来ません、だからこそあなたとアクロフ殿にはベヒーモスと戦う事は許せません。」


エルフリーデの言葉に、フェリクスとアクロフは悔しそうに顔をうつむける……そんな2人を見ていたエルフリーデの視線が、ケンに向かい止まると。


「あなたは死んできなさい。」


そう言ってベヒーモスの群れを指差す。


「……よし、帰ろう!」


「待ちなさい天槍のケン、あなたは昔にこのアズ・エーギグ・エーレ・ファで、さんざんに暴れてくれましたね? その時の損害などを返すチャンスをあげると言っているのです。 さぁ、死んできなさい!」


振り返り帰ろうとするケンの腕を掴み、ケンをベヒーモスに向かわせようとするエルフリーデ。


「お前は、いったい何を仕出かしたんだよ……。」


そんな2人を見ながらあきれるフェリクスにケンは嫌そうに言う。


「昔に獣王国で建材を集め終わったあとに、ここでミスリルの釘とか買おうと思って来たらさ……ちょうど見回りをしていたエルフリーデと鉢合わせになって。


それで……この豊乳を見て俺は思わず偽乳だ! って叫びながら思いっきり揉んだんだよ。


そしたらこのバカ、戦術級魔法を連発して、アズ・エーギグ・エーレ・ファに甚大な被害を出しちまってな、乳の1つや2つ良いじゃねえか、なぁ?」


「「お前は本気で死んでこい!」」


ケンはしっかりとエルフの国でもやらかしていた。




「いつもの奥の手を持ってるんでしょ! 突っ込んで一緒に爆死しなさいよ!」


「バカ野郎、あれ集めるの結構金がかかるし、手間なんだぞ!」


「ブモオォォォ!」


こうして公衆の面前で思いっきり胸を揉みしだかれた事をいまだに恨むエルフリーデと、色々と面倒になってきたのでバックレたいケンとの怒鳴りあいと、ベヒーモスの雄叫びがアズ・エーギグ・エーレ・ファの空に響くのだった。



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