異世界転移 111話目




「ほ、本当にアズ・エーギグ・エーレ・ファだわ!」


「パトリシア様、ここってアズ・エーギグ・エーレ・ファの謁見の間じゃあ……。」


「じ、実際に体験すると、本当に驚くな……。」


「これが神の力か……!」


ドライトに言われて慌ててドアを潜ったパトリシア、ジャンナ、フェリクス、そしてアクロフの4人は信じられない事が起きたと周りを見回している。


「俺もさすがにアズ・エーギグ・エーレ・ファの謁見の間にまで来たことないが、この気配や回りの調度品からして間違いなくここは……エルフの都、アズ・エーギグ・エーレ・ファだな。」


ケンのつぶやきに、クリス達やハクトウ達は驚愕するのだった。




「ちょっと、クリスやカリーナ達が驚くのは良いわ、知らないのだから。

なんでそっちの四天王はリンカさん以外が驚いてるのよ?」


「そりゃアホだからっちゃね。」


ミラーナが信じられないものを見る目でハクトウ達を見ていて、リンカは淡々と答える。


「アズ・エーギグ・エーレ・ファ、天上まで伸びる木、つまり世界樹の事でエルフの都の名前ですね。

獣王国とは強固な同盟関係を結んでいて、邪神戦争もお互いに助け合っていたので行き来を盛んにしていたはずです、なのに知らないと言うか覚えていないのはさすがに……。」


ドライトもそう言ってあきれているが、そんなドライトにフェリクスが進み出て言う。


「ドライト様、ありがとうございます、こんなに早くエルフ都に来れるとは思っていませんでした。

すぐにエルフの種子を買い求めてきますので、お待ちいただけますか?」


「おお、忘れてた。


俺も買いに行ってくるよ、犬っ娘達も見て回るだろ。 クリスとミラーナ達はどうするんだ?」


そう言って買い物に行こうとするフェリクスとケンに、ドライトが目を細めて新たな使命を授ける。


「ならケンさんとフェリクスさん達には、先程も言った新しい使命です。


……季節は秋、梨や柿にリンゴの美味しい季節です! っと言うことで果物を買うなり狩るなりして、いっぱい集めてきてください!」


使命と聞いて一瞬嫌な顔をしたケンとフェリクスだが、その使命が果物を集めてこいと言う簡単なものだったので、拍子抜けして了解っと答えてしまう。


「エルフの都か、興味有るわね?」


「早速行きましょう。」


カリーナとシリヤはそう言ってケンの側に行く、犬っ娘達はすでに通路に頭を出して辺りの様子をうかがっている。


アクロフ達はすでに「久方ぶりにエルフリーデ様に会えるな!」っと言ってリンカ以外の四天王を連れて外に出てしまっている。


「エルフリーデ様?」


「クリスちゃん、エルフの王女様の名前よ、多忙な父王や王太子様に代わって細々に政務をしているのよ、外交も担ってるから私達やアクロフ様とも親しいの。

あなた、私達も急いで挨拶に行きましょう!」


「そうだった、買い物の前に挨拶をしなければな!」


クリスの疑問にパトリシアが答えると、フェリクスと一緒にアクロフを追って駆け出す、ジャンナはえ!? っと驚き、駆け出したフェリクス達とドライトを見比べてから仕方なくフェリクス達を追っていく。




「ちょっと待て、種子は俺達も多く欲しいんだから、フェリクス、待て!」


「追うのよ!」


「わふん!」


「エルフの女王様って、やっぱ凄い美人なのかな?」


「見てみれば分かりますよ。」


「追い駆けっこなら負けないよ~。」


「犬人族の持久力、見せてあげるわ!」


走り去ったフェリクスを見て、種子を独占されると思ったのかケンも走り出す。

そして犬っ娘達にカリーナとシリヤも着いていってしまった、どうでもいいがアルマ、持久力だけじゃ短距離の追い駆けっこには勝てないだろ。




なんにしろクリス達は呆然として残されてしまう。

クリスなんか、ケンを呼び止めようと手を伸ばした状態で固まっている、そんなクリスに声をかけて自分も追おうとしたミラーナだが、アクリーナとアンナの言葉で自分も動きを止める。


「あ、あの大丈夫なのですか?

こんなに様子が変なのに、バラバラに行動するなんて……。」


「そうなのよ、ここは偉い人が居るところなのよ、ならもっといろんな人が居るはずなのに誰も居ないだなんて変なのよ!」


言われてからミラーナはハッとして、クリスはため息をつきながら自分の装備を確認し始める。


そしてリンカはケラケラ笑いながら、


「みんなアホばかりだっちゃね。」


っと言い、そしてアクリーナとアンナの隣ではドライトがニヤニヤ笑いながら、アンナとアクリーナのための装備を取り出していたのだった。




「さて、エルフの王宮を探索しながらケンさん達を追いかけますよ!」


「任せるのよ!」


「が、頑張ります!」


ドライトにうながされて、見るからに強力そうな装備を身に付けたアンナとアクリーナが練り歩く。


ちなみにアンナには銀色に光輝くハーフプレートアーマーに剣と盾が、アクリーナにはフルプレートアーマーにゴツい爪の付いた小手が渡されている。


そしてそんなアクリーナだが熊の手足が長くなったよう姿で、獣寄りの獣人だった。

そのために同じ獣人でも同族でなければ細かい見た目の区別がつかないのだが―――


「アクリーナちゃんは可愛い系なのね。

お目目がパッチリで唇はプルンとしてるのよ!」


っと、アンナは見た目の事を話している。


そしてアクリーナも人族とはあまり会ったことがないので、見た目の区別がつかないはずなのだが。


「アンナさんは美人さんですね、切れ長のお目目が羨ましいです!」


っと、アンナのまん丸お目目を見て言っている、なるほど分からん。


ちなみにリンカは狐耳に狐の尻尾と髭以外は普通の人と変わらない見た目だ、尻尾は5本有るが。


そしてそんな2人と、先導するドライトを追いながらミラーナ達が慎重に歩いていた。


「ほ、本当に誰も居ないわね、そのことにケン達も変だと思わなかったのかしら?」


「はぁ……ミラーナ様、エルフ種子に目がいっちゃってるんじゃないんですかね。」


「ケンにフェリクス様はともかく、アクロフ様や他の四天王が気がつかないんは……アホだから仕方ないっちゃ。」


「ジャンナさんは気がついていたみたいだけど?」


「ミラーナ様、ジャンナの姉御は元々は獣王国の警備隊長だったっちゃ、四天王と違ってアホには出来ない仕事なんよ。」


「リンカさん、それじゃあ自分もアホだと言ってますよ。

って言うかリンカさん、狐人族の方ってそんなしゃべりかたでしたか?」


「あー……これは狐人族の長の家系の女子に伝わる言葉使いなんよ。

他の狐人族も使わんから、珍しいちゃよね?

なんでこんな言葉使いなのかは過去の勇者が関係しとるらしいけど、古い話しすぎて何でかは分からんちゃね。」


「はぁ……伝統というものですね、勇者様が行ったのなら何か意味があるんでしょうね?」




リンカの説明を聞いたクリスは納得してウンウンとうなづいていると、先頭をトテトテと歩いていたドライトがいきなり振り向いてリンカに向かって言う。


「その言葉使いは今から500年ほど前に、マリルルナさんが暇潰しで召喚した勇者の影響です。

その勇者はなんかのアニメか漫画、劇や物語ですね、に影響されてお付きの狐人族の長の娘の言葉使いを変更させました。」


「そ、そうなのちゃね! やっぱりちゃんとした意味があったちゃね! 当時の勇者様とうちらの狐人族の娘の親愛を表してるちゃね!」


「で、当時の娘は頑として拒否して、勇者との間にできた自分の娘に押し付けてしゃべらせていました、その娘も偉大な父と母の言葉だからと使っていましたが、心のなかでは嫌がってたんですよ。


それでマリルルナさんが転けた拍子に召喚してしまった賢者に、他にいい言葉使いはないかと詰めより、悪のりした召喚賢者によって言葉使いが魔改造されてしまったのです。」


「聞きとうなかったっちゃ!」


「ちなみにそんなことが200年の間であと5回程あり、さらに300年続いた邪神戦争の混乱でさらに意味不明な言葉使いとなったのです!」


「ドライト様、リンカさんの精神が限界なのでもうその辺で……。」


リンカはドライトによって狐人族の長の娘に伝わる大切な様式美の素晴らしい話が聞けたので、あまりの嬉しさに虚ろな瞳で虚空をヘラヘラと見始めていた。




「あ、あれはお外の光なのよ!」


「とうとう外の世界に出られたんですね!」


どうやら建物の外に行ける出入り口が見えてきたようだ、そしてアンナとアクリーナは初めて見る異国の建築や家具などに興奮して、探検家気分になっているようだった。


そしてそんな愛らしい2人を精神がどうにかなってしまった1人を除いて、にこやかに見守りながらクリス達は建物から外に出るのだった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る