異世界転移 104話目
「おい……フェルデンロットに山脈なんかあったか?」
「ケン、俺に聞くな、ここの領主はお前だ。」
ケンは呆然としながらフェリクスに聞き、フェリクスも呆然としながら答える。
「さすがはセレナ様だ、山脈を一瞬で創り出すとは。」
「テ、テクタイト様、創り出したって……。」
「ま、まさか、嘘ですよね?」
テクタイトのつぶやいた言葉に、パトリシアとミラーナも呆然としながら聞き返す。
「ふぅ……セレナ様はあの山脈を一瞬で創造し、創り出したのだ。
まさに神の御業よ……。」
テクタイトの説明を聞き、もはや言葉も出せないミラーナ達。
だがクリスがフッと思ったことがありテクタイトに質問をする。
「あのテクタイト様、なぜご主人様達はあんなに身構え、私達は何も分からなかったのですか?」
「それだけ強者だということだ。
創造の力の一部でも察知して理解できるほどの力が無ければ、今の力にはなんにも感じられん。
しかし理解できれば、創造の力の恐ろしさがよく分かる……いや、感じることが出来る、理解したり分かるなどワシら程度では無理だからな。」
テクタイトの言葉にミラーナ達は龍の力の一端を見て、戦慄するのだった。
「と、言うわけでフェルデンロットに石材だけじゃなく様々な鉱石が採れる山脈が発見されました。
なんとドワーフ族も住みやすい地域も有るという至れり尽くせりの仕様でです!」
山脈を背にパタパタと飛びながら、ドライトがふんぞり返ってしゃべる。
「仕様とか言うな、あと創ったのはセレナ様でお前じゃないのになんでお前が偉そうにしてるんだ。」
「ハッハッハ、良きに計らうのです!
それでですね、あの山脈を創ったからにはケンさん達には働いてもらわなければいけません。」
ますますふんぞり返ってそう言うドライト、もはやあお向けになっている。
「良きに計らえの使いどころが違うだろ!
なんにしろお前が創ったものじゃないのに、なんで俺達がお前の命令にしたがって働なきゃならんのだ。」
「おや、良いんですか? せっかく発見した山脈を吹き飛ばされても。」
ふんぞり返りすぎて、ドライトは逆さまになって飛んでいる。
「お、お前まさか!」
「私が本気……にならなくても、あの程度なら軽く消し去れますよ。
……一回転しました!」
とうとうドライトは一回転して普通に飛ぶ、最初の状態に戻ったとも言うが。
「……お前の弱点がセレナ様、母親だとはバレてるんだぞ?」
「はぁ、話してもいいですが母様がまた創ってくれるとでも?
それに私の命令を聞かなかった罰と言えば母様も私を怒りませんよ。
ましてやあなたは、私の使徒なのですからね。」
そう言ってニヤリと笑うドライト、ケンは憎々しくドライトをにらみ。
2人のやりとりを聞いていたミラーナやフェリクス達もさすがに顔をしかめる。
そしてなぜセレナがドライトを叱って止めないのかと言うと、お昼になったのでアンナを呼びに来たクラーラに連れられて、子供達と食事に行ってしまったからなのだ!
「……っち! お前の命令を聞けば山脈を残してくれるんだよな?
とりあえずどんな命令なのかは聞くから、言ってくれ。」
「いや、聞くだけじゃなく、従ってくださいよ……。
それでですね、盗み聞きしてたんですがフェリクスさん達は獣王国に行くんですよね? ジャンナさんのご両親に正式に結婚したと報告するためと、隣国のエルフの国から輸入されたエルフが育ててる作物の種を手に入れるために。」
「な、なんでその事まで!」
ドライトはフェリクスに向き直ると、フェリクス達が隠していた旅の目的を言い当てる。
「良きに計らうのですよ?
それでですね、ケンさんも一緒に獣王国に行ってもらいたいのです、テクタイトさんも連れて。」
「わ、わしもですか!?」
ドライトの話を聞いていたテクタイトだったが、いきなり自分の名前が出て獣王国に行けと言われて驚いている。
「そうですよ、あなたがケンさん達を乗せて飛んで行けば旅も短くて済むはずです。
これも世のため人のためなのです!」
「お前が言うと、とたんにうさんくさくなるな……しかし、エルフの種子か。」
ケンはドライトがまともなことを言ったので、うさんくさそうにしながら考える。
「ねぇケン、エルフの種子ってそんなに良い物なの?」
そんなケンにミラーナが質問をすると、ケンはうなづきながら説明をする。
「エルフってのは、農耕が上手いんだ。
しかも精霊信仰なんで自然の恵みを無駄にはしない、例えば麦の種なんかも専用の畑から取る。
そしてその麦の種子を使うと収穫量が10倍になるなんて言われてるんだ。」
「10倍! ケン、それは是非にでも私達も入手しなくちゃ!」
ミラーナはキャー! っと喜びながら言うが、ケンは困ったように言う。
「だがな、さっきも言ったようにエルフは自然の恵みを無駄にしない、つまり種子なんかも自分達の分しか用意してないはずなんだ。
手に入れるのに前の年から頼んでおくとかしないとなんだが……フェリクス、お前は頼んでいるのか?」
「そんなわけ無いだろ……ケン、先にエルフの種子を手に入れようと考えたのは、俺達だからな?」
数が少ないエルフの種子を取られまいとフェリクスは予防線を張るが。
「よしきた、早い者勝ちだな、テクタイト! 頼むぜ!?」
「うむ! ドライト様の勅命である、本気で飛ぶから小一時間も有れば着こうぞ!」
「待て待て待て、本当に待ってくれ!
シュテットホルンが農業に向かないのは知ってるだろ、だから今回のエルフの種子は本気で手に入れたいんだ、頼むから待ってくれ!」
ケンとテクタイトはフェリクスの話を聞いて、早速に出し抜く算段をたてている。
そんな2人にフェリクスは慌てて止めに入る、そしてそんなフェリクスの援軍は意外な人物だった。
「ケンさんテクタイトさん、フェリクスさんも連れて行くのです。」
「「ドライト(様)?」」
ドライトがフェリクスを連れていけと、意外なことを言い出したのでケンとテクタイトは驚き見る。
フェリクスや他の面々も驚いているが、それよりも連れて行けと言われてホッとした様子だ。
そんなフェリクスは1歩ドライトの方に行き頭を下げながら言う。
「ありがとうございますドライト様、エルフの種子は民のためにしっかりと分かち合います……。」
そう言って感謝の意を示すフェリクスを、ドライトは何言ってんだこいつと言う感じで見てから爆弾を落とす。
「エルフの種子なんかどうでも良いのです!
それよりもあなた方は私の名代として獣王国に行き……獣王国を滅ぼしてくるのですよ!」
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