異世界転移 71話目
色々とあってグダグタで終わったフェルデンロット地方軍の壮行会。
結局ケン、フェルデンロット男爵は異世界からの転移勇者にして使徒だったと大々的に報じられ、子爵に陞爵になってからフェルデンロットに向かうことになった。
なんにしろ日本でいうなら3月の後半、まだ夜は寒いが日中は暖かくなって来た頃にフェルデンロット地方軍の先遣隊、クッコネンを指揮官にした精鋭隊三千がロットリッヒに向かって出発したのだった。
この部隊は、アイヒベルクやその他の町や村を繋ぐ街道から、魔物や盗賊などを討伐をしながら進む部隊だ。
そしてその後に本隊である屯田兵達とその家族が続く。
本隊の数は最初に予定していた三万を大幅に越えて、五万を越えて六万人に迫る勢いだった。
これはケンが転移勇者で銀龍の使徒だと知れてしまい、そんな方がフェルデンロットを復興させるならば! っと、流民や難民がワレモワレモと参加したからだった。
六万もの人の移動である、隊列はのびにのびてしまい、六千ほどしかいない屯田兵では警護も誘導もできなかった……が!
ケンが使徒だと知った国王の一喝で軍が派遣されることになり、王都からフェルデンロットまでの街道には多数の軍隊が配置され、街道の安全は確保されていた。
こうなると安全と分かった途中のアイヒベルクや他の町や村からも移民や流民などが加わり、とうとう移動する人員は10万にまでとどきそうだった。
「おい、ハロネンとロボネンはまだか?」
「閣下、今こちらに向かってるとのことです!」
「他の幹部も集めろよ? それとそこの!」
「はっ!」
「クッコネンに伝令だ、アランの騎馬隊を戻らせてフェルデンロットとロットリッヒで街道を往復するように伝えろ! これが命令書だ。」
「了解しました!」
ケン達はロットリッヒの手前で陣を張り、各隊や街道間の都市等と連絡を取っていた。
なんにしろ人数が人数である、このままロットリッヒに行くわけもいかずに、ロットリッヒの手前で指揮を取っていたのだ。
「閣下、お待たせしました!」
「来たか、いきなりだがハロネン子爵はロットリッヒ辺境伯と共に先行してロットリッヒに入ってくれ、そこで辺境伯軍や駐留軍と一緒に陣地の作成を頼む。
以前にシュテットホルンを奪還した時と、帝国に食料を輸送した時に軍が使った場所が西門の近くに有るはずだ、ロットリッヒ辺境伯様はすでに向かっているのでそれを助けてくれ。」
「かしこまりました。」
「ロボネンは食料を買え! 買って買って買いまくってロットリッヒに送れ!
出来たら馬車ごと買えたら買って、空になった馬車で流民や難民をロットリッヒに運ぶんだ、ただしロットリッヒには入れずにハロネンが用意した陣地に入れろ、下手にロットリッヒに入り込まれてロットリッヒの住民ともめられたら目も当てられないからな?」
「そうですな……それと言われていた資金の計算ですが、王国と貴族などから支援金が思った以上に集まったので、3年は余裕があると思われます。」
「思ったより有るな……ロボネン、とにかく食料は5年分は買い集めといてくれ、ここが踏ん張りどころだぞ? 皆、頑張ってくれ、解散!」
「「「はっ!」」」
ケンの命令を聞いてハロネン達は指揮所にしている天幕から飛び出していく。
「くっそ! こんなんじゃ年内に移動が終わるかもわからん!」
「ご主人様、少しお休みになられた方が……」
会議が終わり、頭を抱えるケンにクリスがお茶を持ってきて心配をする。
「休みたいけど休んでたらベッドでクリス達と休む時間が減っちゃうだろ!」
「……それはそれで休めないのでは?」
「まぁ何にしろ、早く片付けないとマジで次の冬までに移動できない人が出てくるからな、頑張るしかないよ……それよりミラーナ達はどうした? この2、3日見てないが?」
「それが、5日前に先にロットリッヒに行ってどうなってるか見てくるって……カリーナとシリヤに、チェルシーちゃんと騎士を10名程護衛として連れて行きました。」
「おお……夜の癒しがクリスだけに……ん? たまには2人っきりでシッポリってのも良いのか?」
「ご、ご主人様!」
クリスは天幕の中に書類を整理する文官や、伝令などを勤める武官が複数人居るのにセクハラ発言をするケンを真っ赤になって叱る。
すると天幕の外が騒がしくなる、その騒がしさにケンは外の様子を気にしているとユックリと綺麗な動作でドレスを身につけた淑女が入ってきた。
「旦那様、今帰りましたわ?」
「……なんだ? 幻覚でも見てるのか? 淑女なミラーナが居るぞ?」
「……ご主人様、もしかしたら双子の姉妹とかじゃないですか?」
「あんた等、切り殺すわよ!?」
「「ミラーナ(様)だ!」」
なんと天幕に入ってきた淑女はミラーナだった!
いつもの、どこが高位貴族のお姫様なんですか? っと問いたくなる所作は鳴りを潜め、最近のお気に入りの外出着はドライト様にもらった装備一式です、室内着ですか? 室内ではクロースアーマを身に付けてます。
寝間着ですか? 寝間着はケンにむかれるので大体いつも身につけません。
「なんて事を言いそうなミラーナはどこに行ったんだ!?」
「そんなことは言わないわよ!
特に最後のはほぼ痴女じゃない!」
「ミラーナ……いつものミラーナが戻ってきた!」
ケンの妄想はモロに口に出ていた、その妄想に突っ込みを入れるミラーナは服以外はいつものミラーナだった、そんなミラーナに嬉しくなってケンが抱きつくとミラーナはアウアウ言って何も出来なくなってしまう。
ミラーナを抱きしめて幸せなケン、最愛の夫に抱きしめられて幸せなミラーナ、いつの間にかそんな2人と一緒に抱きしめ抱きしめられて幸せなクリス、こんな幸せ空間が何時までも続くのだった……
「ミラーナ! あなたは何をしているの!?」
「ロットリッヒ辺境伯家の長女として、情けない姿を見せるとは何事だ!」
まぁ続くわけがなかった。
天幕の出入り口に2人の男女が立っていて、その2人がミラーナに厳しい視線を向けている。
「……誰だこいつら? 男は俺のミラーナに横恋慕でもしているボケか? ぶっ殺すぞ、失せろ!
そっちの美しい女性は……ミラーナのお姉さんか! いつもお世話になっています!」
「……夫として申し分ないようですわね、好い人を捕まえたわね、ミラーナ。」
「イヤイヤイヤ! どこが好い人なんだ!? 私の事をぶっ殺すとか言ってるぞ!?」
「父上、落ち着いてください、ミラーナ、紹介してくれないとお互いに誰が誰だか分からないよ?」
いつの間にか天幕の前に、新たに20歳ぐらいの男性が現れて、先ほどの2人をいさめながら天幕の中に入ってくる。
それを横目に見ながらミラーナが3人を紹介してくれる。
「ケン、クリス、こちらが父のヴォルター、そしてこちらが母のシルヴィアで、そこに立ってるのが兄のコンラートよ。」
「ミラーナ様のお父様にお母様、それにお兄様、クリスと言います、よろしくお願いします。」
「あらまぁ、しっかりとした挨拶だこと!」
「ふふん! 私の自慢の妹よ!」
クリスが立派なカーテシーをしながら挨拶をすると、シルヴィアは驚きながらも感心して、ミラーナは嬉しそうに自慢する。
「……それで、ミラーナの夫からの挨拶が無いのだが、どうなっているのかね?」
対してヴォルターはケンに向けて鋭い視線を向けながらそう言ってくる。
「ケン、早く挨拶をして!」
そんなケンにミラーナがうながすと、ケンは少し震えながら言う。
「ミ、ミラーナの両親って……クタバッてなかったのか!?」
「あなたねぇ、失礼すぎるでしょう?」
「君は英雄なんて呼ばれて、増長しているのではないか?」
「ケン、早く謝って!」
ミラーナの両親は冷たい視線を送り、ミラーナは早く謝るように言ってくる。
だが、そんな3人とケンの間に入って擁護してくれる人が居た。
「まぁまぁ3人とも、子爵殿も理由があってあんなことを言ったんだろ? 理由を聞いてみましょうよ。」
ミラーナの兄のコンラートがそう言うと、ケンはばつが悪そうに言う。
「いや、ミラーナと知り合ってそろそろ半年、結婚してからは3ヶ月が過ぎてるんですけど……ご両親の話って1度も出てこなかったんですよね?
ロットリッヒに居たときに、お兄さんがどうのこうのって話は聞いたんですが……両親の事は言いたくない、つまりもう死んでるのかと……」
「「え?」」
ミラーナの両親は一言も自分達のことを聞いていないと知って、驚きながらミラーナが居たところを見るが、ミラーナは煙のように消えていた。
そこにカリーナとシリヤが慌てて駆け込んでくる。
「ちょっとちょっと! ミラーナ様はどうしたのよ!」
「いきなりロットリッヒに行くって言って行ったら、知らない間にこっちに帰りますし、今も天幕から飛び出していきました。」
カリーナとシリヤの言葉にシルヴィアがニコニコと笑いながら黒いオーラを出して聞く。
「天幕から飛び出して、どちらに向かったのです?」
「ん? お姉さん誰……あ! ミラーナ様のお姉さん!?」
「ミラーナ様はバレましたわ! って笑いながらどっかに行きました、頭が上下しないでドレスも乱れずに私達が全力で走るぐらいの速度で、正直気持ち悪かったです。」
カリーナとシリヤの言葉にシルヴィアはさらに黒いオーラを強くしながら聞く。
「1人で行かせたのですか? それにちょっと話があるので捕まえたいのですが?」
「あー、チェルシーちゃんが、負けませんワン? って言いながら同じ動きで追っていたから平気じゃないですかね?」
「なんでわざわざドレスに着替えてかなのか謎ですが……あ、捕まえてきたみたいですね?」
カリーナとシリヤの言葉通りに、天幕の中にチェルシーが入ってくる。
「帰りましたワン!」
「まだ淑女教育してたのか……いや、チェルシーは遊んでるつもりか?
なんにしろミラーナはどうした?」
「獲物はロープにくくって引きずるのが1番なのです!」
「お、お前まさか!」
チェルシーの後ろを慌てて見ると、ロープでがんじがらめに縛られたミラーナがいた。
しかも引きずられたのでボロボロだが顔だけはにこやかだった、シルヴィアを見て真っ青だが……
「ミラーナ、どう言うことか説明してくれるわね?」
シルヴィアの言葉は地獄の底から響くような声だった。
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