異世界転移 64話目




「それでは適性検査に入りますね、まずはこの書類に必要事項を書いてください。


文字の読み書きが出来ない場合は私達、受付嬢が代筆をさせていただきます。」


「有料だけどな。」


「それと魔力量と適正魔法の検査も出来ます、これもぜひ受けておいて下さい、魔法の適正が高ければ高位の冒険者になれる可能性が高いですからね?」


「有料だけどな?」


「あとは冒険者としての基本的な座学や戦闘訓練ですね、これは後からも受けられますがぜひ受けてください。


これを受けていないと受けられない依頼も多数ありますから!」


「有料だけどな!」


あらかた説明を終えたペトラとケンはにらみ合う。




「あ、あの、どう言うことなんですか?」


にらみ合いお互いに動かなくなったケンとペトラを見て困ってしまったカリーナが周りに質問をする。


ミラーナはもちろんクリスにチェルシーは答えられなく、元々冒険者ではないフェリクス達もなにがなんだか分からずに答えられない、そこで仕方なくアルヴァーが説明をする。


「冒険者登録事態は無料なんだが、代筆に座学や基礎訓練は有料なんだよ。


後で報酬から天引きするんだわ、俺も覚えがあるよ、必死でクエストこなしてギルドに報告して、銀貨1枚づつの報酬が貰える! って思って受け取ったら銅貨70枚にしかならなかったってな?」


「3割も取られるの!?」


「暴利すぎますね。」


アルヴァーの話を聞いてカリーナとシリヤが驚いている、あ、ミラーナにクリスとチェルシーも驚いてるな。


「後になって有料って聞かされて、詐欺だろ!? って思ったけど冒険者ギルドもカツカツだし、新人の冒険者をわざと騙してこれからは騙されないように、っていう冒険者ギルドなりの注意らしいんだわ? 実際に新人の冒険者は商人なんかに結構騙されるからな? 必要な事では有るんだわ?」


アルヴァーの話を聞いていて、ふとクリスが質問をする。


「アルヴァーさん、ロットリッヒだとそんな話はあまり聞いたことがないんですか?」


クリスが質問をすると、アルヴァーはうなずきながら言う。


「クリス嬢ちゃん、クリス嬢ちゃんがケンに買われる直前に、新人の冒険者が騙されて奴隷にされかけるってあったんだ。」


アルヴァーがそう言うと、当時ロットリッヒに居た者達以外が驚いた顔をする。


それを見ながらアルヴァーは続ける。


「で、ケンが言ったんだ、俺やロットリッヒの冒険者でリーダー役になってる奴等に素材を売るなってな?


結果が商業ギルドを筆頭に、関係ギルドや商会の商会長がケンの元に土下座に来たんだ。


なんでそいつらが慌てて土下座しに来たかって言うとな? 昔、10年ほど前にうちのカウノとミルカが騙されて、借金奴隷になっちまったことがあったんだよ……」




アルヴァーそう言うと、昔を懐かしむように語りだした。




「ケン! カウノとミルカが奴隷になっちまった!

殴り込みに行くから手を貸してくれ!」


「うん、嫌です。」


「な!? お前それでも冒険者なのか! 商業ギルドの奴等に良いようにされろってのか!?」


「おう、取り合えず後ろに居るフェリシーに注意だ。」


[ゴン!]


「ケン、無理は承知で頼みます、なんとかなりませんか?」


「……お前ら確か楽園の探索者っていうクランを立ち上げてたよな? それと……おい! お前らもちょっと来い!」


アルヴァーはフェリシーにメイスで殴られて気絶する。

そして気絶させたフェリシーはケンに頭を深々と下げると、そう言って頼んでくる。


するとケンは最近にアルヴァーとフェリシーが立ち上げたクランの事を言いながら、近くに居た有力な冒険者達を呼び寄せる。


「おう、なんだケン、カウノとミルカのために殴り込みに行くならいくらでも力を貸すぞ?」


近づいてきた冒険者の中でも最古参の冒険者アウロフがそう言ってくる、そんな冒険者達を見ながらケンは言う。


「それじゃあただの犯罪者だろうが! 俺が言いたいのは半年で良いから、商業ギルドや今回の事に関係した商会なんかにいっさいがっさい手を貸さないし依頼を受けないと宣言してほしいんだ。」


「お前、そりゃあ……」


老齢の冒険者、アウロフはそう言って宣言を躊躇する。


何故なら今回の一件に商業ギルドの幹部や有力な商会が絡んでるいると予想しているからだった。


そしてケンの言うことを受けると、新人やそこから抜け出したばかりの冒険者が生活が出来ないから躊躇したのだ。


「例の……何とかって最近にロットリッヒに来た商会有っただろ? あそこなら問題ないだろうからそこに売れ、冒険者ギルドにも徹底させろよ?


それとアウロフ爺さんにフェリシー、カウノとミルカの代金になるかは分からんがこれを預かっといてくれ、俺は少し出てくるわ?」


色々と理解したフェリシーが冒険者ギルドから立ち去るケンに頭を下げる。


そしてケンが渡してきたコンビニの小袋サイズの毛皮で出来た袋を開けて中を出す、すると数々の銅貨や銀貨に少しの金貨が出てきたのだった。


そして半年後、カウノとミルカは買い戻され戻って来た。


そして2人を騙した商会は潰れてしまい、商業ギルドもかなりの赤字をだしてギルド長は更迭されたのだった。




「……ケンってば、何したの? 商会が潰れるなんてそうそう無いし、ギルドまで大赤字でギルド長が更迭って。」


アルヴァーの話を聞いていたミラーナは驚き質問をする。


するとアルヴァーの隣で懐かしそうにしていたフェリシーが答える。


「ケンはね、どこからかかなり珍しい魔物の素材を持ってきたの、しかもそれなりの量をね? それでそれをカウノとミルカを騙した商会に売ったのよ?」


「それじゃあ、その商会の利益になっちゃうんじゃないんですか?」


そう言うクリスにフェリシーは微笑みながら答える。


「そうね? 珍しい素材だから、かなりの利益になるわ……売れればね?」


「……なるほど、かなり悪辣な手ですが、効果的ではありますね。」


横で聞いていたペトラが何かを理解したのか、そう言ってうなずく。


その隣でケンは昔話をされて恥ずかしいのか、チェルシーと一緒に骨付き肉を噛っている。


ミラーナ達は理解出来ていない様で、はてな顔をしている。


「ようするにね? 珍しい素材でもロットリッヒでは利益にならないのよ? 王都や他の都市に持っていかないと利益が出ないの、なんでって珍しいけどロットリッヒでは依頼を出せば、時間はかかるけど手に入るのだから。」


「はぁ……?」


ミラーナはフェリシーが何を言いたいのか分からずに曖昧に返事をする。


「それで当たり前だけど、その商会は大金を支払って買ったその素材を、王都に持ってきて売ろうとしたの。


そしたらね? ……護衛の冒険者がまったく集まらなかったのよ、ケンが手を回してたからね?」


「は……はぁ!?」


今度はフェリシーの言葉に驚くミラーナ、だがミラーナだけでなく周りで話を聞いていた全員が驚いている。


「で、魔物の素材なんだけど偶然なのか故意なのか、劣化しやすい物ばかりでね? 護衛が居ないと魔物や盗賊に襲われるからロットリッヒから持ち出せなくって、ぜーんぶダメになっちゃったのよ?


それで凄い赤字を出しちゃって、潰れちゃったのね。


それと商業ギルドはその商会に結構な額を出資してたらしくって、それでやっぱり赤字になっちゃったのよね。


ちなみにカウノとミルカは借金の返済に追われた時に、安く売りだされたから簡単に買い戻せたわ?」


フェリシーがそう言ってケンに視線を向けると、ケンは酒を飲みながら言う。




「あの商会には是非ともロットリッヒで躍進してもらいたかったんだがな、不幸な偶然が重なって破産しちまったんだ……非常に残念だった! カンパーイ!」


「わおーん!」


ケンはカンパイと叫ぶと美味しそうにビールを飲み、チェルシーは1吠えするとオレンジジュースを飲んだ。


「うん、今と同じ事を文句を言いに来た商業ギルドのマスターに言ってたわ、皆で囲んで殺気を込めながらね?」


フェリシーの言葉に全員がドン引きしながらケンを見るのだった。



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