異世界転移 28話目




「ッチ! あいつ悪運だけは良いんだから!」


気絶したラルフが衛兵によって運ばれて行く、それを見ていたミラーナは舌打ちしていた。




「ミラーナ様、本当に申し訳ない……ケンもすまなかったな、ラルフにはミラーナ様が来てることは告げてなかったのだが、どこで聞いてきたのか……。」


そしてそれを見ていたアイヒベルク侯爵は周りに謝り倒していた。


そして夕方になり、結局アイヒベルクに1泊していく事になった俺達は、アイヒベルク侯爵邸で夕食を食わせてもらっていた。


さすがに侯爵家が用意したものだけあって、かなりのごちそうが出た。


さらに席に着くなりにアイヒベルク侯爵がミラーナと俺、そして謝罪がわりに招待されたクリスにも軽く頭を下げて謝っていた。


クリスが会いにやって来たのは、侯爵との挨拶やら何やらが伸びてしまい、今から出立するのか今日はアイヒベルクに宿泊するのか聞きに来たからだった。


何故マックスやアルヴァーにアランが来なかったのかと言うと、マックスは冒険者の家族や着いてきた市民のまとめ役として、アルヴァーは冒険者のまとめ役として、アランは辺境伯軍の指揮が有るので集団から離れられないので代わりに来たのだ。


「こ、侯爵様! 平民の私なんかに頭を下げないでください!」


クリスは侯爵に頭を下げさせてしまい、かなり慌てていたが俺のクリスに無礼を働いたんだから、問題ないと俺は思う。


それにラルフは殺っちゃっても良いと思うんだがなぁ……。


何て事を考えているうちに、食事はドンドン進み。


最後のデザートとなったのだが、ここで辺境伯が変なことを言い出した。




「時にアイヒベルク殿、文官で誰ぞ優秀なのは居ないか?」


「ん? 文官か? ……何人か思い当たるが急にどうした。」


「うむ、知っての通り我等は帝国への食料の輸送を成功させた、その時の戦いで多くの魔人を討伐したことによりシュテットホルンの北部の解放と奪取が現実味を帯びてきてな、北部の都市を解放してから文官を用意しても遅かろう? だから今から用意しておこうかと思ってな。」


「なるほど……しかしロットリッヒ辺境伯なら、部下に優秀な文官も多かろう。」


「シュテットホルンだけでもきついのに、その他の都市を解放したりしたのでそちらで手がいっぱいじゃよ……これでフェルデンロットやロットリッヒ北部となると、完全にお手上げじゃ。


ましては帝国との交易も始まると思うしな。」


「うーむ、考えておこう……それよりシュテットホルンの北部を誰に治めさせるのじゃ?」


「それは後で話す、すまんがそれについても協力してもらうぞ?

借りは返してもらわんとだからな。」


「む……! そうか、仕方がないな。」


ロットリッヒ辺境伯の言葉に、何故かアイヒベルク侯爵は俺の方をチラッと見て了承をする。


俺に聞かれちゃまずかったのか? ……ってそりゃそうか、ただの冒険者に次期領主を誰にするかなんて重要機密を洩らす訳にはいかんものな。




ってか、これが貴族の食事か……政治やなんかの話をしながら食う飯、美味いのかねぇ?


なんにしろそんな話をしながらデザートも食べ終え、今日は就寝する事になったのだが、ここでひと波乱があった。




「ちょっとちょっとケン、どこに行こうってのよ?」


「……宿に帰るんだが。」


侯爵の居城から出ていこうとした俺を、ミラーナが呼び止める。

俺は一足先に帰ったクリスが泊まっている、アルヴァーが押さえた宿に行こうとしていたのでそう答える。


「はぁ? あなた私達の護衛でしょ。」


「……いや、よく考えたら俺って護衛の依頼を受けてないよな? それにソロの俺が冒険者を統率したり、軍の指揮をするのはおかしくないか。」


俺がそう言うとミラーナはこの世の終わりのような顔をして言ってくる。


「そう……私を見棄てるんだ……私は今日の夜には、ラルフに初めてを無理矢理奪われちゃうのね……。」


こいつとんでもないこと言い出したぞ!?

俺は仕方なくミラーナにある提案をする。


「なら俺達の宿に来るか? 冒険者用の宿だがクリス達が居るからな、高級なところを選んでるぞ。」


まぁ、受けないだろうなぁ? っと思ってそう言うと、ミラーナはニッコリと笑って言うのだった。




「よろしくお願いするわね?」




俺は仕方なく辺境伯にミラーナが俺達と宿に泊まることを伝え、皆が泊まっている宿に向かうのだった。




「おう、来たか!」


「あら? ミラーナ様も来たのですか。」


宿に入ると酒場にいたアルヴァーとフェリシーが飲んでいて、俺達を見つけて声をかけてきた。


「おう、侯爵家に1人変質者がいてな。」


「変質者!?」


「ああ、ラルフって名前だったかな。」


アルヴァーがでかい声で変質者と言うと、酒場は一瞬にして静寂に包まれる、だか俺がラルフの名前を出すと地元の冒険者っぽいのや市民達は納得したのか「ああ……」「坊っちゃんか……」等と言ってまた酒を飲み始める。


あいつの評価って、本当にどうなってんだよ!?


なんにしろ俺はアルヴァー達が座っている席に着くと、簡単なツマミとビールなんかを頼む。


隣にミラーナが座って自分の分も頼む、一瞬子供はダメだと言って止めようとしたが18歳なのを思い出してやめる。


この世界の成人はだいたい15歳で、その歳から飲酒もOKだった。


そして最初の1杯を飲もうした時に、客室の有る2階からクリスが降りてきてミラーナとは逆に座る。


「お帰りなさい、ご主人様、ミラーナ様。」


「ただいまクリス。」


「クリス、ミラーナで良いってば! それにしてもこのビール美味しいわね。」


「も、もう飲んでるのか……。」


俺はウエイターを呼んでミラーナが結構、飲みそうなのでいっぺんに4、5杯持ってきてくれとウエイターに頼む。


「そんなに飲むのか?」


「ミラーナ様が飲みそうだからな。」


「あなたね、どーいう目で私を見てるのよ……。」


そんなこんなで飲み会が始まると、マックスやクラーラ達も来て結構な宴会になる。




「来週には王都に着きそうかしら。」


3杯目に手を出しながらミラーナがたずねてくる。


「ああ、ここから先は道も整備されてるし、安全度も高いからな、早ければ4、5日で着けると思うぞ。」


「そう、でもケンの馬車良いわね。

馬がちょっと怖いけどさ。」


ミラーナが俺の馬車の話をしてくる。


ロットリッヒからここまで、というか王都までミラーナは俺の馬車に乗って行くそうだ。


ここまでの道中も馬車の中からミラーナとクリスにライナーとアンナ、おまけでアネットの楽しそうな声が聞こえていた。


「まあな、昔は1人で移動する時が多くてな、それに家を持つ前まではあの馬車で生活してたから、寝泊まりできるようになってるんだよ。」


ようするにキャンピングカーを参考に作った馬車なんだ、シャワーなんかはさすがに無いが複数人が寝られるようになんかはなってるし、生活用品を多数積めるようにもなっている。


あと、魔導具の冷蔵庫とコンロがついているので煮炊きも少しは出来るようになっている。


ちなみに馬が怖いと言うのは、馬車を引いているのが馬ではなくナイトメアとユニコーンっていう魔獣と幻獣だからだ、内緒だけどな。


などと馬車と馬の事を考えてると、アルヴァーが真剣な顔で質問してくる。


「そういや、ケンよぉ。 あの馬って本当に馬か?」


「は? 何言ってるんだ、馬以外の何だって言うんだよ?」


「魔獣のナイトメアじゃあ……」


アルヴァーのクセに鋭いな!


「お前はバカか? ナイトメアが人に馴れるわけないだろ。

ちょっと色が黒くて目が赤く光ってるけど、ただの馬だ!」


「……じゃあよ? ナイトメアと一緒に馬車を引いてる白馬はペガサスか?」


「ありゃユニコーンだ、角は売っ払っ……。」


「やっぱりナイトメアとユニコーンじゃねえか!?

オークを蹴り殺して食ってたから、おかしいと思ってたんだよ!」


「うちの子は少しやんちゃだからな。」


「少しですむか!」


アルヴァーはアネットも乗ってるんだから普通の馬にしろ! って怒ってたが、普通の馬よか安全だからと説得しておいた。


ミラーナは明日また乗る時に、2頭をよく見せてくれと言って2階の部屋にクリスを連れて向かっていった。




「クリスも寝るのか……って何だこれ!?」


クリスが座っていた席の前には、色々な種類の酒のビンやらジョッキやらの空ビンやらが、転がっていた。


「あなた気づかなかったの? クリスが美味しそうにゴクゴク飲んでたわよ。」


「こ、こんなにかよ!」




俺は慌てて部屋に向かう、そこにはダブルのベッドで仲良く2人して眠る、クリスとミラーナがいたのだった。



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