冒険者ギルドの受付嬢?さん

ねこライオン

第1話 冒険者ギルドの受付嬢?さん

「はぁあ……酒飲みたい」


 暇だ、退屈すぎる。


 俺はため息をつきながら、カウンターに頬杖をついた。室内を見渡すが人はほとんどいない。つい先程前までは、依頼を受けにきていた冒険者たちで賑やかだったが、今は静まり返っている。


  夕方にもなれば帰ってきた冒険者たちでまたいっぱいになる。だがそれまでは特にやることがない。ほかのギルドとの打ち合わせや取引などがあればいいが、今日はその予定もない。事務仕事なども早い時間に片付いてしまった。あとは緊急の依頼が入ってくるか、旅の冒険者でも来ないかと期待するだけだ。まあ、ようするに暇なのだ。


「先輩、まだ仕事中ですよ」


 どうやらさっきの独り言を聞かれたらしい。


 少女が調理場から、お茶を二つトレイの上に乗せてやってきた。少女が持つ普通サイズのトレイはなぜか大きい物のように感じられる。それはおそらく彼女の体が小さいからだろう。彼女は後輩のアナスタシアだ。


 彼女はハーフエルフ? ハーフドワーフ? なんと言うのが正しいのかは分からないが、父親がドワーフ、母親がエルフのハーフだ。なんかフが多いな。

 身長は父親に似て小さいが、身体つきや顔は母親に似て華奢で整った顔立ちだ。

 そのバランスのせいで幼く見える。 本人はそのことをきにして、少しでも大人ぽく見えるよう髪を腰までのばしたりしているが効果は薄い気がする。俺はそのままでも可愛らしくていいとおもうのだが。


 それより、さっき聞かれてしまった独り言の言い訳をしなければ。


「だって暇なんだもの、飲まなきゃやってられないわ」


 うん、我ながら、ほとんど言い訳になってない。


「私たちが暇なのは、それだけ平和って事ですよ。いいことじゃないですか」


「それはそうなんだけどね。こうも毎日毎日おなじことをくりかえしてると退屈で退屈で」


 アナスタシアは呆れた感じで短く息を吐いた。


「はいはい、そんな先輩ために私はお茶を入れてきましたよ」


 トレイをカウンター上に置くと、アナスタシアは、となりの自分の席に座った。アナスタシアの椅子は今俺が座っている椅子より高くなっている。そのおかげで、カウンターに座ってるときは頭の高さが同じくらいになる。


「どうぞ」


 アナスタシアは二つあるうちの一つをわたしてくれた。


「ありがとう」


  受け取ったお茶の匂いを確かめてみた。なにこれ今までで嗅いだことのない香りだ。すごくスパイシーで刺激的な匂いがする。


「なかなか凄い香りね。どうしたのこれ」


「今朝、リルトさんから、ボトルゴート遠征のお土産にってもらったんですよ。なんでもマンドラゴラの葉を釜で炒ってから乾燥させたものらしいんですけど」


 リルトさんのお土産か。ランク銀狼の中堅冒険者でとても気のいい人だ。別の街に遠征にいくといつも珍しい物を買ってきてくれる。お土産の選考基準が珍しい物なので当たりハズレが多々あるが。今度お礼を言っておこう。


「でも本当に、なんというか独特の香りがしますね」


 試しに一人口飲んでみる。かなり苦い。

でも、 喉を通り越したあとからスパイシーさとフルティーな香りがやってくる。クセが強いがなれると悪くはない。

 となりを見るとアナスタシアは、ふうふうして一口飲んで、ウゲッてなってる。なんだかとても可愛いなもう。


「うう、苦いです。私ちょっとそのままでは無理そうです。たしかジンクカウのミルクがまだあったのでちょっと入れてみます。先輩はどうします?」


 座ったばかりのアナスタシアは立ち上がった。


「私はそのままでいいわ」


  慣れればこの苦味も旨く感じられてくる。というか昔から紅茶はストレート、コーヒーはブラック派なのだ。


「先輩、大人ですね」


 なんか、憧れぽい感じでみられている。ここは精一杯、格好つけてみよう。


「人生の苦さに比べたらこれぐらいの苦さはどうってことないわ」

「先輩は時々おじさんみたいなこと言いますよね」


 う、全然刺さらなかった。


「私は中身がおっさんだからね」


「はいはい、先輩は美人なのにそういうところ残念ですよね」


 そう言ってアナスタシアはミルクをとりに行ってしまった。

 残念って言われても中身が本当におっさんなのだから仕方ない。実は言葉使いなんかも結構無理して女言葉つかっている。

 えっ、なんでおっさんの俺が美人とか言われながらここで働いてるかって。その理由を話せば少し長くなる。

 いや、昔話をするまえに仕事をしなければいけなくなった。ゆっくりとギルドの入口のドアが開かれ、4人の男女が入ってきた。見たことない顔だ。ローブを羽織り武器を持っている。おそらく待ちに待った旅の冒険者だろう。


 俺は、お茶をカウンターの裏にしまい、精一杯の営業スマイルをうかべた。


「ようこそ冒険者ギルド、ポニーテールへ」

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