自動制御機械及び人工知能の普及の為の国民所有に関する法
「今時はステータスですよ」
「ステータスねぇ……」
セールスマンから渡されたパンフレットをペラペラとめくりながら、わたしは呟いた。
わたしがこの
『自動制御機械及び人工知能の普及の為の国民所有に関する法』
なんだか難しい言葉が並んでいるが、つまりはこういうことである。
めざましい科学技術の発展のおかげで、
それを普及させるために政府が作ったのがこの法律だ。
これにより国から、国民ひとりにつき、1台のロボットが支給されることとなった。
そして、別の法律でロボットが働くと、その所有者に給料を支給することを定めていた。
それを所有者の年金やら社会保障費の支払いに回すというのだ。
勿論、時給は人が働くよりも少ない。だが、計算上、最低賃金でロボットが働く分だけで、所有者の最低限の生活が保障できる収入になるという。ロボットから入る給料が、税金や公的な保険の支払いすべてをまかなえる、というわけだ。
そして「ロボットがほぼ働いてくれるのだから、人間は働かなくてもいいのではないか?」と、考える者が現れた。
法律には所有に関して制限はない。あくまでも1台支給というだけだ。所有者の税金などを1台でまかなえるのであれば、複数所有することで、ゆとりが生まれる。
ロボット達の所有台数が多ければ、収入はプラスに回っていくわけだ。
仕事なんてロボット達に任せておけばいい。
そういうことだ。支給されないロボットは、金で買う。そして、金が動く場所には商売が発生する。
このディーラーも、ロボットの販売と仕事の仲介で金を儲けている。
いつしかロボットを複数所有することが、生活のステータスへと変わっていった。大昔、自動車を所有することが、そうであったように……。
「なかなか、いい値段するねぇ」
「ご予算についてですが……ロボットのグレードに合わせて、メンテナンス費用は変わってきます」
機械なのだからロボットには、どうしてもメンテナンスが必要だ。
ここで購入したロボットには永久メンテナンス費用がついているので、その分の値段が上乗せされている。
――さて、どうすべきか。ポンと全額払えるならいいが、所詮
ロボット1台の値段は、平均して普通自動車が買える程度。働く環境で値段もオプションも異なる。
ロボットが就く仕事によって収入は変わってくるから、ここは慎重に選ばなければならない。
たとえば、農作業を主体とするロボットには耐久性や大出力が必要である。店舗でスタッフとして働くとすると、
これらが購入するロボットに付加されるわけだ。ベースとなるロボットの本体に、力や機敏性であればモーターなどの部品強化代ですむ。しかし、音声認識機能ならば高度な
――今はそこまで、払うのはキツイなぁ……。
当然のように、相手は高いAIが付いたロボットを薦めた。だが、わたしは単純労働のロボットを選んだ。
今日は、だ。
高くてもいつかAIが付いたロボットを手に入れたい、と思いつつ……。
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