異世界金属バット ~フラグも剣も叩き折る 野球小僧の英雄譚~

贅沢三昧

第一章 冒険者編

第1話 プロローグ 試合の果てに

「三振バッターアウト」

県予選最終試合に1年生ながら代打で出してもらったが打てずにチームは負けた。


帰り際に少しぼーっとしていたのかもしれない。

横断歩道を飛び出した少女が反対側からスピードを上げてくるトラックが目に入っていないようだった。

少女を助けようと俺は無我夢中で走った時、白い光に包まれて別の空間に俺はいた。


「うぉほおん」咳払いとも取れるような声で老人がこちらに話しかけてきた。


「少女を助けようとしたその心意気見事である。本来なれば畜生道より輪廻転生の歩みをしなければならないが、今回は特例に惑星 X の文化圏 Zに異世界転移させようじゃないか」

そう老人は説明してくれたが何のことか私には分からなかった。


俺は恐る恐る老人に伺いを立ててみることにした。

「すみません惑星 X とか文化圏 Z とかちょっと分からないんですが・・・」


「おお、すまん。そこはいわゆる剣と魔法の世界と呼ばれるファンタジーな場所だ」

「お主は随分落ち着いてるの。先ほどの若者はチートキターと叫んでいたぞ」

「チートと言われても普通に野球してただけなんです。野球しかできない男なんです」

ゲームを全く知らないということではないのだが、チートやら詳しい設定なんかはよくわからない。野球ゲームとせいぜいカートゲームぐらいしかやったことがない。


「それは難儀なことじゃの。しかし現実世界への転生となれば畜生道に一度落ちていく必要がある。虫から一度やり直しをして何十回かの転生を経て、また生まれ変わる必要がある。膨大な時間がかかるじゃろう。異世界に行くのならチートと呼ばれる魔術のようなものを授けても良いぞ」


抑揚のない無感情の表情で淡々と説明をしていく神と呼ばれる男。それはまるで事務作業のようだった。俺は幾分迷ったがチートと呼ばれるものを選択してみるのも悪くないと思った。


「神様チートっていうのは選べるんですか」


「もちろんじゃ人気の次元魔法や、収納魔法、全属性なんかは人気だな。どれがいいんじゃ」


「自分は野球ばっかりやってきた野球バカなんで動きが速くなるようなそんなのがいいですね」


神様はあごひげに手をかけて髭をさすりながら勧めてきた。


「ならば身体強化魔法がいいじゃろ。ついでに武器も作って、おいてやろう」


体が強くなるということは、労働においても戦闘においても有利に働くことは間違いはない。複雑な魔法でも良いのだが、扱いきれる自信はない。とりあえずここは身体強化魔法で問題ないだろう。


続いて武器だが、自分が今回持って行きた金属バットを強化できないか相談しようと考えた。

「神様、私は野球一筋で生きてきたので、刀や槍など使いません。できれば金属バットを異世界でも利用できるようにしてもらえるとありがたいのですが・・・」


「その金属バットというのが3種類あるようだがどれを強化すれば良いのだろうか?」

俺は普段使っている金属バット ビクトリー Wコング を差し出した

「これをお願いします」


受け取った神様は何事か考えた後呪文を唱えた。すると金属バットは見た目は変わらないが何やら強くなったように見えた

「お主のバットに折れない耐性をつけた。いかなる剣であれハンマーであっても、お主のバットは折ることはできないし、撃ち返せないものはないだろう」


「ほれ」

そう言って神様は俺の愛用のWコングを返してくれた。


「残念ながらチートは二つも付けたのでもう終わりじゃ。向こうですぐに困らないように幾ばくかの金貨と言語理解の能力を与える。これにて説明は終わりじゃ。向こうの出口より先に進むが良い」


促されるまま先に進むと受付の女性が座っていた。

「それではこちらの転移装置に乗っていただけますか」

「持ち物はそのままでもよろしいんでしょうか」

「あー。少量ですので構いませんよ」

そう言われたので持ち物を持ったまま転移装置と呼ばれる装置の中央にだってしばらく待った。


ふわっとした浮遊感とともにぐるぐると回るめまいのようなものがした瞬間には緑色の草の上に寝転がっていた。

「ここが異世界か。なんかあっさり来ちまったな」


手荷物をまとめて肩にかけてどちらに進むか決めかねていた。

ここはバットに任せて進む方向を決めるとしよう。


バットを垂直に置きゆっくり手を離し、倒れる方向が進む方向だ。愛用のWコングに全てを委ねることにした。


何と言うかこんなあっさり決めちゃっていいのかな。一抹の不安と決勝戦で敗れた悔しさだけが残っていた。これからの異世界の生活については全くのノープランだった。


「フン」と日課になっている素振りをしばらくしてみた。心が落ち着いてきた。バットの気の向くまま進んでみるのも一つの人生だと思えた。


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