第24話 休日を迎えた元勇者
『ソウタ、おはよう』
『ソウター、朝だよー』
土曜日の朝。
マリーとエレンからの容赦ない電話で起こされる。
「あのさ。朝……って、今何時か分かってるのか?」
『六時』
「いや、早い。早過ぎるよ。マリー、今も朝と言えば朝だけど、そもそも十時に集合だって言ったよね?」
『でも、早いって言っても、いつもソウタを迎えに行く時間だよ?』
「いつも……って、毎朝六時に俺の家の前へ来てたの!? 早いとは思っていたけど、やめてくれっ! 七時過ぎとかで良いよ」
『それだと、ソウタと会える時間が減るからヤダ』
今日はマリーを泳げるようにするため、市民プールで泳ぐ練習をしようという約束だったのだが、それにしても気合が入り過ぎている。
昨晩も試験勉強をしていたし、そもそも時間が早くて未だ眠いので、電話を切る旨を伝えると、今度はエレンが喋りだす。
『ソウタ、待って。今から二度寝するの?』
「二度寝っていうか、この電話で無理矢理起こされたからだろ。さっきマリーにも言ったけど、十時に集合だからね?」
『じゃあ、今から寝るんだよね。これからそっちへ行くから、添い寝させ……』
エレンが寝言を言っていたので、問答無用で通話終了ボタンを押してやった。
だが少し考え、念のため『来ても入れないし、家族も未だ寝てるから、インターフォンとか鳴らすなよ』とメッセージを送ると、秒で『ソウタのイジワル』と届く。
何となく窓から玄関を見てみると、トボトボと歩くマリーとエレンの姿があった。
危ない。無言を肯定と捉えられて、家の前まで来てたのか。
ハッキリ意見を言わない所は、世界から見て日本人のダメな所だとは言うけれど、ティル・ナ・ノーグも同じでハッキリ言わなければいけないようだ。
……一夫多妻制については、ハッキリとダメだと言っているのだが、何故通じないのかが謎だけど。
それから、再び眠りに就き、出掛ける準備を終えた九時頃に、インターフォンが鳴る。
「お兄ちゃん。陽菜ちゃんが来たから、上がってもらうねー!」
楓子の声が響き、俺の部屋の扉がノックされて、陽菜が入ってきた。
「颯ちゃん、おはよ」
「おはよ、陽菜。今日はごめんな。マリーの泳ぎの練習に付き合ってもらって」
「あはは、別に構わないよー。マリーちゃんも、泳げた方が体育の授業が楽しいもんね」
「そうだね。あ、思い出した。体育が楽しいと言えば、小学校の頃に陽菜がバスケのルールを教えてくれたよね」
「あー、あの頃の颯ちゃんって、どちらかって言うとスポーツが苦手だったもんねー」
陽菜との会話で小学生の頃の話を思い出し、暫く思い出話に花を咲かせているとスマホが震え、
『ソウタ、約束の時間』
『家の前で待ってるから、早く来てよー』
マリーとエレンからそれぞれメッセージが届いて居たので、陽菜と共に家を出る。
すると、
「あー! どうして、ヒナがソウタの家から出てくるの!?」
「ズルい! 私たちには十時まで待てって言って家に入れてくれなかったのにー!」
陽菜の姿を見た二人が口を尖らせてきた。
「いや、流石に朝六時は早過ぎるだろっ! 陽菜はさっき来た所だよ」
「ふーん。で、ソウタはヒナさんと二人っきりで何をしていたの? 私にも同じ事をしてよー」
「ウチも、ウチもー!」
すかさずエレンが余計な勘ぐりをして、マリーも便乗してくる。
けどエレンはともかく、マリーはきっと意味が分かってないよね?
まだ色々と説明してないしさ。
しかし改めて考えてみると、陽菜と二人っきりで過ごしたのって、かなり久しぶり……というか、日本へ帰って来て初めてだったんじゃないだろうか。
最初は楓子が一緒に居たし、後はマリーやエレンがいつも俺の傍に居るし。
ちょっと勿体無い事をしてしまった。思い出話も良いけれど、もうちょっと恋だの愛だのって話をすれば良かったな。
内心では惜しいと思いつつも、エレンに回答すると、
「俺と陽菜は、部屋で子供の頃の話をしていただけだよっ!」
「そ、そうだよー。幼い頃は、お互いこんな子供だったよねーって話をしていただけだもん」
「それなら、ウチもする。ソウタは幼い頃から頭が良くて、剣の鍛錬も欠かさず……」
子供の頃というのに反応したマリーが、剣とか言い出したので慌てて口を塞ぐ。
この話をすると、またゲームの話だとか言われちゃうしね。
ティルナノーグ・オンラインだっけ。
和馬に聞いても知らないって言われたし、本当謎のゲームだよな。
まぁ調べても、これ以上情報が出て来なさそうだけど。
「と、とりあえず皆揃ったし、プールへ行こうか」
マリーの言葉を適当に誤魔化しつつ、四人でバスに乗って、今日の目的地である大型の市民プールへと到着した。
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