第23話 一夫一妻制について説明する元勇者
マリーが泳げないと判明した日の夜。
学校や、夕方に俺の家で行った勉強会では陽菜が居たので言えなかった事を、マリーとエレンと俺の三人だけのグループメッセージへ送信する。
『マリー、エレン。ティル・ナ・ノーグは一夫多妻制だったけど、この日本はそうではなくて、夫婦は男女一人ずつなんだ。第一夫人だけで、第二、第三夫人は居ない。そして、俺の第一夫人は陽菜だ』
いろいろと考えたけれど、回りくどい事はやめて、ストレートに書いた。
というか、一夫多妻制文化だという事を知る前までも、かなり直球で伝えていたつもりだったんだけど。
とにかく、変な期待を持たせる方が二人に失礼だ。
このメッセージを読んで、俺の事を諦めてくれれば良いのだけれど……と、思っていると、マリーとエレンから電話が掛かってきた。
グループ通話……使った事がないけど、一先ず両方と通話状態にしてみる。
『ソウタ。日本の男性は奥さんが一人しか居ないの?』
「そうだよ、マリー。そして、俺は陽菜と結婚したいと思っている」
『ソウタ、待って。私は日本にある書物で勉強したけど、日本も一夫多妻制だったよ?』
マリーとの会話にエレンが割り込んできたけれど、一体何を言っているのだろうか。
日本は古来より一夫一妻制だと思うのだけど。
「エレン。日本で一夫多妻制なんて有り得ないって」
『そんな事ない。ちょっと、その書物を取ってくるから待ってて』
『ソウタ。その本はウチも読んだ。一人の男が複数の奥さんと幸せそうに暮らしてた』
何だろう。
俺が知らないだけで、大昔は日本も一夫多妻制だったのか?
あ、待てよ。数百年レベルでさかのぼれば、側室だとか大奥? みたいなのがあるんだっけ。
書物って言い方だし、二人は歴史書みたいなのを読んだのかもしれない。
『お待たせ。ソウタ、やっぱり一人の男性に複数の女性が傍に居るように描かれてるよ』
「エレン。おそらくそれは、大昔の事を書いた本だよ。今の日本ではダメなんだって」
『でも、随分と綺麗な書物だよ? 一人の男性と六人の女性が同じ部屋に居て、スマホを見ながら、両手を顔に近づけてポーズを取ってる』
「……エレン。今、一体何を読んでいるんだ? カメラ機能……左下のボタンで画像が撮れるから、ちょっとその本を映してくれないか?」
スマホが描かれているって事は昔の話じゃないし、そもそも絵で図解されているって事だ。
正直、どんな資料なのか全く想像が出来ないので、暫く待っていると、その書物を撮影した写真が送られてきた。
その写真に映っているのは、フルカラーで全裸の女性が数人横に並び、それぞれが足を開いてダブルピース……
「って、ちょっと待った! これ、俺のお宝本じゃないかっ! どうして、それがそっちにあるんだよっ!」
描かれた女の子が可愛くて、清楚系からギャル系まで様々なタイプの女性が催眠にかけられる、俺のお気に入りのハーレムものの薄い本だよっ!
あれは本棚の更に奥へ隠していて、絶対に見つからないはず……って、あれ? あるぞ?
『えっとねー。この女神様が用意してくれた家が、ソウタの家そのままみたいなんだー。だから、二階の部屋もソウタの部屋のまんまで、棚に隠されていた本とかも、そのままみたい』
「探すなよっ! 確かに隠していたけどさ! てか、マジでその本は違うんだっ! それは、何て言うか男の妄想を具現化したような本であってだな」
『ふーん。つまり、ソウタもこういう願望があるって事なんだー』
「違うぞっ! エレン! こら、話を聞けぇぇぇっ!」
というか、エレンもマリーも何て本を読んでいるんだよっ!
勉強したって言っていたけど、何の勉強をしたんだよっ!
『ところでソウタ。エレンは教えてくれなかったんだけど、この本に出てくる人たちは、全員裸で何をしているの?』
「マリーは知らなくても良いから。いや、知らないとマズ……いや、やっぱりこれに関しては知らなくて良いよっ!」
『どういう事? ……え? ソウタ、エレンがヒナに聞くと良いって言ってるから、明日聞いてみる』
「やめてくれぇぇぇっ! その……今度、説明するから。だから、陽菜に聞くのだけは勘弁してくれ」
『わかった。じゃあ、また今度教えて』
お、恐ろしい事を。
こんなの反則だ……というか、女神様も酷くないか!? 思春期真っ盛りの男子高校生の部屋をそのままコピーするなんて!
『ソウタ。どうして、この本に出てくる女の子は巨乳ばっかりなの? 一人くらい胸の小さな女の子が居ても良いと思うんだけど』
「そんなの俺は知らないよっ! 作者に言ってくれっ!」
『でも買ったのはソウタだよね……と、冗談はこれくらいにして、要はソウタが言いたいのは、正式に妻と認められるのは一人だけ、しかもヒナさんだけだって言いたいのよね?』
「お、おぅ。エレンの言う通りだ」
『だけど、この本みたく、複数の女性と関係を持つ事だって、別に変じゃないのよね?」
「いや、変だから。それは、あくまでフィクションだから」
ティル・ナ・ノーグには漫画こそ無いものの、ちゃんと本だってあったし、俺は読んだ事がないけど、恋愛小説や官能小説くらいはあったはずだ。
だから、これがあくまで妄想を描いた漫画……って、向こうはハーレムが普通の文化なんだった。
どうやって弁明すれば良いんだ!?
「日本では、複数の女性と結婚する事は重婚って言って、罪になるんだよ」
『わかったわ。まだ諦めてはいないけど、私はソウタの妻じゃ無くても良い。だから、子供を作ろ』
「だから、それがダメなんだぁぁぁっ!」
一向に話が通じない事に嘆いていたら、楓子から「お兄ちゃん、うるさいよー」と怒られ、強制終了となってしまった。
……結局、何一つ進展しなかったよ。
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