第13話 屋上で金髪幼女と戯れる元勇者

 お昼休みの校舎の屋上。

 春や秋だと、風が気持ち良いので屋上でお弁当を食べる生徒も居るが、七月の真夏日に屋上へ上がって食事をする者などまず居ない。

 休み時間にマリーと来たばかりだけど、ここなら告白を断る場所としても問題ないだろう。


「さて、キャンベルちゃん。今朝の話なんだけどさ」

「エレン。私の事はエレンって呼んで……」


 外国人の名前をよく分かっていなかったけれど、どうやらキャンベルというのはファミリーネーム――苗字らしく、エレン=キャンベルという名前のようだ。


「エレンちゃん。それで、今朝の話だけど」

「ソウタ。『ちゃん』も不要。エレンで良い」


 名前の呼び方とか、どうでも良いと思うんだ。

 というか、互いに名前で呼び捨てって、完全に恋人気分になっているよね。

 大丈夫かな? 舞い上がっている感じがするけど、今から俺は凄く残酷な答えを告げるんだよ?

 落差が有る分、心のダメージが大きいと思うんだけど……しかし俺は俺で陽菜の事が好きだし、そもそも俺はロリコンじゃないし、正直に言うしかないな。

 ただ、恋人として付き合う事は出来ないけれど、エレンは外国へ一人で来て心細いだろうし、友達としては最大限接してあげるようにしよう。


「エレン。今朝の話なんだけど、俺は好きな娘が居るんだ」

「うん、知ってる」

「だから……って、知ってるの!?」

「ソウタが自分で言ってた」


 あれ? 俺、クラスで好きな人が居るなんて言った事あったっけ?

 マリーには言ったけど、あれば家の中での話だし、エレンが知っているはずが無いんだけど。

 想定外の言葉に唖然としていると、エレンが語る様な口調で話しだす。


「……私、マリーちゃんが羨ましかった。私もマリーちゃんみたいに、素直に自分の心をぶつけたいと思った。だけど、それをするには年齢を重ね過ぎた」


 何が? ねぇ、何の話?

 年齢を……って、どうみてもエレンは一桁台だよね。

 たぶん、まだ俺の半分くらいの年月しか生きてないよ?

 こうやって向き合って立っても、俺のお腹の位置に顔があるし。


「だけど、今の私は違う。ソウタと同い年になれた。だから、素直になる」


 そう言って、突然エレンが俺の胸に……というか、腹にダイブしてきた。


「えっ!? ちょ、ちょっと待って。マジでストップ!」

「やだ。ずっとこうしたかったけど、我慢してた。もう止められない」


 エレンが俺の腹に顔を埋めながら、小さな腕を俺の腰に回してきたので、訳が分からず反射的に一歩下がる。

 するとエレンが手を離さず、顔の位置が腹から少し下にずれ……そこは、マズい! 本当にマズい!

 八歳くらいのエレンは何も気付いて居ないかもしれないけれど、万が一この状況を誰かに見られたら、冗談抜きでロリコンというか、変態や鬼畜というレッテルが貼られてしまう。


「エレン、分かった。一旦、落ち着こう。俺は逃げも隠れもしないから、少しだけ顔を上げて話を聞いてくれ」

「……なぁに?」


 俺に抱きついたままではあるが、エレンが素直に顔をあげ、上目遣いで見つめてきた。

 先程の二の舞とならないように、子供に言い聞かせるような感じで、ゆっくりと話しかける。


「エレンは俺の事を好きでいてくれているみたいだけど、さっきも言った通り、俺には好きな女の子が居るんだ」

「うん、聞いた」

「だから、エレンとは恋人になる事は出来ないんだ」

「どうして?」

「え? どうして……って、だから俺はエレンではない、別の女の子が好きなんだってば」

「うん。でも、私はソウタが好き」


 会話にならねぇぇぇっ!

 どうしよう。どうすれば、このお子様は理解してくれるんだろうか。

 ……そうだ。先ずは、子供の――エレンの話を聞いてあげよう。


「エレン。じゃあ、エレンはどうして俺の事が好きになったの?」

「それは……恥ずかしい」


 異性に抱きつく方が恥ずかしくないかい?

 というか、エレンは気付いていなかったかもしれないけれど、あんな所へ顔を埋める方が恥ずかしいと思うよ?

 言いたい事は色々あるけれど、相手は子供だ。辛抱強く話を聞こう。


「だったら、エレンは俺とどういう関係になりたいの?」

「恋人になって、毎日キスして、昼夜を問わずベッドで愛を語りあって、結婚して、三人くらい子供を作る。きっと幸せ」


 おぃ、小学生。キスや結婚はまぁ良いとして、ベッドで……って、いやティル・ナ・ノーグとは違って、こっちはネットでググれば、それくらいの事は分かってしまうか。

 今は小学生でも普通にスマホを持っているしね。


「一人目は女の子が良い……ソウタ。今から、ここで作る?」

「作るかぁぁぁっ!」

「大丈夫。経験は無いけど、長く生きてきた分、いろいろ知ってる。今こそ、その知識を活かす時」

「いや、長く生きてきた……って、どう見ても八歳とか九歳だろ?」

「違う。今の私はソウタと同じ十六歳。ハーフエルフだから、成長が人間よりも遅いだけ」

「十六歳って、その容姿で……って、ハーフエルフ!? ハーフエルフって、あのハーフエルフ!? で、しかも名前がエレン=キャンベルって、まさか……」

「あれ? ちゃんと名乗ったのに、気付いて無かったの? 勇者ソウタ様。私は召喚士エレンよ」


 一体、何がどうなっているのか。

 異世界で共に魔王を倒した美人ハーフエルフのエレンが、何故か金髪幼女となって日本に居た。

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