ペンギンたちの嘘
鮪糸(つないと)
フルルーツゲーム
第1話 フルルーツ
「待たせたのです、お前たち。」
扉の奥から現れたのは、博士と助手だった。何やら布がかけられた台車を押している。
「ほんとに待たされたわ…。眠くなったわよ。」
プリンセスの言うとおりだ。このよくわからない部屋に連れてこられてから30分は経っている。
「フルルはもう寝てるけどな。」
そういいながらイワビーはフルルの体をゆする。
「それで、今日は何のために連れてこられたんだ?」
「今日はお前たちにいいものを持ってきたのです。」
博士がそういうと、助手が台車にかけられた布を取った。そこには…
「『山盛りの、じゃぱりまん!!?』」
「限定物なのです。」
「なかなか出回らないものなのです。」
一人で食べたら何日分だろうか。しばらくは貰いに行かなくて済むだろう。眠そうだったフルルが一瞬で覚醒する。
「いっぱいだー、食べていい?」
「待つのです。タダで渡すわけにはいかないのです。」
「助手の私が説明するのです。お前たちにはゲームをしてもらうのです。」
「ゲーム?いったいどんなことをするんだ?踊るのか?」
…
何だろうか、コウテイの話し方が棒読みのような。心なしか手も震えている。本人以外は気づいているようで、みんな目が合ってはうなずいた。博士と助手は、表情にこそ出していないが、肩を震わせている。そのまま、助手が話を続けた。
「お前たちには、我々がこの前図書館で見つけた面白い本に書いてあったようなゲームをやってもらうのです。題して…」
博士たちの背後にあった大きなディスプレイが赤く光り、そこに文字が表示されていく。
「『フルルーツゲーム』なのです。」
三日前。
ラッキービーストが「ジェーン様」とだけ書かれた真っ黒い封筒を持ってきた。送り主すら書いていなかったが、とりあえず開けてみることにした。
そこには同様に黒い便箋が2枚入っていた。1枚目は
「あなたは、げんせいな ちゅうせんのけっか、われわれがしゅさいする げーむへのさんかしかくを かくとくいたしました。さんかにつきましては きほんてきにじゆうであり、きょひすることも かのうですが、このふうとうの かいふうをもって さんかのいしひょうめいと かえさせていただき、いごの さんかきょひは みとめられません。 ついしん どうふうのかーどは、だれにもみせては いけません。」
まずいものを開けてしまった。冷汗が流れる。裏には集合日時と場所が記されていた。そして、もう一枚にはAとだけ書かれていた。
次の日、不安になってPPPのメンバーに相談した。すると、ほかのメンバーにも同じような封筒が届いており、みんな開けてしまっていた。
「なんか不気味だよねー。」
「怖いですよね…。」
「念のため、マーゲイにも聞いてみましょう?」
「そうだな、ファンレターはマネージャーを通さないとな!」
「イワビー、これはファンレターには見えないんだが…。」
抱えていても仕方ないので、一度マーゲイに相談して、ダメそうなら無視しよう。そう決めて全員でマーゲイのところへ押しかけた。しかし。
「送り主のない黒い封筒?あぁ、それなら大丈夫ですよ!問題なしです!」
即答だった。
「なんでそんなにきっぱり言い切れるのよ!」
「こんな怖い手紙、見たことないですよ!」
「そうだそうだ!」
「いえいえ、大丈夫ですよ!」
その後も、何を聞いても「大丈夫」の一点張りだった。それどころか、鼻血を抑えながら退路を塞ごうとしてきたのであわてて逃げ出した。
そうしてどうすることもできず、今朝私たちは集合場所に集まっていた。
集合場所にはカンザシフウチョウとカタカケフウチョウが待っていた。
「『光を飲み込む、本物の黒だ。』」
そう言って彼女らは私たちに目隠しをして、それが外れたときにはここにいた。
時は戻る。
「ルールを説明するのです。」
「説明されなくてもわかるぜ!バナナ!」
「『リンゴ!ああー!』」
「話を聞くのです!ジャパリまん無しでもいいのですか!」
「『…ごめんなさい。』」
ディスプレイの表示が切り替わる。博士たちの前にはフウチョウの二人が何かを準備していた。それが終わると、助手が説明を始める。
「まず、全員にこのカードを配るのです。」
フウチョウたちが手渡しでカードを配ってくれた。彼女たちも博士に使われて大変だろうに…。
カードは3枚組だった。裏面はすべて同じ模様と、中央に無地の空間があった。表面には果物の絵が描かれている。バナナ、リンゴ、メロンだ。
「本番ではそこにモモ、イチゴ、パイナップルを足した6枚を使うのです。でもとりあえず3枚あれば問題ないのです。その3枚の中から、好きなものを一つ選ぶのです。」
それぞれ思い思いのカードを選ぶ。
「選んだら、こちらに来るのです。」
そう言って、助手は先ほど入ってきた扉の方へ歩いていく。皆それについていった。扉の先は先ほどの部屋よりもとても狭かった。中央に机があり、その横ではカタカケフウチョウが待機していた。いつの間に移動していたのか。
「ここは投票室なのです。」
「投票室ー?」
「ちょうどいいのです。フルル、選んだカードの裏に枠があるのです。そこに自分の名前のスタンプを押すのです。」
見ると、机の上には五個のスタンプが並んでおり、それぞれ名前が書いてあった。そしてその横、カタカケフウチョウの近くには6つのからっぽの箱があった。
「押したよー?」
「そしたらそこの穴にカードを入れるのです。」
机の向こう側には、壁に穴が開けられていた。穴はカード一枚がちょうど入るサイズで、中は見えない。
「お前たちも、同じようにするのです。」
フルルに続いて投票をしていく。だがどうしても気になって、ジェーンは聞くことにした。
「この箱は何に使うんですか?」
「あ…、今は説明のためにカードを配って投票させているのです。でも本番はここでカタカケフウチョウが管理しているのです。ほしいカードを言えばもらえるのです。カードはきちんと補充していくのです。でも一度投票されたカードは戻さないのです。」
「そうなんですね、ありがとうございます。」
「全員投票が終わったら、外に出るのです。本番はここには一人ずつ入るのですよ。」
そうしてまた、画面の前に戻ってきた。
「では、今の投票の結果を発表するのです。」
画面の表示が切り替わる。
「バナナ2、リンゴ1、メロン2、以下0。よって、バナナ、メロンに投票したプレイヤーは負けなのです。」
画面は票数から五つのアルファベットが書かれた画面になる。アルファベットの横には数字が書かれており、Dだけが+1、他はみんな-1となっていた。
「これはフルルーツゲーム。かぶったら負けなのです。負けたら点が減るのです。逆に、かぶらなければ1点増えるのです。」
なるほど。よく知ってるフルルーツゲームに似ている。
「…でも例外もあるのです。たとえば、全員がバナナ、リンゴ、メロン、モモ、イチゴに別れたら、全員に2点あげるのです。」
「パイナップルはだめなの?」
「パイナップルは声を合わせるのですよ。つまり、全員がパイナップルに入れたら、その時は全員に5点をあげるのです。」
そんなの、みんなでパイナップルに入れればいいだけではないか。それならだれも損はしない。
「じゃあみんなでパイナップルに入れればいいんですね!」
「まだ例外はあるのです。パイナップルに入れたのが一人だったときと、一人だけパイナップルに入れていないとき。この一人は協調性が足りないのです。記号と名前を発表して-10点なのです。他のプレイヤーは+1点するのです。」
とても大きいペナルティだ。一回で11点の差がつく可能性もある。それに記号との紐付まで。だが、
「みんなでパイナップルに入れれば問題ないよねー。」
「そうね、みんなでパイナップルに入れてる時に他に入れる理由がないわ。」
「理由ならすぐ分かるのです。いいから聞くのです。」
ここまで助手に任せていた博士が口を開いた。
「助手、続けるのです。」
「はい。とりあえず、大まかな流れはこんなものなのです。あとは細かいことなのです。まず、ルール違反はその場で記号と名前を発表して50点の減点なのです。それから、投票室には一ゲーム中に一度は必ず入るのです。そして、投票したプレイヤーはそのゲーム中はもう投票室に入れないのです。投票は一ゲーム中は何回しても最初の票以外は無効なのです。」
細かいことと言いながら、禁止事項という重要なものを休みなく話し続ける。
「一ゲームはこの砂時計の砂が落ち切ったら終わりなのです。」
「ちょっといいかな?」
コウテイが割って入る。
「一ゲーム一ゲームって、一体何回やるんだ?」
「いい質問なのです。今の流れを一ゲームとして、10回やるのです。」
「10回もやるの!?レッスンの時間があるのよ!?」
「そうだぞ!こっちはアイドルだ!」
「マネージャーの許可は取ってあるのです。安心するのですよ。」
「『!?』」
なるほど。大丈夫とは、そこまで全て「大丈夫」ということか。
「とりあえず、ルールはあと二つなのです。聞くのですよ。まず、パイナップルのカードは15枚しかないのです。」
「『!?』」
先ほどとは違う衝撃が走る。つまり、全員でパイナップルを投票するのは最高でも3ゲームまで。そこから先は…。
「そして、あのジャパリまんは一番ポイントが高いプレイヤーが独り占めするのです。ポイントがプラスなら、あれにさらにポイント分追加するのですよ。逆に、マイナス分は勝ち負けに関係なく回収するのです。…それと、今のポイントはそのままにしておくのです。」
「『!!!!!????』」
これでパイナップルに入れない理由ができた。もとより3ゲーム分しかない上に、このままではDの一人勝ちである。なおかつ、自分のポイントはマイナスにしてはいけない。負けてマイナスでは、いわば借金だ。そんな状態では、あのペナルティは致命的だ。
「では早速、1ゲーム目を始めるのです!」
博士の掛け声とともに、砂時計は砂を落とし始めた。
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