第十一話 【ラディナの過去・前編】




 三日後。


 葵たちは、お世話になった騎士団の人たちの元へのあいさつを終えて、王都に戻っていた。

 騎士団二名でも対抗しきれない魔物の存在を、実際に対峙した二名と葵たちで説明するためだ。

 それ以外にも、組合に依頼した結愛の詳しい進展や、騎士団の方で何か新しい情報がないかや、銀狼を仲間にしたこと、そして、ラディナの家へと行くためだ。

 ラディナの家に行くのは、これから別の国に移動するにあたって、ラディナが親に自分から説明をしておきたい、と言われたからだ。

 元々、ラディナの仕事は王城で暮らすことになる召喚者たちへ、側付きとしてお世話をすることだったが、葵は色々な国や場所へ赴くことになったため、その説明をしたい、とのことだった。

 断る理由もないし、親と話をしておかないと後悔するということは葵も見てきて知っているため、それを了承した。


 そんなわけで首都についた葵は、組合へ出向き、結愛の情報がないかを聞いた後、珍しくラディナとは別行動をすることになった。

 ラディナは家へ、葵はソウファとアフィを引き連れて王城へと、足を運んだ。

 約一か月ぶりに見る王城は、特に変わり映えしていなかった。


 城門を警備する騎士団員に、手の甲の魔紋を見せて城に入る。

 ソウファとアフィの二人は、野生で暮らしていたころには見たこともないような建造物を前に、感嘆の声を上げていた。


「大きいですね……」

「まぁ、この国で一番偉い人が住む、一番大きな建物だからね」

「葵から話は聞いていたけど、本当に偉い人との繋がりがあったんだな」

「ちょっと特殊な関係だけどね」


 そんな会話をしながら、王のいる執務室へと向かう。

 道中、クラスメイトとすれ違ったが、特に何も言葉を交わすことはなかった。

 数分して辿り着いた執務室の扉をノックする。

 中からの返事を待って、その扉を開ける。


「お久しぶりです。王様」

「久しいな葵殿。そなたの活躍は既に聞いている。よくやってくれた。感謝する」

「いえ、お礼を言われるようなことは何もしていません。それよりも、話したいことが色々とあるので、よろしいですか?」

「構わない。聞かせてくれ」


 机にはたくさんの紙が積み上げられており、今も何かを書いているようだった。

 無理して時間を作ってもらったのは、その机の上を見れば明白なので、話したいことだけを的確に話していく。

 ここ数か月、魔物の目撃件数が減っていたこと。

 騎士二名を圧倒するサル型の強力な魔物がいたこと。

 銀狼と、銀翼の梟を仲間にしたこと。

 次は、東の帝国か南の連合国に結愛の捜索に行こうとしていること。


 十数分でそれを話し終えた。

 ただ静かに、葵の報告を聞いてくれていた王は、ふむ、と一つ頷いた。


「報告感謝する。魔物は本当によく倒してくれれた。ソフィア殿とアフィ殿も、葵殿のことを手伝ってくれたようだな。感謝する」

「そんなっ、私たちは何も……! ほとんど、主のおかげです!」

「……そうか。それで、次に赴く国なのだが、どちらにするかは好きに決めるといい。帝国も連合国も、我が国との繋がりは大いにある。神聖国や公国よりも、話を通すのは簡単だろう」

「そうなのですね……。では、この国と比較的似たような文化を持つ連合国に行こうと思います」

「わかった。今日のうちには連合国へ話を通しておこう」

「お願いします。では、もう行きますね」

「ああ。道中、気を付けてな」

「はい」


 そう言って、葵たちは部屋を出る。


「あ、もう一つだけいいですか?」

「どうした?」

「ラディナの実家、どこにあるか教えていただけませんか? 合流する場所を決めていなかったので、こっちから出向こうかと思いまして」

「ああ。それなら、二区の城壁側にある、大きな広場を持つ家がそうだ。屋根の上を走っていれば、簡単に見つかるだろう」

「わかりました。ありがとうございます」


 葵が屋根の上を走っていることを王が知っていることに驚かされたが、咎められるような言い方ではなかったのでよかった。

 失礼します、と頭を下げて、今度こそ葵たちは部屋を出た。

 来た道を辿って戻る途中、城門で学院から帰ってきた王女と出くわした。

 なぜ学院から帰ってきた、と断定できたかと言えば、単純に、制服を着ていたからだ。

 葵の姿を見つけ、王女は珍しそうな顔をした。


「お久しぶりです、綾乃様。――と、そちらの方たちは?」

「お久しぶりです、ソフィア様。こっちが銀狼のソウファで、その背中に乗っているのがアフィと言います。三日ほど前に、仲間になりました。魔物ではありますが、人の言葉を理解できる上、能力的にもかなり高いので特に怯えることはありませんよ」

「そうなのですね。魔物は初めて見るので、少し驚いてしまいました。ごめんなさい、ソウファさん、アフィさん」

「いえ、大丈夫です。お気になさらないでください。ソフィア様」


 ここ数日でわかったが、ソウファはどうやら物怖じしない性格らしい。

 ソフィアの立場を知らないから、という見方もできるが、先ほど、王と対峙した時も、毅然とした対応をしている。


 一方でアフィは、王や王女と対峙している今、緊張からか口数がかなり減っている。

 王城を見た時も、何やら緊張した声だったように感じるし、アフィは緊張しいなのだろうか。

 尤も、葵も状況が状況でなければ、アフィのように王や王女といった存在を神聖視しすぎて、過剰なまでに畏まっていたかもしれない。


「葵様。ラディナは一緒じゃないのですか?」

「今ラディナは、家族の元に行っています。この国の主要な町の町長に結愛の話は通し終えましたので、次は連合国に結愛の捜索に出向く予定です。少しの間、国を離れることになるので、その前に、一度説明をするために行ってもらってます」

「……連合国、ですか」


 葵がラディナの行動を口にしたところで、ソフィアは表情を曇らせた。

 その変化に、葵は何かまずいことを言っただろうか、と少し心配になる。

 ソフィアはラディナの恩人で、ラディナにはこの一か月かなり助けられた。

 この一か月で、葵の家族と同じレベルで、大切な人と同等の枠に入り込んでいるラディナの大切にしている人を悲しませるのは、葵の取って本望ではない。


「何か、お気に障ることを言ってしまいましたか?」

「えっ? あ、いえ。少し考え事をしてしまっただけですので、ご心配は為さらず」

「……大丈夫、ですか?」

「はい。ラディナに、次に帰ってきたときは顔を見せて、と伝えていただけますか?」

「わかりました。きちんと伝えておきます」

「お願いします。では、また」

「はい。また」


 そう言って、ソフィアは王城へと早足で去っていった。






 屋根の上をソウファに乗って駆ける。

 銀狼の加護の影響で、“魔力操作”の半分か、あるいは思考の大半を放棄しなければ生活できなくなった葵の代わりに、ソウファが葵の足を買って出たのだ。

 一応、ソウファは狼とはいえ性別上は女なので、跨るのは気が引けたし、何より、“身体強化”して走ったほうが早いだろうと思っていたが、ソウファもアフィも、葵とラディナのスピードに平気な顔をしてついてきたので、せっかくの申し出だ、ということでそれを受け入れた。


 そんなわけで、屋根の上を器用に四足で駆けるソウファに跨りながら、アフィと並走して数分。

 王の言った大きめの広場が見えた。

 五階建てのマンションのように並び立っている住宅街の中に、開けた空間があったのですぐに見つかった。

 広場では、たくさんの子供たちがワイワイと楽しげに遊んでいるのが見えた。

 パッと見た限りでは、ラディナの姿は見えない。


 屋根から飛び降りたらビビらせることになると考え、少し離れたところで人目のない道に降りる。

 その後、広場まで歩き、開かれた門の前に立って、正面を見据える。

 上から見た時にも思ったが、どうやらこの広場は、奥にある建物に付随された庭のようなもののようだ。

 幼稚園や、保育園と言った建物が想像できる。

 そんなことを考えながら、葵は広場へと堂々と足を踏み入れる。

 すると、見たことのない人が自分たちのテリトリーに入ってきたからか、子供たちがワラワラと集まってきた。


「ねぇねぇお兄さんだあれ? その子たちはペット?」

「その犬すっげぇかっこいいな!」

「こっちの鳥さんも大きいよ!」


 どうやら知らない人あおいよりも、動物に見えるソウファやアフィに対しての好奇心が勝っているようだ。

 魔物の中には一見すると動物にしか見えないものも多くいるし、まず街中には魔物は入ってこないので、子供たちの警戒心の薄さは納得のいくものがある。

 しかし、こうもワラワラと集られては面倒だ。

 今も、次々とこちらに子供たちが集まってきている。

 仕方がないので、二人には犠牲になってもらうとしよう、と葵は子供たちに声をかける。


「少年たち。俺はここにいるラディナって人に話をしに来たんだ。どこにいるか、教えてくれないかな?」

「……ラディナねぇちゃんなら奥でママと話してるよ!」

「そうなのかい? 案内してくれたら、この二人が君たちと遊んであげるよ」

「ほんと!? じゃあついてきて!」


 葵はソウファとアフィを子供たちの遊び相手いけにえとして差し出すことで、ラディナに元に向かうことにした。

 葵の言葉を聞いたソウファとアフィはびっくりしたような表情をしていたが、すまん、と表情と口パクで伝えて、少年に先導されて奥の建物へと足を運んだ。


「じゃ、犬さんと鳥さん。遊びましょ?」


 残されたソウファとアフィは、無邪気な子供たちに、恐怖した。






「ここだよ!」

「ありがとう。もう大丈夫だから、あの二人と遊んできていいよ」

「やったー!」


 葵を案内してくれた少年に礼を言うと、少年は嬉々として広場へと駆け出して行った。

 それを見届け、葵は正面に見える扉の前で一つ深呼吸をして、扉をノックする。

 すぐに中からどうぞ、と返事があったので、失礼します、と声をかけて扉を開ける。

 中には、ラディナと、ラディナとは似ていない女性の姿があった。

 その女性はスラっとしたスレンダー体形の持ち主で、座っているが身長は高そうだ。

 年齢は二十台くらいで、服装は動きやすそうなシャツと長いパンツ姿だ。

 髪は短めのこげ茶色で、瞳は赤っぽい茶色をしており、そこには女性特有の柔らかさと、命を張って生き抜いてきたかのような強かさが窺えた。


 そういえば、ラディナが“身体強化”を使えたのは、親が冒険者で、その人から教えてもらったんだったっけな、と一月ほど前の会話を思い出す。

 そんな葵を見て、ラディナは慌てたようにガバッと腰を上げた。


「葵様っ? なぜここに――」


 そう言って、ラディナは室内にあった時計を見ると、ハッとした表情になる。


「す、すみません。母と話すのが久しぶりで、つい時間を忘れていました」

「大丈夫だよ。元々、何時にどこ集合ってのは決めてなかったんだ。一か月も会わなかったんだし、まだ話足りないくらいでしょ?」

「いえ、話したかったことはおおよそ話せましたが……」


 葵の言葉は少し見当違いだったようで、ラディナは困ったような表情を見せた。

 だが、ラディナは滅多に葵の前でそんな表情を出さなかった。

 悩むことがないわけではないが、悩んでいる最中も、凛とした表情を崩さなかっただけに、珍しさを感じると同時に、この場所ではラディナの知らない面が多くみられるのかもしれない、と少しだけ面白さを見出した。

 そんな二人のやり取りを静かに眺めていた女性は、ふふふっと上品に微笑んだ。


「敬語を使っているラディナは、やっぱりいつまで経っても慣れないわね」

「もうっ、お母さん! 今はそんな場合じゃないの!」

「ふふっ、ごめんね。葵さんも、気を悪くしたらごめんなさい」

「いえ。俺は別に」


 女性は葵に微笑むと、ラディナに視線を向けた。


「ラディナ。あなたも久しぶりに帰ってきたのだし、あの子たちと遊んできてちょうだい。あの子たちもあなたと遊びたがっていたから」

「それはいいけど……お母さんは?」

「私はあなたのご主人様とお話しするわ。あなたがちゃんとやれているか、親としては心配だもの」

「わかった。――それでは葵様。私は園庭で子供たちと遊んでまいります」

「うん。ソウファとアフィも一緒だから、怪我させないようにだけ注意してあげてね」

「承知しました」


 相変わらず、ラディナの敬語になれないのであろう女性は、ラディナの敬語を聞くたびにクスリと笑う。

 それをジト目で睨みつけながら、ラディナは広場の方へと向かっていった。

 扉がパタンと閉まるのを確認してから、女性は葵をソファへと座るよう促す。

 ぺこりと頭を下げてからソファに座ると、女性は口を開いた。


「さて、改めまして。私はラディナの母で、元冒険者をやっておりました、カミラと申します。家名はありません」

「俺は召喚者、綾乃葵です。ラディナには一月前からお世話になっています」

「聞いておりますよ。能力的な面から友人関係、性格の話まで、色々と」

「それはなんだか、少し恥ずかしい気もしますね」

「ラディナは人を見る目がありますから、あの子が少し性格に難があるが、優しい人であると言ったのです。恥ずかしがることはないと思いますよ」

「褒められていたのなら、嬉しいですね。性格の面では、最初の印象が悪すぎたのでなおさら」


 最初、ラディナの恩人であるソフィアに突っかかった嫌な奴、という印象が強く、殺意すら向けられたのが懐かしい。

 そう感じられるくらいには、ラディナとの仲も進展したと言えるだろうか。

 葵の態度に、カミラはフフッと微笑みながら、紅茶を上品な仕草で口にする。


「それで、俺と話すこととは?」

「そうですね。あなたのやることも聞いておりますので、本題に入りましょうか」


 そう言って、カミラは居住まいを正す。

 それを見て、自然と葵の背筋も伸びる。


「あなたはラディナの過去を、どれほど聞いていますか?」

「そうですね……あなたが元冒険者で、戦う術や“身体強化”などの技術を教えてもらったことや、多くの子供たちがいるこの場所で物心つく前から生活していたことくらい……ですかね」

「あの子の身分や、生まれなどは聞いていませんか?」

「はい」


 葵の返事に、カミラはふぅ、とため息のような息を吐く。


「あの子の身の上話は、あまり明るいものではないですからね。話さなかったことを責めてあげないでください」

「大丈夫ですよ。自分にだってあまり口にしたくない過去もあるので、そんなことで責めはしません」

「……よかった。聞いていた通り、人の立場になって考えられる人のようです」

「それよりも、ラディナにその話をすることは言っているのですか? 本人が話したがらなかったことを、母親とはいえ第三者が勝手に言ってもいいのでしょうか?」

「大丈夫ですよ。あの子から、私からなら話してもいいと、了承は得ています。そうでなければ、私とあなたが話をする、と言った時点で、素直にこの部屋から出てはいかないでしょう?」

「確かに」


 葵が納得したのを見て、カミラは驚きの言葉を口にした。


「ラディナは、帝国の皇帝と、第二夫人の元に生まれた、第一皇女なのです」






 * * * * * * * * * *






 帝国の王である皇帝には現在、夫人が二人いる。

 一人は帝国における五英傑と呼ばれる、王国における宰相や十貴族のような、国の中枢にかかわることのできる貴族のうちの一家から選ばれた、戦闘技術に長けた娘。

 こちらが王妃や正室と呼ばれる第一夫人。

 そしてもう一人は、アルペナム王国第一王女、ラティファ・W・アルペナム。

 アルペナム王国第二王女にして、ソフィア・W・アルペナムの姉だ。


 現国王の子供には王子がおらず、本来なら第一王女ラティファが国に残り、第二王女のソフィアが他国へ嫁ぐのが当たり前だ。

 しかし、まだソフィアが物心つき始めたころ、王城が原因不明の火事によって燃えた。

 その際に、まだ幼かったソフィアを守ろうとした王妃が死亡し、王も怪我を負った。

 その際に、手を貸して復興を早めたのが帝国だった。

 その見返りとして、帝国は王女を欲しがった。

 しかし、ソフィアは当時四歳で、皇帝の元に嫁ぐには早すぎると、ラティファ自らが名乗りを上げた。

 未来を視ることのできる恩寵を持つラティファなら、武力第一の皇帝も文句はないだろうと、まだ幼かったソフィアの代わりに、皇帝の元に嫁いだ。


 その一年後に生まれたのが、アンナ・W・シュトイットカフタ。

 ラディナの本当の名前だ。

 名前を偽っているのには、しっかりとした理由がある。


 そのころ、ラティファは一年間帝都で暮らしていたが、そこでの生活に慣れず、皇帝から帝都から一番近い東の町、ウスポゥンの別荘で暮らすことになった。

 当然、ラティファの娘であるアンナも、母親の元で暮らした。

 しかし、首都に近いとはいえ、そこは首都ではない。

 故に、ラティファの身の回りの世話をできる人間が少なかった。

 第二夫人とは言え、皇帝の妃であるラティファには、護衛を含め、たくさんの使用人に囲まれ、不自由なく生活ができるのが最低条件、という暗黙の了解のようなものがあった。

 しかも、ただ人員を増やせばいいのではなく、教養があり、妃に対して失礼のない態度で接することのできる人間となると、王国や共和国、神聖国と言った今日に力をあまり注いでいない帝国では首都以外にはほとんどいなかった。

 その上、暮らしている屋敷は別荘とはいえ皇帝の持ち物だ。

 その大きさは、並みの屋敷よりも遥かに大きいため、少数精鋭なんて言ってられないほどの人員が必要となる。


 そこで、ラティファは組合から子が成人するまでの十五年の間、定期的に屋敷で働ける人員を募り、持ち前の人を見る目で次々と新たな人員を確保した。

 教育のないものには自らが教鞭をとり教え、人手が足りなければ外聞など気にせずに手を貸した。

 数少ない首都から派遣された使用人たちは、最初こそそれを固辞していたが、ラティファと生活し、その優しすぎる人となりを見てきたおかげか、次第に手を貸されることに感謝しか言わなくなっていた。

 三年もたつ頃には、組合から選んできた人員の教育も終え、ラティファが自ら汗水を垂らすことなく生活できるまでになっていた。

 その組合からの人員の一人が、カミラだ。


 カミラは最初、ラティファのことをひどく誤解していた。

 というよりも、ラティファに選ばれた人員のほとんどが、ラティファのことを誤解していたという。

 帝国は完全な武力による実力至上主義社会だ。

 自らより権力こそあれど、武力においては組合で魔物と戦ってきた自分たちとは比べ物にならないほどに弱そうなラティファを見て、舐めていた。

 皇帝の妃ということで、組合に出された報奨金はかなり大きく、それこそ組合の最上位等級である金級が、命を張って得られる年収とほぼ同額を貰えるのだ。

 それがどの等級でも受けられる依頼だったならば、当然、金目当てでくる人間の方が多かった。


 そんな組合員たちにラティファは使用人たちと変わらずに接した。

 教養を受けていないから、とバカにすることなく、何かミスをすればその原因を探り、次からは同じことをしないよう注意を促し、温かい寝床と食事を用意した。

 妃として、母として、やるべきことをやりながら、並行してそれらを行っていた。

 正直なところ、実力で圧倒的に格下のラティファに従おうとする組合員は、少なくとも帝国にはいなかった。

 なにせ、生まれてから育ってきた数十年の間、実力による格差は常に身近にあったし、その環境に浸ってきた帝国民なら、そう考える人間の方が多い。

 なにせ、皇位を実力でもぎ取った皇帝ですらそうなのだから。


 それなのに、ラティファの行動や言葉は、そんな常識を覆すほどに、新鮮だった。

 きっと、ラティファには母親譲りのカリスマ性が備わっていたのだろう。

 それでも、一年、二年と暮らしていくうちに、組合員たちはラティファのことを尊敬し、従順になっていた。

 元組合員で、戦闘能力もありながら、帝国における一般のレベルを超える教養を備えるラティファの屋敷の使用人たちは、ウスポゥンでも次第に評価を得られ始め、それを行ったのが第二夫人であるラティファということが知れてからは、その町でのラティファの評価が勢いよく上がっていった。

 ラティファ自身が町を歩き、町民と話をしていたのも、大きく関わっているだろう。

 ともあれ、ラティファはわずか三年ほどで町民へ認められ、人気を博していった。


 生まれてから三年が経過し、順調に育っていたアンナは、ラティファの遺伝子を多く受け継いだのか、あるいは教育がよかったのか、同じ年代の子供たちと比較しても賢い部類に入る秀才となっていた。

 まだ三歳なのに、大人の言葉をしっかりと理解し、滅多に駄々をこねない子供だった。

 その反面、自分が大切にしていた人形が解れてしまった時などは泣いたりと、まだ年相応な部分も多く残っていた。

 ともあれ、ラティファとアンナ、そしてカミラを含む屋敷で働く人たちは、楽しく暮らしていた。


 そんな順風満帆なある日。

 それは、皇帝が自ら町や村に出向き、優秀な人材を勧誘するという初めての試みが行われている日であり、丁度、ラティファが暮らすウスポゥンを訪れる日でもあった。






 巨大な爆発が、町を襲った。



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