第十二話 【ラディナの過去・後編】




 始めは、ただの火事だった。

 町の隅の方で、火事が起こったのだ。

 それ自体は、珍しくはあれど、取り立てて大事にすることではない。

 王国のように各町に師団員がいるわけではなく、火事が起こった場合は組合員への緊急依頼として扱われるそれは、普段なら瞬く間に鎮火され、話題にすらならない出来事のはずだった。


 問題は、その火事が爆発へと変わったことだ。

 何が原因かは未だに不明だが、鎮火するだけで済むかと思われた火事が、爆発となって町を襲った。

 死傷者多数。

 町の全体へと爆風はその猛威を振るい、ほとんどの人間を怪我に追いやった爆発に、屋敷も巻き込まれた。


 屋敷での被害は火の手が上がる程度のことだったが、町の建物は軒並み壊滅していたのを見て、屋敷でラティファの護衛長を務めていたカミラはすぐに、ラティファと町民の安全確保に向かおうとした。

 それを止めたのは、ラティファだった。

 ラティファの恩寵は“未来視”。

 数多の可能性がある未来の一つを視ることのできる、かなり強力な恩寵だ。


 そしてその目に、ラティファの足元で花の王冠を作って遊んでいたアンナが殺される未来が映った。

 正確には、ラティファを殺す過程で、殺されるアンナが。

 犯人は火に紛れるような服装で顔はわからないが、少なくともカミラたちの手に負える相手ではないと、ラティファは言った。

 それはやってみなきゃわからない、と言いたかったが、ラティファが殺されるということは、すなわちカミラが敗北した、ということに他ならない。

 今日は、村や町を訪れ、有望な人材を引き抜いている皇帝が、ちょうどこの町を訪れる日だと言われていたが、ラティファが死んだということは、皇帝もその襲撃には間に合わないのだろう。

 だからばせめて、この子アンナだけでも助けてあげて、とカミラにアンナの護衛を任せた。


 まだ三歳で、物心がついていないとはいえ、ラティファの初めて聞く不安交じりの声を聞いたアンナは、先ほどの爆発からくる揺れも相まって今にも泣きだしそうだった。

 その上、ラティファがカミラにアンナの手を握らせたことで、アンナは泣き出してしまった。

 そんなアンナを見て、ラティファはアンナの頭に手を乗せながら、座るようにしてアンナと目線を合わせた。

 そして、アンナに状況の説明をした。

 アンナの身に危険が迫っていること。

 それから逃れるために、一時的にカミラについていってほしいということ。


 目に大粒の涙を溜めながらも、しっかりとラティファの瞳を見てその話を聞くその姿は、とても不安そうだった。

 ラティファの話を最後まで聞いたアンナはそのことを理解したのか、眉をギュッと合わせ、何かを耐えるように唇をキュッと閉じ、俯いた。

 しかしすぐに手の甲で涙を拭うと、パッと顔を上げて、ラティファに笑顔でわかりました、と答えた。

 その姿は、アンナが本当に三歳なのか疑うほどに、大人な対応だった。

 アンナの答えを聞いたラティファは、ありがとね、とアンナの頭を撫でた。

 ラティファはアンナを撫でたまま、カミラの瞳を真っ直ぐ見据え、アンナのことをお願いね、と力のこもった瞳で言った。

 ラティファの言葉と瞳と、ラティファに撫でられ、嬉しそうに享受するアンナを見て、カミラは必ずこの子を守り抜く、と心に誓った。


 カミラがアンナの護衛を任された理由は二つ。

 一つはアンナが懐いているから。

 実力だけで言えば、カミラは上から二か三番だ。

 しかし、組合員を含む使用人の中において、女性という枠を設けた場合は、カミラが一番上の実力を持っている。

 故に、ラティファの一番近くで護衛ができていた。

 そして、ラティファの護衛としてラティファの近くにいれば、当然アンナとも触れ合う機会が多くなる。

 その結果、アンナはカミラに懐いた。


 そしてもう一つは、カミラの恩寵がこと生存率に関しては屋敷の中でラティファよりも高かった。

 ラティファの恩寵は“未来視”で、自分に降りかかる災禍は全て視ることができ、他には瞳を見ることでその瞳の持ち主の未来の可能性を視ることができる。

 その点で言えば、“未来視”に生存率で勝てるわけがない。

 しかし、“未来視”はあくまで、未来の可能性を視るだけだ。


 それに対し、カミラの恩寵は“超直感”。

 これは、曲解込みで言うなれば、時間的猶予を除外した未来視だ。

 “未来視”がそれを見た時点から最低でも数分は猶予があるのに対し、カミラの“超直感”は未来視のように映像を見るわけではなく、文字通り直感が働く。

 分岐路において、こっちの道はなんとなく嫌な気配がするだとか、今日は街道に出ない方がいいなとか、そんな曖昧な第六感ともいえる恩寵。

 しかし、カミラの直感は、一度たりとも外れなかった。

 例えば、分岐路の嫌な気配の方では、その先に統率の取れた魔物の集団がいた、という目撃情報があったりだとか、町の外に出なかった日は、街道付近に魔物が大量発生していたとか、そんな感じに、“超直感”はカミラの身に襲い掛かるかもしれない出来事を回避できるのだ。

 故に、カミラの傍にいれば、カミラの実力が及ばない何かに襲われるまで、アンナの安全は確立される。


 カミラは、アンナの手を握り、逃げる準備を整える。

 と言っても、ラティファを襲う襲撃者がどれくらい後に来るかがわからない以上、悠長に準備をしている時間はない。

 最低でも二分と考え、せめて次の町まで行けるくらいの食料と、魔物に襲われても戦える武器を持っていこうと、素早く思考する。

 そんなカミラに、ラティファは念のために、町を出て、安住できる場所が決まったら、アンナの名前を変えてほしいと願った。

 もし火事を起点とするこの惨状が、ラティファとアンナを狙った攻撃であったならば、ラティファを殺したのちにアンナも狙われるかもしれない。

 今カミラがアンナを連れて逃げたところで、ただの時間稼ぎにしかならないかもしれない、と危惧したのだ。


 なら、やはり無茶を承知でも襲撃者と戦うべきでは、とカミラは思ったが、それは口にはできなかった。

 なぜなら、ラティファが見てきた未来は、変わることはなかった。

 少なくとも、今まで見てきた全てはそうだった。

 故に、ラティファが殺される未来は変わらない。

 だから、例え時間稼ぎになってしまおうとも、カミラはアンナを連れて逃げる必要があった。


 最後に、ラティファへ今までの感謝を言って頭を下げて、アンナを連れて町の外へと逃げた。

 なるべく、誰にも見つからないように、アンナを背負って西へ走った。

 アンナの体調を第一に考えて、夜は眠りもほどほどに周囲を警戒し、アンナの体力や気力が許す限り、走り続けた。

 そしてひと月半ほど走り続け、ようやく王国の首都へとたどり着いた。

 安住の地に王国の首都を選んだのは、ラティファの生まれ育った土地であるということと、帝国の周辺国の王国か連合国かの二択において、防衛能力がしっかりしている方を選んだからだ。

 そのどちらも、アンナにとって悪いことにはならないと信じて。


 そこで、冒険者として暮らしながら、資金を蓄えて、二区に家を買った。

 屋敷から逃げる際に、多少のお金を持ち出していたため、一年と経たずに家を買えたのだ。

 王城へと出向き、ラティファのことを国王へと報告をすれば、手厚い保護が受けられただろうが、それはしなかった。

 それをすれば、アンナは王国に保護され、安全になると同時に、アンナが生きていることが襲撃者に知られる可能性があった。

 アンナが狙われている可能性がある以上、自ら目立つような場所に、アンナを預けることはできなかった。


 しかし、アンナの教育もしながらお金を稼ぐのはなかなか厳しく、親元から離れて保護者同然のカミラが冒険者として町の外に出ている間は一人で宿の部屋に籠っているという生活は、いくら大人じみているとはいえ三歳児に要求することではなかった。

 だから、カミラは有り金のほとんどを使って大きめの家を買い、そこで子供たちに対して教育を施す代わりに少しのお金をもらう、という、いわば保育園のようなことを始めた。

 最初はご近所さんの子供たちを対象に細々とやっていたが、カミラの教育は想像以上に好評で、カミラの事業はどんどんと広まっていった。

 そして三年後、それが王女の耳に届き、国の水準を上げる行為として王国からの支援を受け、二区に大きな広場付きの家が建ち、それを貰った。


 そこから数年の間、子供たちを預かり、教育し、世話をすることで、子供たちの親から給料としてお金を貰い、生活の基盤を安定させた。

 その輪の中に、アンナ――もといラディナも混ぜて、同じように生活させた。

 中でも六歳で年長だったラディナは、お姉さんとしてカミラを良く手伝うようになり、子供たちからの評判も高くなっていった。


 そんな生活を続けてから五年後、異世界から人を喚び魔人との戦いの戦力とする、という伝達を王女から直々に受け、ラディナは悩んだ末に、それに了承した。

 一年の間、王城にて礼儀作法をこれでもかと叩き込まれた。

 そして、召喚者が喚ばれた。






 * * * * * * * * * *






「――あとは、君が知る通りだと思う」

「……ありがとうございました。一つ、質問いいですか?」

「何でしょう?」

「ソフィア様――王女様は、ラディナが姪であることをご存じなのですか?」

「いえ、知らないはずです。そもそも、ラディナに伝えた過去は、母親が貴族出身で、その母親に命の危険が迫ったから、私と一緒に逃げてきた、というところまでですので、ラディナは自分がこの国の第一王女と皇帝の間に生まれた娘だということも知らないはずです」

「……わかりました。では、このことは他言しないようにしておきます」

「感謝します」


 座ったままだが、頭を深々と下げ、その言葉を体で表現する。

 その後、カミラはゆっくりと顔を上げ、葵を見据えた。


「私の話は以上になります。何か質問や、聞きたいことなどはありますか? もちろん、今の話ではない別のことでも構いませんよ?」

「……では一つだけ」


 葵は人差し指を立てて、そう言った。

 カミラはどうぞ、と葵の言葉の続きを促す。


「ラディナの名前を偽名にするときに、なぜ『アンナ』から『ラディナ』にしたのですか」

「……面白い人ですね。ラディナのスリーサイズや男性経験など、もっと他に質問できることはあるでしょうに」

「もしかして、ラディナが初対面で自分の体を使って下の世話も致します、なんて言ったの、カミラさんの教育のせいじゃないでしょうね?」

「いずれ、好き合う男女がいれば至る場所ですので、今のうちから正しい知識を覚えておくのに越したことはないのでは?」

「……一理あるけど、ラディナの場合は少し過剰じゃないか?」


 葵の質問が想定の外にあったものだったのか、一瞬ポカンとしたカミラはすぐに微笑んだ。

 そして、やはりこの親がいてこの子供ありとでも言うべきか、本気のような冗談のような、いまいち見分けのつけづらいジョークを飛ばしてくる。


「そうかもしれませんね。尤も、ラディナの場合は知識欲が高かったので、他の子よりも多くを学んだ結果とも言えますが……。それで、質問はラディナの名前の由来、でしたね」


 微笑みながら、カミラはようやく話題を元に戻す。

 それに葵は、疲れた様子で頷く。


「あの子の名前の由来は、おそらく母親のラティファさんですよ」

「ああ。言われてみれば、母音同じですね。でもおそらく、とは?」

「つけてから、それに気が付いたんです。無意識的に、ラティファさんを意識していたのでしょうね。バレないようにするための偽名なのだから、もっとわかりづらくするべきだと、今では思うのですが、当時の私にとって、あの子は私とラティファさんの間に残った唯一の繋がりでしたから」


 ラディナには、私的な欲望を押し付けてしまって申し訳ないことをした、とカミラは申し訳なさそうな表情で言う。


「……仕方ないんじゃないですかね」

「え?」

「あなたはラディナに、ラティファさんの未来を背負わせようとしてるわけじゃないんでしょう?」

「それは勿論です。あの子は、あの子のやりたいように生きてほしい」

「なら、カミラさんが気に病む必要ないですよ。俺が見た限りでは、ラディナは母親に囚われているようには見えませんから」

「……そう、でしょうか?」

「はい。それにラディナは、自分のやりたいことを最後まで貫き通せる人間ですよ。今は俺が拘束してちゃってますが、いつかきっと、本当にやりたいことが見つかったら、俺の拘束なんて振りほどいて、自分の道を進んでいくと思います」


 葵の主観において、この一か月のほとんどを共に過ごしたラディナという人間を分析した結果を、カミラにありのまま伝えた。

 それが少しでもカミラの悩みを解決する手助けになればいいな、と思っていた。

 結果は、カミラの柔らかな笑みを見ればわかった。

 ともすれば惚れてしまってもおかしくない美人の優しい笑みには、後を引くものはないように見えた。


「ありがとうございます、葵さん。ラディナのこと、どうかお願いします」

「はい。任されました」




 カミラとの話を終え、葵とカミラは広場に出た。

 そこでは、子供たちに絡まれながら、しかし自分も楽しんでいるソウファと、子供たちの手に届きそうで届かない空を翔るアフィと、子供たちに囲まれて、その一人一人にしっかりと対応しているラディナの姿があった。

 子供たちと話すラディナの口調が丁寧語じゃないことに違和感と、各々のやり方で子供たちと遊んでることに面白さを覚えつつ、葵はラディナの元へ向かう。


「ラディナ。お待たせ」

「葵様。お疲れ様です。何か、母に変なことを吹き込まれてはいないですか?」

「もっと母親を信用してほしいものですね、ラディナ」

「お母さんは変なことばっかり言うでしょ!」


 およよ、と崩れるように座り込むカミラに、辛辣ともいえる言葉をラディナは返す。

 尤も、カミラの様子を見る限り、このやりとりがこの親子のありのままなのだろう。

 そんな二人のやり取りを見て、ふと、懐かしさを覚えた。

 同時に、家族は今、どうなっているだろうか、と心配になった。

 両親は、元気にしているだろうか。

 茜と椋だけで火事を回せているだろうか。

 葵と結愛のことを、心配してくれているだろうか。


「葵様?」

「……何でもないよ。ちょっと考え事してただけ。それで、なんだっけ?」

「この後、どこの国に行かれるのですか? 予定では連合国か帝国というお話でしたが……」


 カミラはラディナの発言を聞いて、少しだけ眉を動かした。

 それを片目で見つつ、葵は迷うことなく答える。


「ああ。連合国に行くことにした。王国を目指して改革を進めている連合国なら、この国と大差なく動けるんじゃないかと思ってね。すでに、王様には話を通しているよ」

「承知しました。では、これより旅の準備を行い、夜頃には連合国へ行く、でよろしいですか」

「うん。あーでも、ラディナはまだここにいていいよ。準備は俺でやるから」

「いえ、私もします。準備は早い方がいいでしょう」

「それはそうだけど、結愛はきっと、ひと月ぶりの家族団欒を邪魔しないよ。だから、せめて俺が来るまでは、ここでみんなと居なさい」

「……わかりました。ありがとうございます」


 葵の言葉に、ラディナは申し訳なさと、嬉しさの混じった表情で頷いた。

 それを見て、葵は踵を返し門から出ようとした。


「綾乃葵様! 王女様より伝言がございます!」


 葵の視線の先。

 門の前で、敬礼する騎士団員がいた。

 

「あ、王城の門の前にいた団員さんですね」

「その通りです!」

「それで伝言とは?」

「組合より伝達がありました。板垣結愛様らしき人物を目撃したという人物が、組合に現れたそうです!」


 その言葉を聞いて、葵は全身に鳥肌が立つのを感じた。

 このひと月、この国の町々を探し回っても手掛かり一つ手に入らなかった結愛の手掛かりを入手できる可能性が、ようやく表れたのだ。

 今にも騎士に詰め寄り、詳しいことを聞き出そうとして、慌ててはよくないと大きく大きく深呼吸をする。


 ひとまず、カミラの方を向き、頭を下げる。


「すみません。もう行かなくてはならなくなりました」

「ラディナから聞いています。こちらはお気になさらずに、ご自身の道を進んでください」

「感謝します。ラディナも、ごめんね」

「構いません。結愛様が見つかれば、私もここに来やすくなりますから」


 葵たちのやり取りを見て、ソウファとアフィも子供たちを引き連れて集まり始めた。


「主。大丈夫ですか」

「俺は大丈夫。子供たちと遊んでくれてありがとね」

「大丈夫だ。それより、探し人の手掛かりが見つかったのだろう。のんびりしている暇はないぞ」

「わかってる。これから、その人の元へ行く。ついてきてくれ」


 ラディナ、ソウファ、アフィに向かって言った言葉に、三人は迷うことなく頷く。

 それに頼もしさを感じつつ、葵は騎士に向き直る。


「詳しいことは移動しながら聞きます。案内お願いします」

「畏まりました」


 身を翻し、門から離れる騎士団員の後を追う。


「ラディナねぇちゃん、もう行っちゃうの?」


 そこで、後ろから寂しそうな声が聞こえた。

 振り向いてみれば、そこには葵がここで話した少年が、ラディナのメイド服のスカートの端を掴んで、ラディナを見上げていた。

 少年からすれば、今まで当たり前にいた年長の頼りになる姉のような存在が、突然ここではない場所へ行ってしまって、久しぶりに帰ってきたと思えば、一日と経たずにまたどこかへ行ってしまう。

 『ねぇちゃん』という呼び名からわかるように、きっとラディナはここの子供たちから好かれていたのだろう。

 それは、今の少年の態度からも、周りに集まっている子供たちの表情からもわかる。


 そんな少年に、ラディナはしゃがんで視線を合わせた。


「ごめんね。でも、また戻ってくるよ」

「……ほんと? すぐに戻ってくる?」

「……すぐ、は無理だと思うけど、必ずここに帰ってくるよ。それは約束する」


 そう言って、小指を少年の目の前に出す。

 しかし少年は、それを見て、カミラの方を向いた。

 カミラは何も言わず、ただ微笑んで頷いた。

 それを見た少年は、葵の方を向く。


「本当に、ラディナねぇちゃんは帰ってきますか?」


 少年は、葵に向けてそう言った。

 少年はラディナが葵についていっていることを正しく理解しているのだろう。

 だから、葵という主導する人間に、ラディナが返ってこれるかを尋ねた。

 なら、それに対する答えは一つだけだ。


 少年の元まで歩いていき、目線を合わせて言う。


「ああ。ラディナは必ず、ここに帰す。次に俺が来た時にはきっと、ラディナとずっと一緒に居られるぞ?」

「……ほんと? 嘘じゃない?」

「嘘じゃない。嘘にはしないよ」


 少年は、葵から一度も目を外さずに最後まで聞いた。

 そして、ようやくラディナが前に出した指へと視線を戻す。


「じゃあ、ちゃんと帰ってきてね」

「うん。約束するよ」


 そう言って、指切りげんまんをした。

 こちらの世界にその約束の仕方があるのは、既に知識としてあったから驚きはしなかった。


 立ち上がり、カミラの方を向く。


「では、またしばらくお借りします」

「はい。私との約束も、守ってくださいね」

「任せてください」


 カミラは葵の言葉を聞いて微笑むと、深々と頭を下げた。

 葵も会釈をして、待ってくれていた騎士の元に行く。


「お待たせしました。お願いします」


 その言葉で、騎士は走り出した。

 結愛の手掛かりを掴んだという人物の元へと。



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