泣き虫天使と恋におちれば
かさかささん
第1話 告白勘違い
放課後。
その時間が訪れるまで、同じ空間で同じように授業を受けるだけだった高校生達。しかしそんな学生達は放課後になると各々違った行動を取る。
部活動で練習に励む者、バイトで労働に勤しむ者、塾へ勉強をしに行く者や、ゲーセンに寄り道する者など様々だ。
「徳氏、今日も帰りにゲーセン寄って行きますぞ」
「悪いな小田……今日はちょっとナ」
フッ。
ニヤリと笑い小さく息を漏らすこの男、徳川徳乃助。名字にも名前にも徳の字が入ることから、クラスメイト達から徳と呼ばれるこの男。放課後は専らゲーセンに寄り道する部類に入る男である。いつもはゲームオタクの友人の小田と共にゲーセンに寄り道するのが日課だが、その誘いを断った。傍から見るとちょっとイラッとするようなニヤニヤとした顔で断ったのだ。
「実は俺、今日告白されたんだ」
「んんっ!?」
フフッ。
ニヤケきっただらしの無い顔をする男、徳は意味も無く髪をサラリとかきあげてから小田に告げる。
「キモオダには縁の無い話で悪いが、北条さんに告白されたんだ」
「いつの間に……って、キモは余計ですぞ!」
驚きを隠せない小田。もといキモ小田。そんな小田の反応などお構い無しに、徳は告白された様子を再現するかのように語り出す。
「そう、あれは今朝教室に入った瞬間だった――」
始業前。まだ教室に人もまばらな時間帯に徳は教室に入ると、真面目を絵に描いたような眼鏡をかけた文学少女。北条真希子が本を読んでいた。ドアに近い席という事もあってか、徳が教室にやって来た事にすぐ気が付いたのだろう。文庫本から目を離して。
「おはよう」
挨拶を贈る。にこやかな笑顔を添えて。そんな素敵な笑顔を渡された徳もまた「おはよう!」と挨拶を返し、北条は笑顔のままに文庫本に目を戻した。
「――と、そんな感じで告白されたんだ」
「んんんんっ!?」
小田は直角に近い角度に首を傾げている。徳の言っている事が、小田の中の常識と言う枠の中で全く持って理解不能な発言だったからだ。
「おいおいわからないのかよ。北条さんが『おはよう、徳君今日も会えたね。私、とっても嬉しい。三度の食事よりも本が好きな私だけど、徳君の事はもっと好きなの』って言ってるも同然だったろおい!」
「どんな都合の良い耳と頭をしてもそうは聞こえないし理解出来るはずも無いですぞ!」
徳は良く言えばポジティブ。悪く言えば勘違い男のそれそのものだった。人に惚れやすく自分がモテない事に気付いていない性格も相まって、未だに彼女が出来た事は皆無。
「まっ、そんなワケで俺は彼女と愛の放課後デートを満喫してくるぜ!」
どこからやって来たのか所在不明の自信に満ち溢れた表情で、徳は教室を飛び出した。授業が終わって北条は先に教室を出て行ったのを目撃しているからだ。
「教室を一緒に出るところを誰かに見られたら恥ずかしいもんナ……さてさて、これから王子様がお迎えに上がりましょうか」
図書室。読書家な彼女はきっとそこで待っている。そう思った徳は教室から速やかに移動を試みたが……。
「クッ」
徳の足が向かった先は中庭。昼休みになると購買のパンを求めて人口密度が急上昇するが、それ以外の時間は誰も居ないようなスポットに来てしまっていた。
「う、うーん……図書室って、どこだっけ?」
普段はマンガしか読まない徳は図書室を全く利用した事が無かった。頭を抱えて悩んでいると、ふと頭上に電球マークが点いたかのようにポンと手を叩く。
「そう言えば、告白されたのが嬉しすぎて返事をまだしていなかったナ」
徳は今朝告白された。あくまで脳内の都合の良い無理矢理な解釈だが告白されていた。しかし、浮かれていたあまり告白の返事はしていない。
「北条さんは勇気を持って告白してくれたのにっ、俺の気持ちを知りたいはずなのにっ、くそうっ、俺のバカバカッ!」
ポカポカと自分の頭を叩いて猛省。反省点を間違えているというツッコむ小田も居ない状況で一人、中庭でブツブツと反省。
「これは返事を先送りにしてしまったお詫びを兼ねて、超絶カッチョイイ愛のメッセージを伝えなければ……ずっと前から君だけを見ていた。学校の中でも学校の外でも四六時中君を見ていたって、これじゃあ愛が重すぎるかナ?」
うんうん唸りながら腕を組んで悩む徳。
俺も好きだよ。愛してるぜ。君は俺の一番星だ。
「やべぇな……どれを言っても愛される自信しかないぜ」
愛の台詞を頭の中で次々と並べている徳。過剰な自信を持ったまま、予行練習と言わんばかりにその言葉を声に出す。
「――君のためなら死ねるッッ!」
「えっ!?」
誰も居ない放課後の中庭。ついさっきまでは徳以外に人っ子一人居ない空間。そんな静寂な場所で愛を叫ぶ徳の前に一人。少女の姿がそこにはあった。
高校の敷地の中にある中庭。そこに高校生である自分達よりも明らかに年下の少女。あと五年は高校に来るのが早いであろう少女の姿。顔も身体も小さい。艶やかな白い肌を包むヒラヒラとした白い服。まるで翼の無くした天使のような少女だった。
「どうしてっ!」
少女は両手で顔を覆うように隠して声を張った。小さな手を、顔を、身体全体を震わせて徳に言った。
「どうして、どうしてそんな事言うんですか。そんな事言われたら私……ますます貴方を殺せなくなるじゃないですか」
顔から手を離し、少女の表情が露になる。
涙。
少女は泣いていた。悲しそうに。切なそうに。震えながら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます