第354話 百物語合宿~お題:いわくつき 中編その1~
「副社長、お話しいいですか?」
「R君、何か分らないことでもあるのかい?」
「いえ。その、先程社長と話されていた・・・。」
「ああ。あれは気にしないでくれ。」
「そうではなくってですね。僕がその仕事を変わりましょうか?」
「え!?」
目に見えた驚愕に、この時の僕は何も感じていませんでした。
「いや、その、でも・・・。」
嫌なのにそれでも即座に代ろうとしない副社長に多少の疑念は抱きましたが、その時はそれすらも無視して、仕事を変わろうとしたんです。
「なら、私が代わりましょうか?」
「え、Aさん!?」
「R君が頼りないのなら私ならいいですよね?」
「し、しかし・・・。」
「ダメだ!」
悩む副社長を一刀両断したのは社長でした。
「社長!」
「あの仕事は誰にも代わらん!」
「でも嫌な仕事なんですよね?それぐらい僕たちが・・・。」
「ダメだ!」
「社長!お願いします!」
「私からもお願いします!」
「頭を下げてもダメなものはダメだ!あの仕事だけは俺とこいつでやらねばならんのだ!」
それ以上は取り合ってもらえませんでした。
それでも諦めきれなかった僕とAさんは副社長を飲みに誘って話だけでも聞くことにしたんです。
「さ!ここには怖い社長はいません!副社長、私たちに話してくれますよね?」
強引なAさんに押されてしまっては、最初は抵抗していた副社長でもポツリポツリと、話を聞かせてくれました。
「あれは、社長と会社を立ち上げて二年目ぐらいだったなぁ。当時の私と社長はとにかく名前を売りたくて、仕事という仕事を山ほど引き受けていたんだ。その中に、例のマンションの一室の床下点検があってねぇ。」
副社長は微妙な表情でしたが、昔を思い出している様子でした。
「よーし!今日はあと一件だな!」
「ええ。マンションの床下点検ですね。」
「軽い軽い!パパっと終わらせて飲みに行こうぜ!」
夕方、7時ぐらいだったかなぁ。
その日はね、一日に10件もの仕事を抱えた忙しい日だったんだよ。
だからそんな時間になってしまってねぇ。
「こんにちは!○○○○会社の者です!依頼を受けてお伺いに来ました!」
「・・・。」
扉を開けてくれたのは、ダボダボのスウェット姿の男性だったよ。
でも、不気味なほどに無表情でね。
「あ!どうも!私、○○○○会社の・・・。」
「床下。」
「はい?」
「・・・。」
それだけ言って、男性は部屋の中に入って行ってしまってね。
変だなって思ったけど、仕事をしようって社長に言われたんだよ。
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