第355話 百物語合宿~お題:いわくつき 中編その2~

「あの・・・すいません。少しお話を伺ってもいいですか?」

「・・・。」

「っ・・・。その、どのような感じなんですかね?例えば床が軋むとか、ネズミがいるとか。そういった何て言いますか、調べて欲しいことって言うんですかね。」

「・・・。」

「社長・・・。」

「あの、すいません。聞こえて、ますよね?」

「・・・。」

「社長、やめませんか?」

「馬鹿野郎!仕事を放棄できるわけねぇだろ!」

「ですが・・・。」

「声。」

「は?」

黙っていた男性はね、『声』とだけ答えたんだ。

それ以上は何を聞いても答えてくれないから、私たちは仕事をすることにしたんだ。

「どうですか社長?何か変なところはありますか?」

「いや、特にはねぇな。汚いと言えば汚いが、それだけだな。ネズミの糞もねぇし、音のするようなもんもねぇな。」

「では、掃除だけしますか?こっちも床を調べてますが、腐っているようなことも無いですし。」

「だな。」

そして私と社長は床下を掃除して帰ることにしたんだ。

「え~・・・っと、一応終わりましたよ。」

「・・・。」

男性は代金の入った茶封筒を差し出すだけで、結局何も言わなかったんだ。

それからちょうど1年、またしても同じところから連絡が入ったんだ。

「はいはいはい。床下点検ですね。了解しました!」

「社長、仕事ですか。」

「おう!早速行くぞ!」

マンションは変わらずだったけど、部屋の住人は変わっていたんだ。

「こんにちは!○○○○会社の者です!依頼を受けてお伺いに来ました!」

「どうも~。」

今度はラフな格好の大学生ぐらいの女性が出てきたんだ。

「聞いてくださいよ~。」

部屋に通されると、すぐに女性は話してくれたんだ。

「実は、あそこの床からうめき声みたいなものが聞こえるんですよ~。」

「うめき声、ですか?」

「そうなの!引っ越してから・・・一ヶ月かな?そんぐらいから朝にうめき声が聞こえるようになったんですよ~。最初は気にしなかったんだけど、毎日のように聞こえるから。ね!お願い!すぐに調べてくれないですかね?」

「わかりました。すぐに取り掛かりましょう。」

一年前と同じように社長が床下に入って調べたんだけど、やっぱり何もなかったんだ。

「何もないですね。」

「うっそ!?本当ですか!?」

「ええ。一応、掃除してみますね。」

結局、その日も掃除だけで終わってしまったんだ。

「どうもすみませんでした。」

「いえいえ。また何かありましたらご連絡ください。」

女性は腑に落ちない感じだったけど、何もない以上私たちには何も出来なかった。

けど、この依頼はその後も続いたんだ。

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