第332話 百物語合宿~お題:お経 前編~
「次は優の番ね。さぁ、引いてちょうだい。」
「よ、よし!」
何が出るかな~・・・っと。
やっぱりこの大きな紙が気になるな。
けど、もしハズレだった場合は・・・。
うん、ここは無難に・・・。
「では、これで。えっと・・・“お経”?」
「お!あたしのじゃん!」
お経って・・・これまた不思議なお題だなぁ。
「お経か・・・う~ん。」
「おや?早々とパスかな。」
「これは優殿が罰ゲームにでありマスかな~。」
「それはそれは。ごめんね優~。」
な、何か煽られている?
だが、このお題なら・・・。
「いえ、やります。こほんっ。これはある女性が子供の頃に経験した話です・・・。」
私が子供の頃の話しです。
私は両親の他に兄一人、姉一人の五人家族で家族仲が良く、兄妹間も珍しいぐらいに良好でした。
毎年のように家族旅行にも行っていたんです。
近所からも評判の仲良し家族だったんですが、ある年の家族旅行から帰ってきた時でした。
相変わらず仲良し兄妹でしたが、両親の間には微妙な空気が漂い始めたんです。
それが気になった私は、兄に相談したんです。
「お兄ちゃん。」
「ん?どないした?」
「なんか、変じゃない?」
「なにが?何が変なん?」
「わかんない。」
「はぁ!?」
「わかんないけど・・・なんか変だよ!」
「落ち着けって。ん~じゃあ質問を変えるわ。俺が変なんか?」
「ううん。お兄ちゃんじゃなくってお母さんとお父さん。」
「母ちゃんと父ちゃん?二人が変なんか?」
「うん。」
兄は私の深刻そうな雰囲気に何かを感じ、真面目に聞いてくれました。
「何が変なん?俺にも教えてくれへん?」
「うん。何ていうか、喧嘩しそうで喧嘩してないって感じ。」
「う~ん。喧嘩しそうなん?」
「たぶん。」
「そっか。よし!わかった!んじゃルールを設けよか。」
「ルール?」
「そうそう。もし、父ちゃんと母ちゃんが喧嘩したら兄ちゃんの部屋に来い。んで、収まるまでここにいな。」
「わかった。」
「あいつにも言っとき。」
兄は私の頭を撫でて、心を落ち着かせてくれました。
そして、私の感じ取った事は的中し、両親は些細なことで喧嘩するようになったんです。
「・・・おい。」
「ん?なに?」
「俺のハンバーグ、小さくないか?」
「はぁ?」
「家長の俺のハンバーグが一番小さいってどういうことだよ!!」
「はぁ!?何怒ってるのよ!」
「当たり前だろ!何で俺のハンバーグが小さいんだ!」
こんな感じです。
本当に、些細でどうでもいい事で両親は夫婦喧嘩するようになってしまったのです。
その度に私たちは兄の部屋に逃げ、兄が一人で両親を宥めてくれていました。
そんな毎日を送っていた時です。
姉が変なことに気づきました。
「ね、ねぇ。」
「何お姉ちゃん?」
「何か、聞こえない?」
「へ?」
姉は、何かが聞こえると言ったのです。
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