第333話 百物語合宿~お題:お経 後編~

「何が聞こえるの?どこから・・・。」

「しっ!」

耳を澄ました姉はゆっくりと部屋の中を歩くと、ある場所で止まりました。

そして耳を当てると、ボソッと言ったんです。

「これって・・・お経?」

「え!?」

姉の横で耳を壁につけて見ると、微かにお経のような声が聞こえました。

「これが、お経?」

「うん。」

「で、でも何で?」

「何でって・・・。」

「誰かいるの?」

いる訳がありません。

壁の向こうは両親の寝室で、姉と私は兄の部屋。

両親と兄は台所。

五人家族の私の家に、他に誰かがいるとは思えません。

「も、もしかして・・・泥棒!?大変!?」

慌てた姉は兄のバットを持ち、隣の部屋に走って行きました。

気になった私も後を追うと、姉は両親の寝室の前で立っていました。

「お姉ちゃん?」

開いた扉の先を見ると、誰も見えません。

そして、奇妙なことにお経も聞こえません。

私は姉の横をすり抜け、部屋の中に入り、驚きました。


・・・行深般若波羅蜜多時 照見五蘊皆空 度一切苦厄 舎利子 色不異空 空不異色 色即是空 空即是色 受想行識亦復如是 舎利子 是諸法空相・・・


外からは聞こえなかったのに、部屋に入るとお経が響いているのです。

「キャーーーー!!?」

それもとても大きな音で、驚いた私は力の限り叫びました。

その声で我に返った姉が、私を抱きかかえて兄の部屋に逃げ込みました。

声に驚いたのは姉だけでなく、兄や喧嘩していた両親まで驚いて駆け付けました。

「ど、どうした!?」

「お兄ちゃーーん!!」

泣きじゃくる私を優しく抱きしめ、姉は私の代わりに先程までのことを話してくれました。

「・・・は?父ちゃんたちの部屋からお経?」

「うんうん!本当なんだよ!私、驚きすぎて・・・。」

「まさかそんな・・・。」

信じられなかった両親は自分たちの寝室に行き、顔色を変えて戻ってきました。

「ほ、本当だ。」

「どうしてなのよ!?」

両親も訳が分からなくなり、動揺を隠せていない様子でした。

「落ち着けって。とりあえずこの場合は・・・。」

兄は終始冷静でした。

両親の部屋を確認してからすぐに近くのお寺に走り、すぐに住職を連れてきてくれました。

「これは・・・うむ。」

何かを感じ取った住職はすぐに同じようなお経を唱え始めました。

一時間ほどお経を唱えていると、いつの間にか住職以外の声は聞こえなくなりました。

理由はわからないが成仏を願っている者がいた、そう住職は言っていました。

それ以来、いつもの仲良し夫婦に両親は戻りました。

あれは本当に何だったんでしょうか。


「以上です。」

「うむ。確かにお題を満たした怖い話だね。」

よし!合格!

「はぁ~あ。“お経”ってお題は結構難しいと思ったのに。」

「残念でありマスね。」

「ま、他にも難題は用意してるから。優、あんたの番で引きなさいよ。」

ちょっ!?僕に罰ゲームさせる気かよ!?

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