第319話 研究成果報告~口裂け女について。その5~

「解説と言っても何を聞かされるのですか花咲さん。」

「最初に申し上げた通り、私たちは“口裂け女”は存在しないと言いました。その理由を解説するということです。」

「なるほど。続けてください。」

く、食いついた!?

「では失礼して。まずは口裂け女という話がどのように生まれたのかについて話します。」

スライドを変えてっと。

「そもそも口裂け女の歴史はとても浅いのです。幽霊や妖怪といったもの話は古くは鎌倉時代にもあったと考えられています。下手をすればもっと古いものもあるでしょう。ですが、口裂け女という話が出来たとされるのは1970年代です。」

「確かに・・・それほど古くはありませんね。」

「ええ。口裂け女の話しの発祥は多岐にわたりますが、最もポピュラーなのは母親の作り話です。」

「作り話ですか?」

「ええ。これは小学生のお子さんを持つ母親が、いつも放課後遊んでいて遅く家に帰ってくるお子さんを心配し、早く帰って来てほしくて作った話というものです。夏であれば日が沈むまで時間が長いですが、冬は短い。それを心配した母親が作った話だから真っ赤なコートを着ているのです。」

「それがどうしてこうも広まったのですか?」

生徒会長の関心が向いたな。

いい感じだ。

「そもそも、口裂け女の話しは単純なものでした。『冬の夕方、遅く帰ってくる子供を、口が大きく開いた女が食べてしまう。』その程度です。」

「え!?でも、『わたし、きれい?』はどうして?」

「いい質問だ君。まずは生徒会長の質問に答えよう。諸説あるが、この話を聞いた子供が他の子にも注意喚起したのがきっかけだ。それが子供たちの間でどんどん広まり、その話は大人の耳にも届いた。そうして噂が噂を呼び、口裂け女の話しは世に広まったのだ。その一助に、地方新聞にも口裂け女の話しは取り上げられたこともある。」

「一種の社会現象、ですか。」

「そう見て取れるな。そして君の質問に答えよう。噂というものは生き物でな。噂が広まって行くと、どんどん尾ひれがついて行くんだ。最初は“マスクをしている”。その程度だったのかもしれない。それが“足が速い”や“わたしきれい?”などの多くの尾ひれがつき、集約してできたものが、今の口裂け女の話しなのだろう。」

生徒会の人たち、既に式子さんの話術に取り込まれたな。

「先程、発祥は多岐にわたるとおっしゃいましたね。他にはどんなのが?」

「まずは恨み説。交通事故で顔に大怪我を負った女性が、本来の美しい顔を取り戻すために借金をしてまで手術を行った。が、結果は失敗。諦めきれなかった女性は何度も手術を懇願し、最終的に醜い顔になってしまった。それを苦に自殺。その怨念が口裂け女になったという話だ。」

「酷い・・・。」

僕もこれを聞いた時はそんな反応だったなぁ。

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