第274話 式子さんの怖い話~掻き毟る中編その3~

そしてTに押し切られる形で朝を待つことになったんです。

「いいのかよ?」

「仕方がない。Tは動こうとしないんだ。一人で放って置けないだろ。」

「そりゃそうだけどよ。」

「それに何も起きないだろう。現に、今こうして滝を見てもなんともないし、ここに来るまでに看板も無いのだから。」

「そういうもんか?」

「そういうことにしておけ。」

「・・・あの。」

「何だ?」

「なんか、Tの様子変じゃないですか?なんかいつもと違うような・・・。」

「A君も思った?俺もよ~。変だよなあいつ。」

「そうか?」

その時です。

『ギャーーッ!!』

悲鳴がしたかと思うと、頭を掻きむしりながらTがその場に倒れ、右へ左へとゴロゴロ転がりながら苦しみだしたんです。

「お、おい!?」

「T!!」

先輩二人がTに駆け寄りましたが、Tは呻くだけで何も答えません。

自分の意志とは無関係に頭を血が出るほど掻き毟り、Tは涙を流していました。

異様な光景に僕が固まっていると、C先輩が駆けだしました。

「助けを呼んでくる!!お前らはTを抑えろ!!」

言われた通り、Tを抑えようとしましたが、男二人の力をものともしない異常な力強さに、Tが頭を掻きむしるのを抑え込めませんでした。

むしろどんどん激しくなっているようで、どうすることもできなくて、僕は訳が分からなくなりました。

それからはよく覚えていません。

気がつくと祖父たちが血相を変えて走ってきて、Tを取り押さえました。

何処かのお婆ちゃんはTと滝、交互に塩を撒いていました。

そうこうしているうちにお坊さんが走ってきて、抑え込まれているTに念仏を唱え始めました。


朝日が昇るころ、Tは頭を掻きむしるのを止めました。

動かなくなったTはすぐさま救急車で病院に運ばれ、治療を受けることに。

僕と二人の先輩は大人たちに叱られました。

特に、僕は家に帰ってからも爺ちゃんにこっぴどく叱られました。

「ごめんなさい。」

「まったく!やっていい事とやっちゃいけねぇ事があんぞ!A!」

「本当にごめんなさい。」

「Tは間に合ったから良かったが・・・Aは何ともないんか?」

「特には・・・ねぇ、爺ちゃん。」

「あ?何だ?」

「謝っておきながらこんなこと聞くのは間違ってると思うけど、何であの滝には行ってはいけなかったの?」

「それは・・・。」

「お爺ちゃん、A君に話すべきじゃない?」

「B・・・お前・・・。」

「A君だって知っていたらこんな危険なことしないよ~。知らないから知りたくなちゃうんだもん。ね?」

Bさんが優しく宥めていると、お爺ちゃんは観念したように理由を話してくれました。

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