第261話 麒麟園さんの怖い話~二人の彼女後編~

あの日以来、部屋の彼女は消えた。

僕に霊感が無くなったわけではない。

一歩家の外に出て歩けば、あの笑って立っている人たちは見える。

じゃあ何で彼女は消えた?

僕の中のモヤモヤが晴れないままに月日は流れた。

「ねぇA君!大学はどこ行くか決まったの?」

「いや。」

あれから積極的に関わってきたBさんに根負けした僕は友達として彼女と接している。

Bさんは毎日楽しそうでニコニコ笑っている。

けれど成長していく彼女の笑顔はますます部屋にいた彼女に似ていて、僕はどこか変な感じだった。

「今日もいない・・・か。」

部屋の彼女はいない。

それが何だか寂しくもあり、ホッとしてもいる。

実に不思議な感覚だったからだろう。


そんな日々を忘れ、大学生になって三年。

僕はBさんとお付き合いすることになった。

これだけ一緒に過ごせば惚れる。

告白はもちろん僕からだった。

すると彼女は嬉しそうに笑い、あることを話してくれた。

「夢が叶ったよ。」

「夢?」

「うん。実はね。小さい頃からある夢を見ていたの。」

転勤が多かったお父さんのせいでBさんは友達が一人も出来なかった。

母親のいないBさんはいつも一人で過ごす。

そんな毎日が嫌で、帰り道にある神社で願ったそうだ。

“友達は出来なくてもいい。でもせめて恋人は欲しい”と。

その日から夢を見るようになったそうだ。

「始めはそこが何処だかわからなかったの。一人の男の子が過ごしている部屋でね。」

Bさんは大人の姿で嬉しそうにその男の子を見ていたんだそうだ。

その子の成長が何故だか愛おしく、話しかけてくれることが楽しかったそうだ。

「でね、あの中学に転校してA君を見つけたの。夢に出てくるそっくりの男の子がいるって。だから私、A君が運命の人なんだって。」

だから積極的に話しかけてきた。

無視は辛く、諦めようとも思ったそうだ。

でも夢を見ては笑顔の僕が話しかけてくる。

それが嬉しくて。

「だからね。絶対に諦めないって決めたの。そしたらお父さんの転勤も穏やかになって。A君のお隣さんになったの。」

「そうだったんだ。」

「でね、その日からなの。夢を見なくなったのは。不安だったけど、諦めなくって良かった!A君!大好き!」

これが僕が体験した不思議な出来事。

僕が見ていた部屋の彼女は夢の中のBさんだったのかもしれない。

いなくなったのはBさんと仲良くなったからかもしれない。

嬉しそうに抱き着く彼女を僕は・・・。


でも、ならなぜ僕に見えたのだろう。

僕は幽霊しか見えないはずなのに・・・。


「以上でありマス!」

何とも不思議な、説明のし難い恐怖を感じるなぁ。

「ふふっ。実にユニークな話だ。夢の中の彼女と言っているが、果たして本当だろうか。もしかしたら・・・ふふっ。」

いつにも増して今日の式子さんのホラーな考えが僕にも共感できるよ・・・本当に。

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