第246話 式子さんの怖い話~そのカルテは・・・。前編

「それで?今日はどんな話なんですか?」

「そうだな・・・今日は私が話そう。」

お!式子さんの怖い話!

「へ~。自分からネタを減らすの式子。」

「合宿までまだ時間はある。それまで全てを優君に押し付けるのは些か卑怯かと思ってね。」

「そ、それは・・・そうね。」

「星夜が来れば強制的に話させるが、今はいない。なら、私が話そうと思ってね。」

神楽坂さんは合宿に参加できないから強制なんだ・・・羨ましいような、この状況だとそうでもないような・・・複雑な感じだなぁ。

「だから柑奈、明日は君に頼もう。」

「うげっ!・・・はぁ。しゃあないか。」

「それで式子君、どんな話だい?」

「これは、ある中年男性の話だ・・・。」


某有名大学の医学部を卒業した私は、親のレールの上を歩き続けることに不満を感じ、医師にならずに様々な職業を転々として来た。

ある時は単なるサラリーマン、ある時は塾講師、そしてまたある時はコンビニの店長。

色々やってきたが、これといった私のやりたい職業は無かった。

そんな時だった。

父が脳梗塞で倒れ、病院を継いでほしいと懇願されたのは。

正直な話、断ろうと思った。

医師免許は持っていてもフラフラしている息子を、父が懇願したとはいえ、病院に勤める他の職員たちが認めないんじゃないか?と。

だが、私の頭の中とは裏腹に職員たちは私を歓迎した。

結局医師になった私、そんな私が体験した奇妙な出来事をこれから話していこうと思う。


「はい。もういいですよ~。」

「先生、息子は・・・。」

「うん。ただの風邪ですね。お薬を出しますので、しっかりと食後に飲ませてくださいね~。」

「ありがとうございました!」


それはいつも通りに子供の診査をした日だった。


「先生、いよいよ様になってきましたね~。」

「ハハハ。ありがとうA君。でも、私はまだまだだよ。」

「またまた~。先生は昔から謙虚なんですから。」


Aさんは長年看護婦としてうちの病院に勤めてくれている。

入院している父に聞かなくても、大概のことはAさん聞けばわかるぐらいベテランである。

ただ、欠点をあげるとすれば・・・。


「先生、そろそろ観念してお見合いしましょうよ!私、良い人をじゃんじゃん紹介しますよ~。」


このように私を早く結婚させようとしているのだ。

気持ちはわからなくもない。

40にもなって彼女もいなければ、結婚経験もない。

おまけに父親は入院し、母親は毎日のようにお見舞いに行っている。

病院運営は上手くいっているが、現状私の代で終わってしまうのも事実。

暗いニュースばかりから明るいニュースの一つや二つ欲しいのだろう。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る