第216話 神楽坂さんの怖い話~おいでよ。中編その1~

それは9月ぐらいだったそうです。

昼の時間帯、まだ暑い時期です。

母は中庭が不思議と涼しいことから過ごすことが多かったそうです。

いつものように母が石椅子に座っていると、見られているような視線を感じたそうです。

「ん?誰かいるのかな?」

辺りを見回し、不意に閉鎖された建物を見ると、そこには浴衣姿の女性がたっており、母を見つめていたそうです。

「え?誰かな?」

祭りの時期でもないし、何で浴衣?って思いはしたそうなんですが、別段怖い感じも無かったため、最初は無視していたそうです。

付け加えて話すと、この頃の母はまだこの建物が病院跡地だということを知らなかったそうです。

母が家に帰る際、振り向くとその女性はまだそこに立っていたそうです。

「ねぇお母さん。」

「何よ?」

「変なこと聞いてもいい?」

「相当変じゃなければね。それで?何よ。」

「今って、研修してる人いる?」

「はい?研修?研修のお兄ちゃんやお姉ちゃんが来るのは夏だって言ったじゃない。」

「だよね。うん、そうだよね。」

「何?それがどうしたの?」

「あのさ・・・建物にね、その・・・。」

「何よ?ハッキリ言いなさいA。」

「建物に、女の人がいたの。」

「女の人?建物の外にかい?」

「ううん。中にいたよ。」

「んじゃ、忘れ物でも取りに来たんじゃないの?」

「そうかな?お母さんが入っちゃダメって言った建物の中にいたんだよ?」

「はい?それって誰かが勝手に入ったのかい?あの建物に?」

「たぶん・・・。」

「・・・Aの目は嘘をついてないね。」

「嘘じゃないもん。」

「わかってるわよ。昔っからAは嘘をつくときは目を見ればわかるもの。きっと勝手に入った馬鹿たちがいるのね。気にしないことよA。」

「うん。」

「そんなことよりご飯の準備、手伝って。」

「は~い。」

その後、念のため母の両親が見回りをしましたが、誰もいなかったそうです。

けれど、母はその女性にすぐに再開したのです。

「・・・今日もいる。」

次の日、母は中庭に行くとすぐに女性のいた場所を見ました。

すると、昨日と変わらない浴衣を着て立っていたそうです。

母がなんとなく会釈すると、女性は少し驚いた後に、微笑んできたそうです。

その微笑が母の警戒心を薄れさせたそうです。

「あの・・・。」

「・・・。」

「そこで何してるんですか?」

「・・・。」

「わ、私!この近くに住んでるAっていいます。あなたは誰ですか?」

「・・・。」

母が話しかけてもその女性は微笑むだけだったそうです。

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