第212話 高宮君の怖い話~鳴らない電話機中編その3~

しばらくするとインターホンは鳴りやみ、俺は少しだけホッとしました。

「い、いなくなったのか?」

そう願いドアモニターを除くと、女がひょいっと頭を下げてドアモニターのカメラを覗き込んできたんです。

(!?!!?!?!!?)

声にならない叫びを必死に抑えながら見てみると、女は下手くそに塗られた口紅の口でニタァっと笑い、歯を剥き出しにしていました。

目は黒目が全く無く、真っ白な目がまるで石のように見えました。

「Aさん!Aさん!!いませんかー!?てか、会いに来ましたよー!!」

電話の時と同じく明るい女の声がインターホンを通して、静かな社内に響き渡りました。

俺は恐怖からモニターから目をそらせないでいました。

女はカメラに更に近づくと、真っ白な目がモニターいっぱいに広がりました。

女に気にした様子はなく、なおも明るく呼び掛けてきます。

「Aさん!いないですかー!?Aさん!!ねぇ!ちょっとー!!」

口元に手を抑えて見ていると、女の顔が次第に前後に揺れ始めました。


『A、さ、アーーーンんーーー!?!!?』


女の声が先程の電話と同じように、野太く変わりました。

(いい加減にやめてくれ!!さっさと消えてくれよ!)

そう願った時でした。

急に女の姿がフッとモニターから消えたのです。

「・・・え?」

俺はしばらくモニターの前から動けませんでした。

帰りたかったのですが、またあの女がいつ現れるかわからず、怖くて帰れませんでした。


気がつくと、ぼんやりと明るくなってきた外の景色を見て、朝が来たのだとわかりました。

恐る恐る玄関へ近づいてみましたが、人の気配はありませんでした。

「お、終わった・・・。」

気が抜けて、その場に座り込むと、何かが落ちていました。

「ん?何だこれ?」

それは茶封筒でした。

拾い上げて中身を見てみると、人型に切られた紙が入っていたのです。

「何だこれ?気持ち悪いな。」

さっきのこともあり、俺はこれ以上気味の悪い出来事はご免だと、その紙切れを茶封筒に戻し、ビリビリに破いてゴミ箱に投げ捨てました。

「はぁ。嫌な朝帰りだな。」

もうすっかり明るくなった帰路を軽く文句を言いながら、家にたどり着きました。ほぼ徹夜だった事もあって俺は泥のようにに眠り込みました。

そして事件は起きたのです。

週明けの月曜日、俺は嫌々ながらも会社に出社しました。

そこでA主任の訃報を聞かされたのです。

「電車に撥ねられてバラバラだとよ。嫌な週明けになっちまったな。」

それは金曜日の夜に起こりました。

遺体は原型を留めないほどバラバラになっていて、持っていた免許証から辛うじてA主任だろうと判明したのです。

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