第170話 麒麟園さんの怖い話~1時間の彼女中編その1~

仕方がなく103号室に挨拶に行くと、そこには老人が住んでいました。

「何じゃ?」

「今日から101号室でお世話になることになりました。よろしくお願いします。これ、粗品ですが・・・。」

「おお!すまないね。」

「あの、一つ聞いてもいいですか?」

「ん?何じゃ?」

「隣の102号室なんですけど・・・。」

「お隣さんか?う~んワシは見たことねぇな。」

「そうですか。ありがとうございました。また何かあったら教えてください。」

「ああ。おっと、言うことが一つあったわ。お前さん、202号室には行かない方がええ。」

「え?何でですか?」

「あっこさん、おかしいんだよ。」

「おかしいって・・・何がですか?」

「扉を見ればわかる。悪いことは言わねぇ関わんねぇほうが良い。」

「・・・わかりました。ご忠告ありがとうございます。」

老人と別れた後、男子学生は二階の挨拶回りをしに行きました。

201号室は中年の女性で、203号室は若い夫婦でした。

そして202号室は・・・。

「なんだこれ?」

お札がびっしりと貼られていました。

「あんた。」

「は、はい!」

202号室の扉を見ていると、201号室の中年の女性が声を掛けてきました。

「悪いことは言わないからそこの人とは関わんないほうが良いわよ。」

「あの、何か知ってるんですか?」

「ここだけの話し、お隣さん“お帰り”何だってさ。」

女性の言う“お帰り”の意味を男子学生はこの時は知りませんでした。


「ただいまっと。」

アパートに住んでしばらく経ったある日の出来事。

男子学生がいつものようにアルバイトから帰ってきて色々と済ませた時です。

普段は寝てしまうのですが、その日はレポートを遅くまで作っていたのです。

「・・・これでいい、かな?っと。ふぅ。」

背筋を伸ばし、肩を鳴らしてベットに横になった時でした。

「ん?」

隣の部屋から人の気配がしたのです。

アパートに引っ越してからこれまで人の気配がしなかった隣の部屋からです。

「今なら挨拶に・・・って遅いよなぁ。」

時刻は深夜でした。

「・・・もしもし。」

「え!?」

諦めかけていた時、隣の部屋から話しかけられたのです。

「クスクス。やっぱりお隣さんですね?」

「あ、はい!今年の春から引っ越して来ました!」

「こんばんわ。」

「はい!こんばんわ!」

「ごめんなさい。私、普段家によりつかないからこんな時間になっちゃって。」

「い、いえ!あ、そうだ!あの、ご挨拶に伺っても・・・。」

「う~んそれは勘弁してほしいかなぁ。今、すっぴんだし。ね、それよりもお話しようよ。」

その日から隣の部屋の女性と話す機会が増えて行ったのです。

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