第171話 麒麟園さんの怖い話~1時間の彼女中編その2~

それは他愛もない話なかり。

けれど、男子学生にとっては嬉しい時間でした。

「いつもごめんね。こんな時間しか時間取れなくって。」

「い、いえ!大丈夫です!」

「でも驚いたなぁ。まさか隣の部屋の持ち主が大学3年生だなんて。ここって駅が遠いから大学生には人気無いのに。」

「いや、それなら俺も驚きましたよ。まさかお隣が看護婦のお姉さんだなんて。」

「もう、お姉さんって年じゃないよ。」

「いやお姉さんのお姿を見てないからわからないですよ。でも、声は若いと思います。」

「クスクス。君って結構面白い子だね。よく言われない?」

「よくは言われないですよ。てか、いい加減にお姉さんの勤めている病院を教えてくださいよ。俺、通いますから。」

「ダ~メ。それじゃあ私が仕事にならないもん。君、結構イケメンだし。」

「え!?俺のこと見たことあるんですか!?」

「あるよ~。君、駅前のコンビニで働いているでしょ?私、利用するもん。」

こんな幸せなひと時、男子学生が恋に落ちるのに時間はかかりませんでした。

毎日会いたい。毎日話したい。

そんな思いが男子学生の中で大きくなっていくが、彼女と会えるのは深夜の1時間。

それ以上は相手にも迷惑になり、話すこともできない。

一目だけでもと思い、一日張り込んだ時もあったが出会うことは無かった。


「はぁ~お姉さんに会いたいなぁ。」

それはバイト帰りでした。

「・・・おい。」

男子学生はしわがれた声の男に呼び止められたのです。

「・・・あの、俺、ですか?」

「・・・お前、101号室か?」

「えっと・・・貴方は?」

「あいつはまだ、いるのか?」

「あいつって・・・何の話ですか?」

「とぼけるな!隣の部屋!102号室の女だ!」

明らかに怪しい男性。

男子学生は嘘をつくことにしたのです。

「し、知りません。俺、急いでいるんで。」

「待って!あいつに関わるな!あいつは!」

男性の制止を振り切り、男子学生は全速力で家に帰りました。

その日の夜、男子学生は看護婦のお姉さんと話しましたが、男性のことは話しませんでした。

「ねぇ、なんか元気ないよ?どうしたの?」

「な、何でも無いです。」

「嘘だよ。君、明らかに元気ないもん。何かあったの?」

「いや、本当に何でもないですよ。というより、壁越しで表情なんて・・・。」

「見えるよ。」

ドキッとしましたが、そんなわけないと思い、男子学生は早々に話を切り上げて眠りについたのです。

翌日、男子学生は友人に昨晩の出来事を話すことにしたのです。

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