第108話 学校の怪談~その5~

「以上が『生物室の魔物』だよ~。」

聞いたことない話だな。というか・・・。

「あの・・・。」

「ん?どったの優ちゃん?」

「新堂さんは大丈夫ですか?その・・・。」

「あ~大丈夫大丈夫。怖い話を聞くといつもこうだから~。」

怖がって抱き着いて来た新堂さんの背中をさする安楽川さんはなんだかんだ部長なんだなって思う。

「いや~俺はてっきりトイレの花子さんとか音楽室のピアノとかを想像してたっすよ。」

僕も高橋に同意だな。

こんな学校の七不思議聞いたことがない。

「あ~トイレの花子さんはこの学校には無いけど、『トイレのお菊さん』ならあるよ。」

へ?何それ?

「むふふ。話してしんぜよう。」


男子学生は、野球に毎日打ち込んでいました。

来る日も来る日も練習練習の日々。

そんな彼に春が訪れたのは練習が早めに終わったある日のことです。

男子学生は練習が終わっても自主練をしようと、旧校舎の近くでバットを振っていました。

ふとした拍子に、上を見上げるとそこには窓から外を眺める美しい女子学生がいたのです。

その女子学生は美しい黒髪を緩やかなに風で揺らし、どこか寂し気な表情で空を見ていたのです。

「綺麗だ・・・。」

その魅力に男子学生はすぐに恋に落ちました。

けれど勇気の無かった男子学生は声を掛けることができずにいました。

来る日も来る日も自主練と先輩に嘘をついて旧校舎に通う日々。

「どうすればいいんだろう・・・。」

想いは日に日に大きくなるが、彼は彼女のことを何も知りません。

「もっと彼女のことを知りたい。」

そう口に出して言えば、彼の中で勇気が湧いてきたのです。

次の日、彼は勇気を出して声を掛けてみました。

「ねぇ。」

聞こえていないのか、彼女に反応はありません。

「ねぇ!」

空を眺めながら動かない彼女にもう一度、大きな声で呼びかけました。

「ねぇってば!!」

「ッ!?」

流石に気づいたのか、彼女は慌てて辺りを見回し、男子学生と目が合ったのです。

「・・・。」

「あの!」

「・・・私?」

「そう!君だよ君!そこで何してるの!」

「あ・・・私は・・・。」

それだけ言い残して彼女は逃げてしまいました。

それでも諦めきれなかった男子学生は何度も声を掛け続けました。

その結果、彼女は少しづつ話してくれるようになったのです。

「へ~菊って名前なんだ。」

「うん。」

「なぁ菊、毎日空を眺めているのか?」

「うん。あの空に行きたいの。」

「空に何かあるのか?」

「・・・。」

「まぁいいか。なぁ菊、そっちに行ってもいいか?」

「ダメだよ。」

「いいじゃん。もっと菊の側に行きたいんだよ。」

「それは本当にダメなの。」

男子学生の気持ちとは裏腹に菊は近づくことを許しませんでした。

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