第75話 神楽坂さんの怖い話~迫りくるもの中編~
「何だよあれ?」
Aさんは唖然としながらも双眼鏡でその人を追っていました。
物凄い速さで走って行くその人は迷うことなく、青ざめた顔の男性のマンションに入って行きました。
「まさか!?」
嫌な予感がしてAさんが窓をみると、そこには先程の男性はおらず、代わりにその人が立っていました。
「こ、殺されたのか!?」
警察に通報するかどうか、Aさんが悩んでいると、その人は窓の外に向かってこう言っていたのです。
『つ・ぎ・は・お・ま・え・だ。』
その言葉はまるでAさんに言っているような感じがしました。
怖くなったAさんは逃げるように自分の部屋に入り、閉じこもりました。
「き、気のせいだ。うんそうだ、気のせいに違いない・・・。」
それから一週間、Aさんは屋上にはいかず、双眼鏡ものぞきませんでした。
そのおかげかは知りませんが、Aさんには何も起きていません。
「・・・久々に、やるか?」
夕ご飯を食べながら窓の外を見ると星空が綺麗だったため、Aさんは久々に双眼鏡を手に屋上へ行きました。
久々に見る夜の街は相変わらずの静かさで、いつも見ている街とは別の世界に感じました。
「さ、さて!」
緊張しながら双眼鏡を覗くと、Aさんの見たかった景色が視界に入ってきます。
「へへっ。やっぱりいいなぁ。」
遠くに見える大きな給水タンク、ぽつんと佇むまぶしい自動販売機。
いつも見ていた景色が輝いて見えるほどに、Aさんは感動していました。
だが、まだ安心できない。
確認しなければならない場所があるからだ。
Aさんは一歩、また一歩と西側に向かい、ゆっくりと双眼鏡を覗く。
「・・・あれは酔っ払い。あれは・・・ジョギングだよな?・・・いない?いない、よな?いないんだな。」
長い坂道を双眼鏡で覗きましたが、あの人はいません。
「はぁ~平和な日常だ。んじゃ、あの美人さんでも見るかなぁ。お、いたいた・・・ん?」
既視感を覚えるような青ざめた表情。
背中に冷たいものを感じながら女性の視線の先を双眼鏡で覗くと、あいつが長い坂道の一番上のほうから物凄い勢いで下ってくるのが見える。
「・・・は?」
その時、初めて姿が見えた。
あいつは全裸でガリガリに痩せた子供みたいな奴だった。
「き、きもちわる!?」
Aさんの言葉に反応したのか、満面の笑みを浮かべながらこっちに手を振りながら猛スピードで走ってきます。
それは明らかにAさんの存在に気付き、時々Aさんと目も合います。
そして気づいたのです。
そいつの向かう先が自分のマンションであることに。
「や、やべぇ!?」
Aさんは慌てて階段を下り、家の中に逃げ込みました。
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