第26話 藍川さんの怖い話~クチャーニ中編~
「あれは、私が中学生に上がった頃です・・・。」
藍川さんは嫌な記憶を思い出すのを耐えるように、自分のスカートを握りしめていた。
私が中学校に上がって、最初のクラスには知的障害の男の子がいました。
その子は国語の時間での音読が上手く読めず、いつも周りから笑われていた。
「へへっ。何だよあいつ。」
「まともに字も読めないのかよ。」
「ダサ。」
その子は音読だけでなく、文字も上手く書けず、運動も出来ませんでした。
それが先生たちにも何となくわかってくると、一ヶ月もしないうちにその子は先生に音読を読まされることも、数学で黒板に書かされることも、運動も出来る範囲、もといやらなくてもいいという共通認識が生まれました。
それが、気に入らない男子たちが徐々に増えていきました。
「やい!お前の音読きもいんだよ!」
そう言って男子は男の子を蹴ったり。
「気持ち悪いから学校来んなよ!」
そう言って男子に突き飛ばされたりする毎日です。
それでも男の子は毎日休まずに学校に通いました。
それが男子たちの怒りを余計にあおり、クラスの男子全員にリンチまがいのこともされました。
「やれやれ!」
「おらおら!」
複数人で囲んで殴る蹴るの嵐、それを遠目に見て笑う女子。
クラスは知的障害の男の子をイジメているのではなく、悪い敵を倒すための暴力だと皆は思っていました。
でも、私のような気の弱い女子は無視することでしか自分を守れなかったんです。
そんな日々が続いたある日、そう夏休み明けの出来事です。
その日も同じように男の子は虐められていました。
男子が殴るのに飽きて去って行くと、私は何だか無性に声を掛けたくなって、気がついたら男の子の側に立っていました。
すると、小さな、つぶやくような声が聞こえてきたんです。
「・・・-二・・・チャーニ・・・。」
「え!?」
気になった私が耳を澄ますと、男の子はこう言っていたんです。
「クチャーニ・・・クチャーニ・・・。」
何度も何度も念じるようにつぶやいていたんです。
どうしてそんなことをつぶやくの?って思った私は男の子に聞こうとして体が凍り付きました。
男の子はその言葉を笑いながら言っていたんです。
怖くなった私は、その時は逃げ出しました。
でも、どうしても『クチャーニ』という言葉が頭から離れませんでした。
それからもまた一学期のように二学期も三学期も、2年生になっても3年生になっても虐めは続きました。
クラスが変わっても無理やり連れて行かれて殴られていました。
その度に男の子はこう言うのです。
「クチャーニ・・・クチャーニ・・・。」って。
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