45.5話 鉄の巨大猪
紫音は鋼の剣を構え直すと、ありったけのオーラを剣の刀身に溜める。刀身には周りから見ても、明らかに大量のオーラが剣に宿っていた。
後退したアーマーボア達が再度脚で地面を回引っ掻いた後、再度突進を開始しロックウォールにぶつかると岩の壁は呆気無く砕け、巨大猪のスピードを緩めたが突進は続く。
その様子を見た紫音はオーラを宿した剣を高く上げると
「逝け、アーマーボア! 忌まわしい記憶とともに!!」
紫音はそう言うとそのまま剣を振り下ろす!
その剣から放たれたオーラは光波ではなく、巨大なビームのようになって軸線上に居たアーマーボア、オーク、そして組み立てを終えた投石機一台を運良く消し飛ばすことに成功する。
だが、鋼の剣は予想通り強力なオーラに耐えきれず柄から砕け散って、紫音の手や腕などを負傷させる。それに加えオーラを大量に消費した紫音は、全身から力が抜けてその場に膝から崩れ落ちてしまう。
「どうだ…… 走る鉄…… 私はもうアンタなんかには殺されない…………」
紫音は膝をつき正座のような座り方で、力弱くそのように呟くと気を失って地面に倒れる。
「シオン!!」
クリスは隣で倒れる紫音の状態を確認し、手の傷を見てすぐさま彼女を引きずって後方に連れて行く。
「ヒーラー、回復を!」
「シオン、しっかりしなさい! シオン!!」
ヒーラーが紫音を回復している間に、クリスは気を失った彼女の意識を呼び戻すために何度も呼びかける。
隣の仕切りの前で紫音の活躍を見たスギハラは、居合の構えでオーラを刀に溜めながらそう呟いた。
「おいおい、目立ち過ぎだろう」
そして、アーマーボアが、岩の壁を破壊したと同時に居合斬りでオーラを放つ。
「閃刃!」
居合斬りで高速で飛んでいく光波はアーマーボアを横一文字に切り裂く、そこに他の者達が放ったオーラウェイブがダメ押しで命中し魔石に姿を変えていく。
要塞を守る精鋭の兵士が放つ、複数のオーラウェイブがアーマーボアにダメージを与え突進を鈍らせる。
「魔法剣フリーズ!」
ユーウェインはそのアーマーボアに突進すると、接触する瞬間に斜め横に躱して魔法剣フリーズで切りつけながらその横を斬り抜けた。
魔法剣フリーズは、氷系最高位魔法フリーズを剣に掛け斬りつける技で、魔法使いの使用するフリーズは複数(広範囲)の敵を対象にしているが、魔法剣の対象は単体だけとなっているが威力は同じとなっている。
魔法剣フリーズを受けたアーマーボアは暫く走った後、フリーズの魔法により巨大な氷の柱となってそのまま砕け散った。
「隊長の魔法剣は相変わらず派手だな、俺らも負けてられないな!」
その横の仕切りを担当している四騎将の一人タイロン・ドレイファスが、そう部下達に言って士気を上げる。
タイロン・ドレイファスは体格がよく屈強な体をした、頼れる兄貴分といった感じを受ける戦士で、重装鎧を纏い【女神武器】ブルトボルグを前線で勇猛果敢に振るう姿に、兵士達の支持も高い。
「いくぜ、ハイオーラウェイブ!!」
タイロンは大剣を軽々と振り、強力な光波を放つ!
強力な光波を受けたアーマーボアは蹌踉めき、そこに部下達のオーラウェイブが追い打ちし、止めとばかりに魔法が炸裂する。
「よし、よくやったお前達、このまま行くぞ!」
撃破した後、タイロンは勢い付けるためさらに兵士達の鼓舞をおこなう。
その横では、最後の五つ目の仕切りを任されている四騎将のエスリン・ネスビットが、神聖魔法を詠唱する。彼女は最年少でまだ20歳だ。
元はフェミニース教団の聖騎士であったがユーウェインに、その力を見込まれてスカウトされ騎士団に転入した。
外見はまだ美しいよりも可愛いという表現が合っており、金髪のショートボブで銀色の鎧と小型の盾を装備し、【女神武器】フラガソラスを持っている。
エスリンは突進してくるアーマーボアに向かって神聖魔法を唱えた。
「ゴッデスシールド!」
女神フェミニースの聖印が五つ目の仕切りの途中に現れ、魔力の盾を創り出す。
突進してきたアーマーボアはその魔力の盾に、体当たりをするが打ち負けて突進を止める。
そこに城壁の上のリディアがハイオーラアローを当て、それと同時に複数のオーラウェイブが追撃してダメージを与えた。
そのダメージでふらつくアーマーボアの遥か頭上に、大きな女神の聖印が現れた。
「ゴッデスレイ!」
エスリンがそう唱えると、上空の聖印から光の柱が降り注ぎアーマーボアを消し去る。
「これが、女神の裁きの光よ!」
こうして、強敵アーマーボア五体は全て撃破された。
その頃――
「またしても、わたくしのティーカップが……。シオン様に何も無ければいいのですが……」
アリシアがミレーヌの執務室でお茶を飲んでいると、またしてもティーカップが壊れてしまう。
「アリシア様。要塞には現段階での最高戦力が、揃っているのだから大丈夫ですよ」
(ミリアちゃん。そして、他のみんな… 無事に帰ってきてくれ)
ミレーヌは心配するアリシアを安心させながら、そう心の中で一同の無事を祈っていた。
次回
「イケメン要塞攻防戦!」
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