36.5話  新PT実戦開始と思ったら






 リズはイーグルアイで周りを索敵していると、誰かに見られていることに気づく。

 隠れる場所がない平原であったため、相手も身を上手く隠せなかったようだ。


「シオンさん、誰か知らない人がこっちを見ているッス」

「ミレーヌ様じゃないの?」

「いえ、違うッス」


 リズがそう報告すると、紫音は前科のある人の名前をあげるが、リズは否定する。

 紫音一行をイーグルアイで見ていた少女は、見つかったことに気付くと急いで栞で連絡をおこなう。


「見つけた……。街の東1キロの草原……。相手に見つかったので急いで……」


 淡々と連絡する少女。


「わかったわ、急いでそちらにソフィーを向かわせるわ」


 すると、少女の栞に返信が返ってくる。


「リズちゃん。まだ、その人こっちを見ている?」

「はい、バッチリ見ているッス。開き直ってしゃがみもしてないッス」


 リズの報告に、ヘタレポニーは少し不安を覚えミレーヌとの約束もあるので、何か起きる前に街への帰還を決断した。


「なんか怖いな……。一旦街に戻ろう」

「それがいいかもしれませんね…」


 紫音の帰還の判断にエレナも賛同すると、一同は街に向かって歩き始める。

 そんな紫音たちを追跡する見張りの少女が、紫音達と一定の距離を保ちながら歩いていると、後ろから声をかけてくる者が現れた。


「いたいた、ノエミ! ソフィーさんが来てあげたわよ! シオン・テンカワ達はどこかしら?」


 それは、前日紫音と激戦(?)を繰り広げたツンデレ少女ソフィーで、ノエミと呼ばれた寡黙な少女はリズと同じジト目気味の目で、チラリとソフィーを見るとシオン達の方を指差す。


「アレね……。さすが偵察猟兵ね、こんな所にいるのを見つけるなんて。私もアンタに頼むんだったわ!」


 そう言うとソフィーは、シオン達に向かって走り出す。

 紫音達は自分達を監視している相手に警戒しながら、取り敢えず街道まで戻って来ていた。


「誰かこっちに向かって、凄いスピードで走って来てるッス!」

「私達を監視している人?」


「いえ、その人は遠くに居るッス。アレは…… 昨日のツンデレお姉さんッス!」

「昨日のツンデレお姉さん?! ソフィーちゃんもうリベンジに来たの?!」


 リズの報告を受けた紫音は、流石に昨日の今日で来ないと考えていたので、少し虚を突かれてしまう。


(それともお姉様って人かな……)


 そして、昨日のソフィーの捨て台詞を思い返していた。


「あと、シオンさんと同じで、相変わらず揺れていないッス!」


「そんな方向はいらないよ!? あと私の名前を一緒に出す必要ないよね!? っていうか、お姉さんは少し… ほんの少しは揺れているからね!」


 紫音はリズの必要ない報告にツッコミを入れつつ、自分の事についてはしっかりフォローする。


 そうこうしているうちに、ソフィーは自慢のスピードで紫音達の前に出ると、通せんぼするように両手を広げて紫音達にこう言ってきた。


「昨日はどうも、シオン・テンカワさん。これから私達に少しお時間頂けるかしら?」


(両手を広げて道を遮っている時点で、通す気がないのに…)


 紫音はそう思いながら、ソフィーに尋ねることにする。


「私達ってことは、昨日言っていたお姉様って人が今日の相手かな?」

「話が早くて助かるわ。そう言うことよ」


「私達も暇ってわけじゃないッス、ツンデレお姉さん!?」

「そう……、じゃあ、仕方ない!」


 リズが皮肉でそう答えると、ソフィーは高速移動してミリアの背後につく。


「この子がどうなるかわからないけどいいの?」


 そして、ミリアの両肩を掴み少し悪い顔でミリアを人質にとる。


「ぅぅぅぅぅぅ……」


 だが、ミリアが突然の出来事で泣きそうになってしまい、それを見たソフィーは驚いてミリアを解放する。


「も……もう、泣かないでよ! 別に本当に酷いことしないわよ! 少し脅したかっただけよ。だからもう泣かないでよ…」


 そして、ソフィーはミリアを昨日と同じ様に宥めはじめた。


(あのお姉さん、昨日の今日でこうなるのが解っているのに、学習能力がないんッスかね……)


 ソフィーがミリアを宥めている光景を、リズはそう思いながら見ている。


「そのコート似合っているわね、可愛いじゃない」

「私の……、叔母さんが……買ってくれたの……」


 ソフィーがミリアを宥めるためにコートを褒めると、ようやくミリアが泣き止んで小さな声で答えた。


「そう、良かったじゃない。いい叔母さんね」

「はい」


 ミリアは嬉しそうに答える。


「私達、何を見せられているッスかね?」


 リズのこの発言にエレナはこう答えた。


「なんか微笑ましくって、いいのではないでしょうか?」


「エレナさんの言うとおり、危害を加えるつもりは無いみたいだし、いいんじゃないかな? それにミリアちゃんが、私達以外とお話するのはいいことだと思うよ」


 紫音も続けてこう答える。

 自分以外の年上お姉さんと仲良くするのは少し寂しくもあるが、それでミリアの人見知りが改善されるなら、それは彼女にとって良いことだろう。


「たしかにそうッスね」


 人質事件から、なんか良い話風になってしまったのであった。


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